アレン細胞と政略結婚【二】
ここにいる聖騎士たちの話によれば――どうやら俺は、天子様から呼び出しを受けているらしい。
昨日の慶新会に引き続き、今日もゆっくり過ごせそうにない。
(それにしても、天子様からの呼び出しか……)
彼女には一度襲われているので、あまり気乗りはしない。
しかし、そうは言っても相手はこの国の君主だ。
この国の国民である以上、断るわけにはいかないだろう。
(行くしかない、よなぁ……)
そうして俺が小さくため息をついていると、
「アレン、大丈夫……? って、な、何よこれ……!?」
玄関先に顔を出したリアは――平伏した百人以上の聖騎士を見て、驚きの声をあげた。
「よくわからないけど、天子様から呼び出しが掛かったらしい」
「そ、そうなんだ……。それにしては、ずいぶんと大所帯ね……」
「あはは、本当にな……」
たかが俺一人呼び出すために、聖騎士を百人も動員するのは人員の無駄遣いだ。
貧乏性が染みついた俺からすれば、なんというか『もったいない感じ』がしてソワソワしてしまう。
(というかこの人たちは、いつまでこの態勢でいるつもりなんだ……?)
聖騎士たちは膝を突いたまま口をつぐみ、無言の圧力のようなものを放っていた。
「え、えーっと……。とにかくみなさん、普通に立ってもらえませんか……?」
さっきから、周囲の視線がとても痛い。
ここには千刃学院の寮が密集しており、初詣に出かける生徒や修業に赴く生徒たちが頻繁に行き来している。
彼らは平伏した聖騎士と俺の顔を見た後、何故か納得した表情を浮かべて足早に去っていった。
おそらく、またよからぬ誤解を招いているに違いない。
(俺の悪評は、もう行くところまで行ってしまったけれど……)
それでも小さいことからコツコツと、だ。
目の前で息吹きかけた誤解の芽は――確実に摘み取る。
(その積み重ねが、悪い噂の根絶に繋がる……はずだ!)
俺がそんなことを考えていると、
「……申し訳ございません。天子様より『国賓級の対応』をするよう命じられておりますので、どうかご容赦願います」
先頭で膝を突いた聖騎士は、申し訳なさそうにそう言った。
「な、なるほど……」
天子様にそんな命令を下されれば、今のように大袈裟な対応にもなってしまうだろう。
「――アレン様。我々と一緒にリーンガード宮殿へ足をお運びください……! どうか何卒、お願い致します……!」
「「「お願い致します、アレン様……!」」」
百以上の野太い声が、千刃学院中に響き渡った。
それと同時に、いくつもの視線がこちらへ突き刺さる。
「や、やっぱりアレンは半端ないな……。新年早々、聖騎士たちを締め上げてるぜ……っ」
「噂によれば、魔族ともグルらしいよ? わざとリーンガード宮殿を襲わせて、天子様に取引を持ち掛けたとか……」
「ま、マジかよ……。あの『血狐』とも繋がってるって聞くし、絶対に関わり合いになりたくねぇな……」
……マズい。
これまでの経験則から、すぐにわかった。
今この瞬間にも、新たな悪評が生まれていることが。
「わ、わかりました……! 一緒に天子様のところへ行きますから、とにかく顔を上げてください!」
「おぉ、一緒に来ていただけるのですね! ありがとうございます!」
「「「ありがとうございます……っ!」」」
こうして天子様の呼び出しに応じることにした俺は、リーンガード宮殿へ向かうことになったのだった。
■
それから十分後。
俺はリアと一緒にリーンガード宮殿へ向かっていた。
ありがたいことに、彼女は「私も行く!」と言ってくれたのだ。
(正直、これは本当に助かる……)
ヴェステリア王国の王女であるリアが横にいれば、天子様もおかしなことはできない。
つまり昨日のように襲われる危険性は、完全に消滅したというわけだ。
(でも……いったいなんの話があるんだろうか?)
こんな朝早くに、それも百人単位の聖騎士を送ってきたことから考えると……。
(何か差し迫った事情のあるとても大事な話なんだろう)
そんなことを考えながら、俺たちはオーレストの街を右へ左へと進んでいく。
そうしてしばらく歩き続けたところで、ようやく目的地へ到着した。
そこにはなんと、既に一階と二階部分が復元されたリーンガード宮殿があった。
「こ、これは……!?」
「昨日まで廃墟同然だったのに、もうほとんど完成してるじゃない……!?」
俺とリアが目を見開いて驚いていると、一人の聖騎士が横合いから説明を入れてくれた。
「この国一番の建設会社に再建築を依頼させていただきました。全作業員が優秀な魂装使いであるため、恐ろしく短い工期と正確で頑丈な造りが売りでございます。工事予定表によれば、本日の十八時に完成見込みとなっております」
「そ、それは凄いですね……」
ふと顔を上げれば――建物の三階部分には、魂装を握り締めた屈強な大工たちの姿があった。
(……いい体つきだな)
発達した背筋、膨張した胸筋、引き絞られた大腿四頭筋――遠目から見ても、その立派な筋肉はかなりの存在感を放っていた。
俺がそんな彼らの体を見上げていると、
「――アレン様、リア様。どうぞ中へお入りください。天子様は二階の客室にて、お待ちになられております」
一人の聖騎士がリーンガード宮殿の扉を開き、俺とリアはそのまますぐ二階の客室へ通された。
そこは、必要最低限の調度品が備えられた部屋。
その最奥に置かれた豪奢な椅子に、天子様は腰掛けていた。
「――アレン様、リア様。ようこそいらっしゃいました」
こうして俺は、昨日ぶりに天子様とお話することになったのだった。
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