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アレン細胞と政略結婚【十八】


 クラウンさんは、真っすぐ俺の目を見て「大人になれ」と言った。


(……多分、彼の言っていることの方が正しいんだろう)


 現実的に俺たちが帝国へ行ったところで、会長を救い出せる確率は低い。

 普通に考えれば、ほとんどゼロパーセントだろう。


 なにせ今回の敵は、あの神聖ローネリア帝国。

 魔族と手を組み、テレシア公国を落とし、全世界へ攻撃を仕掛けた悪の超大国だ。


 俺たち学生が出張ったところで、会長の奪還は困難を極める。


(そして失敗すれば……確実に死ぬ)


 クラウンさんの言う通り、ここは歯を食いしばって耐えるべきだ。

 将来に向けて力を蓄え、いつか来るであろう反撃のチャンスに備えるべきだ。


 そう、これこそがきっと正しい『大人』の判断だ。


 だけど……。


(それでも俺は、会長を助けたい……っ)


 俺は『今』が欲しい。


 確実な『将来』より、不安定な『今』が欲しい。


 会長のいない『未来』ではなく、彼女と笑っていられる『今日』が欲しいんだ。


「――クラウンさん、お願いします。レインに会わせてください……!」


 俺はそう言って深く頭を下げた。


 支部長室に沈黙が降り、時計の針が静かに時間を刻む。


「はぁ……この愚直で純粋なところが、リゼさんの心を打ったんすかねぇ」


 クラウンさんはポツリとそう呟き、


「ねぇ、アレンさん。ボクと『ゲーム』をしませんか?」


 とある提案を持ち掛けてきた。


「……ゲーム、ですか?」


「はい。もしアレンさんが勝ったら、レインのいる地下牢へご案内します。もちろん、君たちが帝国へ行くことも止めません」


「ほ、本当ですか!?」


「えぇ、嘘はつきませんよ。ただしボクが勝てば、今この場で帝国行きを諦めてもらいます。――さっ、どうします。この勝負、受けますか?」


 そうして彼は真剣な表情のまま、こちらに選択を迫った。


(勝負、か……)


 クラウンさんは『ゲームの内容』について語ろうとしなかった。

 何かこちらに不利なルールがあると見て間違いない。


(だが、それでも……これは千載一遇のチャンスだ!)


 現状、俺たちにはもう『レインの情報』しかアテがない。

 この機会をふいにすれば、帝国への道は閉ざされてしまう。


 しかし、逆に言えば――クラウンさんとの勝負に勝ちさえすれば、一気に道は開ける!


「――わかりました。その勝負、受けさせていただきます」


 そうして俺がコクリと頷いた次の瞬間、


「了解っす。それじゃ早速、始めましょうか。(しりぞ)け――<不達の冠(ロンリー・クラウン)>」


 彼は突然魂装を展開した。


「く、クラウン、さん……っ!? なに、を……っ!?」


 それと同時に、とてつもない『重さ』が俺の全身にのしかかった。


「だから言ったじゃないっすか。ちょっとしたゲームをするって」


 彼はソファから移動し、部屋の最奥に立つ。


「ルールは簡単。ボクをこの場から一歩でも動かすことができれば、アレンさんの勝ち。それができなれば、ボクの勝ち。ただし、『闇』の使用は禁止っす。それでは――ゲームスタート」


 クラウンさんは妖しく笑い、ゲームの開始を宣言した。


(なるほど……。闇を抜きにした純粋な身体能力だけで、彼の魂装に勝てというわけか……)


 やはりというかなんというか、すんなりレインに会わせてはくれないようだ。


 俺はゆっくりソファから立ち上がり、一歩前へ踏み出した。


(これは、中々にきついな……っ)


 まるで全身が鉛になったように重く、足を少し上げることでさえ苦労する。


「アレン、大丈夫!?」


「この能力は……前に一度『ドン=ゴルーグ』に使っていたものだな!?」


 リアは心配そうにこちらへ駆け寄り、ローズは鋭い眼差しでクラウンさんに詰め寄った。


 ドン=ゴルーグ――確か以前、聖騎士協会オーレスト支部の教官を務めていた男だ。

 俺・リア・ローズの三人が『特別訓練生』として聖騎士活動をしていたとき、ひと悶着があったと記憶している。


「そう言えば、そんなこともあったすねぇ。ドンさん、今はどこで何をやっているんでしょうか……」


 クラウンさんは芝居がかった風にどこか遠い目をした。


「まぁそんなつまらない話は、ちょっと脇に置いておいて……簡単にボクの能力を説明しておきましょうか」


 彼はそう言って、白と黒のシンプルな直剣を前に突き出す。


「<不達の冠>は『斥力(せきりょく)』を操る魂装っす。今アレンさんの頭上には、強力な斥力場が展開されていて――まぁわかりやすく言うと、現在彼は『十倍の重力』に晒されている状況っすね」


 そうしてクラウンさんが自らの能力を口にすると、


「じゅ、十倍の重力って……!?」


「そんな状態じゃ、まともに立つことすら不可能なんですけど……!?」


 リリム先輩とフェリス先輩は顔を青ざめさせた。


(十倍、か……。道理で体が重いわけだ……っ)


 降り注ぐ斥力に逆らって、グッと顔を上げれば――俺とクラウンさん、互いの視線が交錯した。


「アレンさん、君の『覚悟』と『可能性』がどれほどのものか――少し試させてもらいますよ?」


「えぇ、望むところです……!」


 こうして俺とクラウンさんの真剣勝負が始まったのだった。


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