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アレン細胞と政略結婚【十一】


 俺が正眼の構えを取る一方で、ゼオンはいつも通り気だるげに剣をぶら下げた。


(……一見すれば、隙だらけだが)


 ゼオンの反応速度は、まさに人外。

 下手に飛び込めば、刹那のうちに切り捨てられてしまうだろう。


(ここはやっぱり、いつも通りのやり方で距離を詰めるか……っ!)


 次の一手を決めた俺は、すぐさま行動に移す。


「一の太刀――飛影(ひえい)ッ!」


 素早く三度剣を振り、漆黒の斬撃を三発連続で放つ。


(奴に対して、様子見の一撃は全く意味を為さない……)


 一手一手、今の自分に撃てる最高の斬撃を叩き込まなければならない。

 それでようやく、一太刀浴びせられるかどうかというところだ。


 三つの飛影は乾燥した大地を引き裂きながら、ゼオン目掛けて一直線に進む。

 俺はそのうちの一つに身を隠し、位置を掴ませないようにしつつ距離を詰めていく。


「はっ、なんだそりゃぁ? ずいぶんと、か弱い闇じゃねぇか……よぉ゛!」


 ゼオンは迫りくる三発の斬撃を左手一本で手繰り寄せ、いとも容易く握りつぶした。


(相変わらず、化物のような身体能力だな……っ)


 めくらましの飛影が消滅し、互いの視線が交錯する。


 そして、今回の先手は俺が打つこととなった。


「八の太刀――八咫烏(やたがらす)ッ!」


 八つの黒い斬撃が、凄まじい勢いで牙を剥く。

 そしてそのうちの二発だけは、土を切り上げるようにして放った。


 その結果――乾燥した土が舞い上がり、ゼオンの視界を曇らせる。


「ちっ、こざかしい゛……っ!」


 奴は右目を細めながら横薙ぎの一閃を振るい、八咫烏を砂もろとも消し飛ばした。


(よし、ここだ……っ!)


 ゼオンが右目を細めたことにより、奴の右側に死角が生まれた。

 俺はその僅かな隙を見逃さず、すぐさま右側面へ体を滑り込ませ――最高最速の一撃を叩き込む。


「七の太刀――瞬閃(しゅんせん)ッ!」


 音を置き去りにした神速の居合斬りが、ゼオンの右肩を斬り裂く。


「くそ、ガキがぁ……ッ!」


 奴は一瞬も怯むことなく、即座に反撃を繰り出した。

 俺は迫りくる凶刃を後ろに跳んで(かわ)し、大きく間合いを取る。


 ゼオンの右肩からは、薄っすらと赤い鮮血が垂れた。


(傷は浅い……だけど、それでもダメージはダメージだ!)


 俺が真っ正面から、ゼオンを斬ったという事実は変わらない。


「まずは一太刀、だな……っ!」


 確かな手ごたえと共に、俺は再び正眼の構えを取る。


「はっ、目潰しったぁ゛……。凡人らしく泥臭ぇ剣を振るうじゃねぇか」


 奴は闇を右肩へ集中させ、あっという間に傷を治療した。


「俺の剣は『我流』だからな。泥臭さが売りなんだよ」


 型や形式に囚われない自由な剣――これは数少ない、我流の強みだろう。


「まぁ゛、型にハマったつまんねぇ剣よりは幾分かマシだが……。その程度の剣術じゃ、圧倒的な力の差は埋められねぇぜぇ゛……?」


 ゼオンが首を鳴らした次の瞬間――奴の体から、十本の闇の触手が立ち昇った。


(これは闇の影(ダーク・シャドウ)か……!?)


 それを見た俺は、すぐに闇の影を――十本の闇を展開する。


「くくく、同じ『十本の闇』だが……。さぁ゛て、結果はどうなるだろう……なぁ゛!?」


 凶悪な笑みを浮かべたゼオンは、爆発的な勢いで襲い掛かって来た。


 その瞳には、油断と慢心の色がはっきり浮かんでいるのがわかる。

 明らかに、俺のことを格下と見下した突進だった。


「くそ、舐めるなぁああああ……!」


 その後、俺は闇の影と黒剣を駆使して、死ぬ気でゼオンに食らいついた。


 技術の粋を尽くし、死力を振り絞り、僅かな勝ち筋を必死に追い求めた結果――俺は無残にも敗れた。


「はぁはぁ……ッ」


 黒剣を叩き折られ、地面に倒れ伏したまま、荒い呼吸を続ける。


(くそ……っ。悔しいけど、やっぱりこいつは強い……っ)


 ゼオンの闇は、文字通り変幻自在。


 剣のように鋭い闇。

 飴のように柔らかい闇。

 鞭のようにしなやかな闇。


(『出力』が到底及ばないことは知っていたけど……)


 まさか『闇の練度』にここまでの差があるとは思わなかった。


「はぁ……弱ぇなぁ、おぃ゛。もちっとどうにかなんねぇのか……あぁ゛?」


 圧倒的勝利を収めた奴は、余裕の笑みを浮かべてそんな言葉を吐き捨てた。


 ……こいつの挑発は、何故かとても鼻につく。


(むかつく奴だけど、『勉強』にはなるんだよな……)


 ゼオンは今回『闇の形態変化』を披露した。


(あの技を食らった俺だからこそ、はっきりとわかる)


 アレは、とても便利な技だ。


 ゼオンの技というのが少し(しゃく)だけど、後でこっそり練習しておこう。


 こいつと一戦を交えるたび、少しずつ強くなっていく実感がある。

 化物のように強いゼオンとの距離は、ほんの少しずつ縮まっている。


(そろそ、ろ……意識を保つのも限界、だな……っ)


 俺は薄れゆく意識の中、最後の力を振り絞って指を『三本』立てて見せた。


「あ゛ぁ……? なんの真似だ、そりゃ?」


「『三回』、だ……。今回は初めて『三回』……斬ったぞ……っ!」


「はっ、薄皮をちろっと斬ったぐれぇで何を偉そうに言ってやがる」


「これまでは……『一回』が限界だったから、な……。どう、だ……少しは強くなった、だろ?」


「あぁ゛? そうだな、小せぇ虫ぐらいには成長したんじゃねぇか?」


「ふっ、なんだ、それ……。まぁ見ていろよ……。そのうち絶対に追い抜かして、やるから、な……っ」


 何事も小さいことからコツコツと、だ。


「ふん、その無駄な努力に敬意を表して、ちょっとしたヒントをくれてやるよ。――この闇は俺ので(・・・)あって(・・・)俺の(・・)じゃねぇ(・・・・)。この言葉の意味、精々よく考えるんだなぁ゛!」


 ゼオンの黒剣が振り下ろされ


「か、は……っ」


 俺の視界が真っ白に染まった。


 そうして俺の意識は、現実世界へ引き戻されていったのだった。

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