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アレン細胞と政略結婚【四】


「や、『闇』を調べるって……。この闇を、ですか……?」


 俺は右の手のひらに闇を発生させながら、そんな質問を投げ掛けた。


「はい。アレン様の能力であるその闇を、でございます」


 彼女は興味深そうに闇を見つめつつ、話を進めた。


「これまで世界中の様々な機関が、呪いについて研究を行ってきました。莫大な予算と大規模な人員を導入した結果は……ご存知の通り、何一つとして成果が上がっていません。呪いの効果・発動条件・解呪方法――依然として、何もわからないままです」


 そうして呪いに関する現在の状況を説明した天子様は、


「しかし、アレン様の闇はそんな過去を嘲笑(あざわら)うかのようにして、一瞬で呪いを解いてしまいました! 人類で初めて魔獣や魔族の呪いに打ち勝った――これは間違いなく、歴史的な快挙です!」


 希望に満ちた表情で、熱くそう語った。


「しかも、闇の術者であるあなたは、呪いに対して絶対的な『抵抗力』を持つ――ロディスからは、そのような報告が上がっております!」


「抵抗力、ですか……」


 ゼーレの使用した呪法、火虐(かぎゃく)雷虐(らいぎゃく)水虐(すいぎゃく)――それらは全て、俺の体に接触した途端に塵となって消えた。


(確かにそう言われると……俺は呪いに対して、抵抗力のようなものを持っているのかもしれないな)


 俺がそんなことを考えていると、


「昨日発生した魔族の襲撃によって、ポリエスタ連邦とロンゾ共和国では呪いが蔓延(まんえん)しております。連絡によれば、その患者数は軽く『十万人』を超えているとのことです……」


 天子様はとんでもない情報を口にした。


「じゅ、十万人ですか……っ!?」


「はい。医者の話では、もって数日とのことです……」


「そ、そんな……っ」


 どうやら事態は、思っていたよりも遥かに深刻なようだ。


「アレン様、どうかお願いします……。呪いの治療法を発見するために、その闇を調べさせていただけないでしょうか?」


 天子様はそう言って、再び真剣に頼み込んできた。


「――事情はわかりました。そういうことでしたら、もちろん構いません。俺でよければ、いくらでも協力させていただきます」


 この力で大勢の人の命を助けられるならば、こんなに嬉しいことはない。

 思う存分、隅から隅まで調べ尽くして――なんとか呪いの治療方法を見つけ出してほしい。


「ありがとうございます……! アレン様ならば、きっとそう言ってくださると思っておりました……!」


 天子様はそう言って、ギュッと俺の手を握った。


 その瞬間――リアがいっそわかりやすいほどに、嫌な表情を浮かべる。


「と、ところで天子様! いったいどうやって、この闇を調べるんでしょうか!?」


 俺はすぐさま話を進め、それと同時にさりげなく彼女の手から脱出を果たした。


「一応今のところ――呪いにかかった人々を治療していただき、その様子を精密機器で解析する予定です。アレン様の闇が呪いに対して、どんな影響を与えているのか。まずはそこから解明していくつもりです」


「なるほど……」


「場所はリーンガード国立研究所。あそこには最新の精密機器が一通り揃っているので、何不自由なく研究に没頭することができるはずです。そして今回は『世界一』と名高い医学博士へ、研究依頼を出しております」


「せ、世界一の医学博士ですか……!?」


「はい。若くして様々な難病の治療法を確立した、恐ろしく優秀な人です。しかも医学のみならず、科学・数学・史学と様々な分野でも顕著な実績を残しており、まさに『天才』という言葉がぴったりと当てはまる傑物(けつぶつ)です」


 どうやら今回の研究には、とんでもなく凄い人が参加するようだ。


「人格的には少し……いえ、かなり問題のある方ですけれど……。とにかく能力だけは折り紙つきです」


 天子様はポリポリと頬を掻きながら、そんなことを口にした。


「そ、そうなんですか……。それは機嫌を損ねないようにしないと、ですね……」


 偏見かもしれないけど、天才というのはどこか捻くれた人が多いイメージがある。


(変なことを言って、ヘソを曲げられてしまっては大変だしな……)


 言葉遣いには細心の注意を払うとしよう。


「予定ではそろそろ到着するはずなんですけれど……」


 天子様がチラリと時計へ視線を向けたそのとき――コンコンコンと扉がノックされた。


「噂をすれば……ちょうどいらしたみたいですね」


 彼女が「どうぞ」と入室許可を出すと、


「し、失礼します……!」


 扉がゆっくりと開き――小さな女の子が、神妙な面持ちで入室してきた。


 身長はおおよそ百四十センチあるかないか。

 絶対にお酒は買えないような童顔と子どものように瑞々しい肌。

 背まで伸びるパサついた黒い髪。

 サイズの合っていない白衣を着て、腰には脇差のような小さな剣を差している。


(あ、あれは……っ!?)


 間違いない。

 白百合女学院の理事長ケミー=ファスタだ。


「世界一の医学博士って……ケミーさんのことだったんですか!?」


「はい。白百合女学院の理事長も兼任されている、とてもお忙しい方です」


「は、はぁ……」


 そう言えば……。


(能力測定のときに、イドラがケミーさんのことを『天才科学者』と言っていたっけか……)


 俺がそんなことを思い出していると、


「そ、それで天子様……! あの話(・・・)は本当なんですね!? 嘘じゃないんですね……!?」


 緊迫した表情のケミーさんは、そう言って天子様に詰め寄った。


「えぇ、もちろんです。呪いの治療方法を発見した暁には、成功報酬として『一億ゴルド』を即金でお渡し致します」


 ……どうやらケミーさんは、多額の成功報酬につられて飛んできたようだ。

 なんというか……本当に相変わらずな人だった。


「ふ、ふふふ……。それだけあれば、借金返済はおろか……っ。当分はギャンブル三昧の生活を送れる……っ!」


 そうして不気味な笑い声をあげた彼女は、


「――さぁ、アレンくん! 『時は金なり』です! 早いところ、呪いの謎を解明しちゃいましょう! 具体的には、借金の返済期日である三日後までに……!」


 勢いよく部屋を飛び出し、階段を駆け降りていった。


「はぁ……。とりあえず、行こうか?」


「えぇ、そうね……」


 こうして俺とリアは、


「――アレン様、リア様、ケミー様。どうか何卒よろしくお願い致します」


 天子様に見送られながら、リーンガード国立研究所へ向かったのだった。

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