表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

159/445

アレン細胞と政略結婚【十】


 俺の姿を確認したアイツは、ゆっくりと立ち上がり黒剣を握り締めた。

 それと同時に、背筋の凍るような凄まじい殺気が皮膚を刺す。


 やる気満々のようだが……それでは少し困る。


「ま、待て待て、今日は『そういう』ので来たんじゃない! ちょっと話がしたいだけだ……!」


「……話だぁ゛?」


「あぁ。そんな毎回毎回、顔を合わせるたびに戦わなくたっていいだろ?」


 俺が戦う気がないことを伝えると、


「……ちっ。つまらねぇ話だったら、すぐにでもぶっ殺すからな」


 奴はあからさまに大きな舌打ちをして、巨大な岩石にどっかりと座り込んだ。


 どうやら意外にも、話し合いに応じてくれるらしい。


「それじゃ、一つ確認しておきたいんだが……。お前の名前は『ゼオン』でいいんだよな?」


「当たり前だろうが……。霊核の名を呼び、力を借り受ける――それが魂装ってもんだ」


 ゼオンは短くそう言って、ギロリとこちらを睨み付けた。


(や、やっぱり『仲良くお話』ってわけにはいかないな……)


 これ以上機嫌を損ねないうちに、早いところ聞きたいことを聞いてしまおう。


「なぁゼオン。あの魔族――ゼーレ=グラザリオが言っていたことなんだけど、『ロードル家の闇』ってどういう意味だ? これはお前の闇じゃないのか……?」


 俺は漆黒の闇を右手に浮かび上がらせながら、そう問い掛けた。


 すると、


「…………てめぇのそれ(・・)()、正真正銘の俺の闇だ」


 少し間があってから、奥歯に物が挟まったような煮え切らない返答が返ってきた。


(これは……なにか隠しているな……)


 ゼオンらしくない、歯切れの悪い回答。

 どうやらこいつは、あまり嘘が上手じゃないらしい。


(だけど、ここで深く追及したところで、正直に話すとは思えない……)


 ――この闇(・・・)には(・・)なにか(・・・)秘密が(・・・)ある(・・)


 しかもあのゼオンが隠したがるほどの秘密が……。


 それを知れただけでもかなり大きな収穫だ。


(あまり一つの質問を深追いせず、テンポよく次の質問へ移った方がよさそうだな……)


 そう判断した俺は、すぐに別の問いを投げ掛ける。


「そうか。それじゃ、どうしてゼーレはお前のことを知ってたんだ? もしかして、知り合いだったのか?」


「さぁな゛。あんな羽虫みてぇな弱い魔族、いちいち覚えてねぇよ」


 今度は即座に返事が返ってきた。


「なるほど……」


 どうやら本当に、ゼーレのことは何も知らないらしい。


(つまり、向こうから一方的に知られているというわけか……。もしかしてゼオンは、魔族の間で有名な霊核なのか……?)


 俺がそんなことを考えていると、


「おぃ゛、てめぇにも一個聞きてぇことがある」


 珍しいことに奴の方から話を振ってきた。


「あ、あぁ。なんでも聞いてくれ」


 予想外の展開に少し驚きつつ、質問を促す。


「なぁ゛、クソガキ……。てめぇはいったい、いつまでそんな『ぬるま湯』につかってるつもりだ……?」


「……ぬるま湯?」


 ゼオンの言わんとしているところが、よくわからなかった。


「せっかく必死こいて、俺の力を『ほんの少し』奪ったってのによぉ゛……。まともに(・・・・)使おうとしねぇってのは、どういう了見だ……あ゛ぁ?」


「……え? いや、俺はちゃんとお前の闇と黒剣を使っているぞ?」


 俺がそう答えると、ゼオンは大きなため息をつく。


「はぁ……。てめぇは馬鹿か? そのなよっちい目を見開いて、ちゃんと『力の本質』を見極めろ。てめぇには成長してもらわねぇと、こっちもいろいろと困んだから……よぉ゛!」


「っ!?」


 奴が雄叫びを上げると同時に――俺は反射的に地面を蹴り付け、大きく後ろへ跳んだ。


 次の瞬間、目と鼻の先を黒い閃光が走る。


(危、な……ッ!?)


 後コンマ一秒でも反応が遅ければ、そのままお陀仏だった。


「くっだらねぇ話は、ここで終わりだ。さっさと剣を抜かねぇと……一瞬で終わるぞ?」


 ゼオンはそう言って、恐ろしく冷たい闇を身に纏う。


 その手にはいつの間にか、黒剣が握られていた。


 どうやら有無を言わさず、()るつもりのようだ。


「くそ、結局こうなるのかよ……っ」


 俺はすぐさま何も無い空間へ手を伸ばし、


「滅ぼせ――<暴食の覇鬼(ゼオン)>ッ!」

 

 奴と全く同じ漆黒の剣をしっかりと掴む。


「……行くぞ、ゼオン!」


「さっさと来い、すっぱりとぶち殺してやるからよぉ゛……ッ!」


 こうして俺とゼオンは、久しぶりに真剣勝負(ころしあい)を始めることになったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ