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招待状と魔族【六】


 リーンガード宮殿の一階には、既に多くの上級聖騎士が集まっていた。


「――アレン!」


 早足で階段から降りる俺に気付いたリアは、すぐにこちらへ駆け寄って来てくれた。


「リア、無事でよかった!」


「アレンの方こ、そ……?」


 そう言って笑顔を浮かべた彼女は、突然ピタリと固まった。


「……ちょっとごめんね」


 リアは一言断りを入れてから、ゆっくりこちらへ近づき――クンクンとにおいを嗅ぎ始める。


「ど、どうした……?」


「――ねぇ、アレン。あなたの体から、天子様のにおいがするんだけど……何かあった?」


「……っ!?」


 どうやらあのとき――天子様が俺の上に覆いかぶさったときに、彼女のにおいが移ってしまっていたようだ。


「え、えーっとそれは……っ」


「それは?」


 リアは優しい微笑みをたたえたまま、静かに首を傾げた。


 その表情はとても優しげだが……いかんせん、目が笑っていない。


(……ど、どうする!?)


 正直に答えるならば『天子様に襲われました』ということになるが……。

 さすがに誰が聞いているかもわからないこんな場所で、それを口にすることは(はばか)られる。


 それに何より――きっとリアが機嫌を損ねてしまうだろう。


 そうして回答に困った俺は、


「……て、天子様は香水をつけていたからさ。多分、におい移りしちゃっただけだと思うぞ?」


 非常に苦しい言い訳でお茶を濁した。


「…………ふーん、そう」


 彼女はジト目でこちらを見ながら、ポツリとそう呟く。

 当然ながら、あまり納得していないようだ。


 そんな風に俺たちが話をしている一方で――上級聖騎士たちは天子様の前に平伏していた。


「「「――天子様、ご無事で何よりでございます!」」」


「ありがとうございます。みなさんもご無事で何よりですわ。――ロディス、状況は?」


 天子様は優しくそうお声掛けした後、すぐさま腹心である会長の父――ロディス=アークストリアへ目をやった。


「はっ! 宮殿一階に仕掛けられた三つの爆弾が起爆したようです。建物に燃え移った火は既に鎮火。五名の負傷者を出しましたが、全て回復系統の魂装使いによって治療済みでございます。それと――あちらをご覧ください」


 ロディスさんは現在の被害状況を簡潔に報告した後、壁に掛けられた巨大な液晶パネルを指差した。


 そこには神聖ローネリア帝国の国旗と――残り五十八秒となったタイマーが表示されている。


「あれは神聖ローネリア帝国からのビデオメッセージ。今はただタイマーが表示されているだけですが、最初に機械音声が流れておりました」


「どのような内容でしたか?」


「内容は大きく分けて三つ。一つ、これは神聖ローネリア帝国が皇帝からのメッセージであること。一つ、『つまらないプレゼント』を贈ったこと。一つ、この映像を五分以内に天子様へ届けるようにとのこと。おそらくつまらないプレゼントとは、先の爆発物のことかと思われます」


 そうして全ての報告を終えたロディスさんは、


「――天子様、いかがいたしましょうか?」


 静かに天子様の指示を仰いだ。


「そうですね……。とりあえず、メッセージを聞いてみましょうか。どういった行動を取るのかは、その後に決めましょう」


「かしこまりました」


 それから俺たちは、天子様の言う通りにして、静かにメッセージが流れるときを待った。


 その後――タイマーがちょうどゼロになった瞬間、液晶から機械音声が流れ始めた。


「――五分が経過したが、五大国の(・・・・)首脳陣(・・・)は集まっただろうか? そうだな……冒頭でも名乗らせてもらったが、もう一度名乗っておこう。私は神聖ローネリア帝国が皇帝バレル=ローネリアだ」


 神聖ローネリア帝国の皇帝バレル=ローネリア。


 彼は極端に人目を嫌い、公の場に自らの姿を晒したことは一度もない。

 それに加えて徹底した秘密主義者であり、今のように自分の声すらも隠す。


 噂によれば、国民の前に姿を現したことさえないらしい。


(それにしても……『五大国の首脳陣』、か)


 どうやらこのメッセージは、リーンガード皇国だけではなく、五大国全てに送られているようだ。


「いろいろと積もる話もあるが……互いに忙しい身だ。単刀直入に用件を話そう」


 それからバレルはゴホンと咳払いして一拍置いてから、その用件とやらを口にした。


「――我が神聖ローネリア帝国は、五名の『魔族』と友好条約を結ぶことにした」


「「「な……っ!?」」」


 リアに天子様、会長にロディスさん――この場にいるほぼ全員の表情が真っ青になった。


「……魔族?」


 聞きなれない言葉に俺が首を傾げていると、


「魔族は『魔獣』の上位種族で、高度に発達した知能と恐ろしい戦闘力を持つ人類の敵よ。どこから生まれて来るのか、何故私たち人類を敵視するのか――その全ては謎に包まれているわ。歴史上、確認された個体は三体。その時代の七聖剣(しちせいけん)が多大な犠牲を払ったうえで、なんとか討伐したそうよ」


 横合いから、リアが素早く説明をしてくれた。


(なるほどな……)


 魔族という恐ろしく強い種族が、超大国である神聖ローネリア帝国と手を組んだ。

 確かにこれは絶望的な情報だ。


 天子様の表情が曇るのも無理のない話だろう


「くくく……。まぁ『友好条約』といっても大したものではない。所詮は互いの利害が一致した故に結ばれた、薄氷の如き協力関係だ。さて――予定ではそろそろ(・・・・)着く(・・)()だと思うが……どうだろうか?」


 バレルがそう言った次の瞬間――リーンガード宮殿の上層階が、文字通り全て吹き飛んだ。


「「「――き、きゃぁああああっ!?」」」


 来賓者の甲高い悲鳴が響き、リーンガード宮殿はパニックに包まれた。


(くそ、何が起こっているんだ……っ!?)


 降り注ぐ瓦礫の山。

 まるで嵐のような突風。

 舞い上がる砂埃。


 俺はすぐさま剣を抜き、降り掛かる瓦礫を切り捨てる。


 リアや会長、それから上級聖騎士のみなさんも素早く剣を振るって落下物に対処していた。


「――リア、俺から離れるなよ」


「うん、わかってる」


 それから少しして、砂埃が晴れるとそこには――翼を生やした一人の男が、空中に浮かび上がっていた。


「ほぅ。『劣等種族』である人間の割に、まともな霊力を持った個体もいるじゃないか……」


 俺たちを劣等種族と言い放ったその男は、まるで幼い子どもを褒めるかのようにそう言い放つ。


 その瞳からは、絶対の自信と得体の知れない恐ろしい力が感じ取れた。


(……間違いないな)


 あの男が神聖ローネリア帝国が友好条約を結んだという『魔族』のようだ。


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