千刃学院と大五聖祭【三】
宝石強盗を取り押さえた日の翌日。
大五聖祭を間近に控えたこの日、俺とリア、ローズの三人は理事長室に呼び出された。
理事長室までの道中。
「もうっ! せっかくみんなでお昼ご飯食べていたのに……っ!」
リアは急に招集をかけたレイア先生への愚痴をこぼしていた。
三人で仲良く昼食を食べていたところ、突如院内放送で呼び出しがかかったのだ。
みんなとの食事の時間を大切にしているリアは、少し機嫌を損ねていた。
「まぁまぁ落ち着きなよ、リア。アレでも一応は理事長だし、忙しいんだと思うよ」
「短気は損気だよ。それにもしかすると緊急の用事かもしれない」
俺とローズが一応、レイア先生のフォローに回る。
そうあんなのでも、一応はこの国を代表する権力者の一人なのだ。
それに彼女は理事長職だけでなく、なぜか一年A組の担任も兼任している。
きっと目が回るほどに忙しいはずだ。
「そ、そうかもしれないけど……。わざわざお昼休みに呼び出さなくても……」
頭では理解しているが、いまいち納得し切れていない様子だ。
「もしかしたら用事は小さなことで、すぐに戻れるかもしれないぞ? そしたらまた一緒に食べよう」
「……うん、わかった」
そんな風にリアをなだめながら、理事長室を目指して長い廊下を歩いていく。
(今回の急な招集だが、この三人が揃って呼び出されていることから、用件はなんとなく予想がつくな)
おそらくは週末に控えた大五聖祭についての話だろう。
今朝の新聞で、対戦校の組み合わせが発表されていたのを俺はしっかりと確認していた。
千刃学院の初戦の相手は、五学院が一つ氷王学院。
(でも……氷王学院と言われても、正直あまりピンと来ないんだよな)
有名な生徒はおろか、大会での実績や他の五学院との力関係すらも知らない。
もっと正確に言うならば、俺はそもそも『五学院』についてあまり詳しくないのだ。
しかし、それも無理もない話である。
これまでの――あの呪われた一億年ボタンを押す前の俺にとっては、五学院なんてそれこそ天上の世界だった。
一生縁の無い世界のことを、わざわざ詳しく調べようなんて普通は思わない。
そんな時間があるならば、一回でも多く素振りをした方がずっと自分のためになる。
(でもまさかそんな俺が、大五聖祭に出場することになるなんてな……)
人生なにが起こるかわからない。
(とりあえず……俺は自分のできることを精一杯頑張ろう)
せめてリアとローズの足は引っ張らないように、千刃学院の名前に泥を塗るような情けない試合をしないように――持てる力の全てをぶつけて、正々堂々と戦おう。
そんなことを考えていると、ようやく前方に理事長室が見えてきた。
おそらくレイア先生の好きな色であろう黒色の扉が、重々しい存在感を放っている。
三人を代表して俺がコンコンコンと扉をノックすると、短く「入れ」と返ってきた。
いつものおちゃらけた声とは違う。
事務的で硬い声だった。
俺たち三人は一瞬目を合わせて、それから丁寧にゆっくりと扉を開けた。
「――失礼します」
するとそこには――高級感のある黒い仕事机に座ったレイア先生の姿があった。
どうやら仕事中のようで、難しい顔をしたまま手元の書類らしきものに目を落としている。
室内は思いのほか整頓されていたが、山積みになって置かれた書類の山が彼女の忙しさを物語っていた。
「――すまんが、今少し手が離せない。そこで待っていてくれ」
先生はこちらに視線を向けることなくそう言うと、また一枚手元の紙をめくった。
「わ、わかりました」
短くそう答えた俺は、理事長室の壁の方で静かに立って待つことにした。
リアとローズもそれにならう。
「「「「……」」」」
誰も何も喋らない。
シンと静まり返った理事長室で、先生が紙をめくる音だけがやけに大きく響いた。
(よっぽど大事な書類なんだろうな……)
先生はまばたきするのも忘れて、黙々と読み漁っていた。
あんなに真剣な顔の先生を見るのは初めてだ。
(……やっぱり相当忙しいんだろう)
当然と言えば当然のことだが、改めてレイア先生の仕事量を再認識させられた。
五学院の理事長でありながら、一クラスの担任を受け持つ。
きっと常人ならば卒倒するような、恐ろしい量の仕事を毎日毎日こなしているのだろう。
それでいてクラスを楽しくするために、生徒の前では明るく振る舞っているのだから頭が下がる。
(これが大人の女性、か……)
なんだか少しかっこいいな。
そんなことを思いながら、十分ほど待っていると、
「ふーっ……」
ようやく仕事がひと段落ついたのか、先生は大きく伸びをしながら息を吐いた。
同時に理事長室を満たしていた張り詰めた空気も一気に柔らかいものとなる。
両肩を交互にグルグルと回し、肩こりを取ろうとする先生に俺は労いの言葉を掛けた。
「先生、おつかれさまでした」
「あぁ、おもしろかった」
彼女は満足げにそう言うと、湯呑みに入ったお茶を飲み干した。
「そうですか、それはよかっ……おもしろかった?」
……おかしい。
仕事をこなした感想として「おもしろかった」というのは、少し不適切だ。
不審に思った俺が、先生が先ほどまで熱心に読み込んでいたものに視線を移すとそれは――週刊少年ヤイバだった。
週刊少年ヤイバ――中等部から高等部の男子の間で、圧倒的な人気を誇る少年漫画雑誌だ。
どうやら先ほどのあの時間は、ずっと熱心にこれを読んでいたようだ。
「いやぁ、今週のヤイバは全体的に中々良かったぞ! 特に読み切りが素晴らしかった! 断言しよう――あれは化ける! まだまだ絵は荒くストーリーも粗削りだが、なんというかこう――ほとばしる熱意、そう『魂』のようなものを感じさせた!」
先生は顔を紅潮させ、少年のように目をキラキラと輝かせながら興奮気味にそう語った。
「……そうですか」
ほんの一瞬でも先生のことを「かっこいい」と思ってしまった愚かな自分を叩き斬りたい。
というか、今の今までこれを読むために待たされていたのかと思うと……怒りを通り越してもはや呆れてしまう。
それはリアもローズも同じようで、二人ともどこか気の抜けた顔をしてため息をついていた。
(本当にこの人が千刃学院の理事長で大丈夫なのか……?)
一抹の不安が胸をよぎる中、俺はここ最近ずっと気になっていたことを聞いてみた。
「レイア先生は、実際のところ忙しくないんですか? 普通、理事長と担任を兼任なんてしていたら、漫画なんて読んでいる暇は無いと思うんですが……?」
すると彼女は自慢げに鼻をこすった。
「ふふっ、問題ない。雑事は全てこいつに任せてあるからな」
そう言った先生の視線の先には、
「……」
小さな椅子に座った男性が、部屋の隅でただ黙々と書類仕事をしていた。
「っ!?」
「ひぃっ!?」
「だ、誰だっ!?」
リアとローズが驚きのあまり飛び下がり、俺は咄嗟に二人の前に出た。
(い、いつからいたんだ、この人は……っ!?)
存在感が希薄どころの話ではない、今までそこにいたことすら気付けなかった。
「はははっ、いい反応だな!」
俺たちの驚きようを見た先生は、楽し気に笑っていた。
「こ、この方は誰なんですか?」
外見年齢は三十代半ばぐらいだろうか。
室内にもかかわらず、目深にかぶったシルクハット。
両端がクルリと上を向いた、立派なカイゼル髭が特徴的だ。
机に立てかけられた白と黒の奇抜なステッキは、多分彼のものだろう。
「紹介しよう。私の雑事を担当する使用人、十八号だ」
十八号と呼ばれた彼は、こちらに目をやることも無く、ただその場で一度会釈した。
その間も彼の仕事を続ける手は止まらず、凄まじい速度で紙の束を処理し続けていた。
一応「挨拶だけでも」と思い、十八号さんの近くへ行こうとすると、
「おっと、気を付けろよ。こいつは懲役百年の実刑判決を食らったA級犯罪者だからな」
先生はサラリととんでもないことを言い放った。
「「「なっ!?」」」
俺たちは今度こそ彼から距離をとった。
「囚人番号0018――だから、十八号と呼んでいる。いい名前だろう?」
先生は「さすがは私、ネーミングセンスまで完璧かっ!」と一人で自画自賛していた。
そこへリアがツッコミを入れる。
「ちょ、ちょっと、レイア!? 受刑者を引っ張り出して、いったい何をやっているのよっ!?」
「ん、十八号は私の使用人だと言っただろう? 書類作成・連絡・日程調整などなど――彼の仕事は多岐にわたるぞ!」
彼女は微塵も悪びれることなく、高らかにそう言った。
どうやら彼女がずっと暇そうにしていたのは、全ての仕事を十八号さんに丸投げしていたからのようだ。
すると今度はローズが質問を投げ掛けた。
「先生、十八号さんはいったい何をしたの? 懲役百年って中々無いと思うけど?」
「うむ、のぞきだ」
先生は何の迷いも無く即答した。
あまりにも予想外の返答を前に、俺は確認のため少し掘り下げて質問してみた。
「の、のぞきって……。あの女子更衣室とか女風呂とかで行われる――あの『のぞき』ですか?」
「あぁ、そうだ。こいつは女体が――特に十代の若い女の体が大好きでな。全国各地の学院を巡って、ひたすらに犯罪行為を繰り返していた。供述によれば、千刃学院の大浴場も何度かのぞいたそうだ」
それを聞いたリアとローズは、
「うわ、最低……っ」
「女の敵ね」
ゴミを見るかのような蔑んだ目で、十八号さんを見下ろした。
そんな中、俺は一つだけ引っ掛かることがあった。
「確かにのぞきは許せない犯罪ですが……それで懲役が百年もつくのでしょうか?」
懲役百年なんてほとんど死刑宣告のようなものだ。
のぞきでそれほど重い判決が下ったという事例は、今まで聞いたことがない。
「ふむ、簡単に説明するとだな……。まず十八号は千刃学院のOBでな。こう見えてかなり腕の立つ剣士なんだ。だから、のぞきが発覚しても並みの聖騎士ではどうすることもできず、逮捕に至るまで数百の罪を重ねた」
どうやら彼は超実力派ののぞき魔ということらしい。
「さらに苦労してようやく牢屋にぶち込んでも、困ったことにこいつはすぐに脱走するんだ。素手で鉄格子を引きちぎったり、昼食時の割り箸を剣に見立てて壁を切り裂いたり、とな」
レイア先生は「やれやれ」という風に肩を竦めた。
「そうしてのぞきと脱獄を何度も何度も繰り返し、溜まりに溜まった刑期が百年というわけだ」
「な、なるほど……」
とりあえずこの人がのぞきに命を懸けている変態かつ、優秀な剣士だということはわかった。
すると、
「そ、そんな危険人物を野放しにしてどうするんですかっ!?」
リアはもっともな意見を先生にぶつけた。
同時にコクコクとローズも同意する。
年頃の女の子である彼女たちは、のぞき魔が同じ学院内にいるという事実に、当然ながら強い拒否反応を示した。
「いや、十八号はもう完全に無害だ。こいつには私がしっかりと教育を施したからな。……な?」
そう言ってレイア先生が十八号さんの肩を叩くと、
「も、もちろんでございます、レイア様っ!」
これまで沈黙を貫いていた彼は全身を震わせ、顔面蒼白になりながら何度もペコペコと頭を下げた。
(い、いったいどんな教育をしたんだ……)
とても気になったが、さすがに怖くて聞けなかった。
人間知らない方がいいこともある、というのが俺の考えだ。
「それに十八号は頭の方もかなり優秀でな。全く異なる三つの分野で博士号を取得している。――まぁ短くまとめると、いろいろあってこいつを発見した私は、理事長権限でここへ招喚し、ひたすら仕事を手伝わせているというわけだ。さっきも言ったが、こいつはもう完全に無害だからな。君たち生徒が不安に思うことは何も無い」
「そ、そうですか……」
情報漏洩に脱走、千刃学院内でののぞきなどなど、不安に思う点は多々あるけれど……。
ここの理事長であるレイア先生が無害だと言い切るならば、それを信じるほかない。
リアとローズも納得はしてない様子だったが、それ以上十八号さんを追及することはなかった。
「っと、話が少し逸れてしまったな。昼休みももう後わずかだし、そろそろ本題に入ろうか」
そう言って彼女は、ゴホンと一度咳払いをしてから話し始めた。
「既に察しはついていると思うが、今回君たち三人を呼び出したのは他でもない。大五聖祭についての話があるからだ。今朝の新聞で報じられた通り、うちの初戦の相手は――あのにっくき氷王学院だっ! この野郎っ!」
先生は突然語気を強め、机に拳を叩き付けた。
「痛っ!?」
打ちどころが悪かったのか、彼女はすぐに手袋を外してフーフーッと右手に息を吹きかけた。
「「「……」」」
もうなんか、独り芝居を見せられているような気分だった。
「ご、ゴホン……。まだ入学したての君たちは、本学院の歴史を詳しく知らないだろう。そのうち授業でも触れるが、その前に少し説明しておくとしようか。――まずうちと氷王学院は長年美しいライバル関係にあった。昔は大五聖祭を含め、様々な大会で常に千刃学院が一番、氷王学院が二番だった。特に私が千刃学院の学生だった三年間は全戦全勝――黄金世代とまで呼ばれたものだ……」
先生はどこか遠くを見つめながら、懐かしむようにそう言った。
(先生って、ここのOGだったのか……)
意外な事実に驚いていると、彼女は大きくトーンダウンしながら話を続けた。
「しかし、時代は変わった――変わってしまった。様々な問題によって千刃学院は落ちぶれ、それを追うようにして氷王学院も落ちぶれた。世間は――メディアはそれをおもしろがって寄ってたかって袋叩きにした……っ。都落ち・終わりの始まり――そんな言葉があちこちで飛び交ったものだ……っ」
先生は眉間にしわを寄せ、拳を握り締めていた。
きっとOGとして悔しく歯がゆい思いをしたんだろう。
「さらにうちは氷王学院にさえ負けてしまった……。これを見ればわかる通り、今やどの大会においても千刃学院は最下位、その一つ上に氷王学院となっている……」
そう言ってレイア先生は、大五聖祭を含む各種大会の結果がまとめられた紙を机の上に置いた。
(……確かに)
これを見る限り、上位三学院は毎年のように順位が入れ替わっているが、下位二学院は微動だにしていない。
十年以上ずっと最下位が千刃学院で、第四位が氷王学院となっている。
「長年に亘り一位と二位を独占してきた不動の名門――千刃学院と氷王学院は今や昔の話となった……。そしてうちが最下位に居座るようになった頃から、ある問題が発生した……」
それから先生は一拍置いてから、一気にまくし立てた。
「かつては美しいライバル関係を築いてきた氷王学院が、私たちに牙を剥いた。これまでずっと二番手に甘んじてきたその鬱憤を晴らすかのように、奴等は千刃学院を煽り始めたんだ……っ。ドンべの千刃、五学院の面汚し――あちこちでそんな誹謗中傷を繰り返した。あの畜生どもは、うちが弱みを見せた途端に本性を現したんだっ!」
すると、
「な、なにそれ、信じられないっ!」
「許すまじ、氷王学院……っ!」
割合にポンコツなリアだけでなく、ローズもやや苛立った様子だった。
そうして全てを語り終えた先生は、二、三度深呼吸してまとめに入った。
「――とまぁ、こういうわけで何があっても氷王学院にだけは負けられない。しかも今回の大五聖祭は、私が理事長に就任してから一発目の大会だ。ここは一つ、氷王学院を煽り倒せるぐらいの圧倒的な『結果』が欲しいっ!」
先生に呼応するようにリアとローズはコクコクと頷いた。
「そこで! 私が昨晩、寝る間も惜しんで作成した最強の布陣がこれだっ!」
そう言って先生は『出場選手リスト』と書かれた一枚の紙を机に叩き付けた。
そこには先鋒アレン=ロードル、中堅ローズ=バレンシア、大将リア=ヴェステリアと書かれていた。
(なるほど……先生にしては合理的な布陣だな)
かなり熱くなっていた様子だったから、もしかすると無茶苦茶な布陣を敷くのではないかと不安だったけど……。心の奥底ではしっかりと冷静さを保っていたようだ。
(この布陣から察するに、俺の役目は相手の戦闘スタイル・技・行動パターンを引き出すことだな……)
もちろん、理想は勝利することだ。
しかし、それが難しかった場合の最低限の仕事が敵の情報を丸裸にすることだ。
そして中堅のローズ。一子相伝の桜華一刀流、正統継承者の彼女は、この布陣における『エース』の位置だ。俺が丸裸にした敵の先鋒を叩き、そこで生まれた良い流れに乗じて中堅・大将を討ち取る。彼女の活躍如何によって、戦局が大きく左右されるだろう。
最後に大将のリア。この中で唯一魂装を呼び出せる彼女は、戦力的にも盤面対応能力的にも大将にふさわしい。実際彼女は油断と慢心さえなければ、圧倒的な力を振るう。
(つまりこれは、先鋒の俺が可能な限り相手を消耗させて、その後に控える中堅のローズ、大将のリアでとどめを刺すという非常に手堅く、勝利を強く意識した布陣だ)
出場者リストに納得した俺が「うんうん」と頷いていると、
「ねぇ、レイア。どうしてアレンが先鋒なの? 普通だったら、大将でしょ?」
「私も思った。最高戦力は普通、大将に置くべきでは?」
リアとローズは、そんな質問を口にした。
(いやいや、大将はリア。それかローズが適任だろう……)
片や魂装<原初の龍王>を操る隣国の王女。
片や一子相伝の桜華一刀流の正統継承者。
そんな二人を差し置いて、グラン剣術学院出身の我流の剣士が大将に居座るのは、さすがにどうかと思うぞ……。
すると先生はその質問を予測していたのか、クツクツと楽し気に笑った。
「ふふふっ、気付いたか――そう、これが私の作戦だ!」
「「「作戦?」」」
三人が同時に全く同じことを呟いた。
先生は一度ゴホンと咳払いをし、自信満々に語り始めた。
「つい先ほど話した通り、うちが求めるのは勝利。しかし、それはただの勝利ではない。氷王学院の奴等を煽り、嘲笑えるような圧倒的かつ完全な勝利だ……っ!」
リアとローズが真面目な顔つきでコクリと頷き、一方の俺は苦笑いで流した。
個人的にはド派手で圧倒的な勝利よりも、地味で確実な勝利の方が好みだからだ。
それから先生はノリノリで話を進める。
「君たちも知っての通り、大五聖祭は三対三の勝ち抜き方式だ。つまり、もしもうちの先鋒が三人抜きを果たせば――氷王学院はこちらの中堅・大将の顔も拝めずに敗北が決定する!」
「なるほど……」
「確かに……。無敗かつ、三人抜きを狙うならアレンが先鋒で出るべきね」
「ふふふっ、まさかこちらの最高戦力が先鋒で出るなんて、氷王学院の奴等は夢にも思っていないだろうっ! そして無様に三連敗を喫した奴等はこう考える――『先鋒があれだけ強いのならば、中堅・大将はどんな化物なんだ!?』となっ!」
「っ! か、考えたわね、レイア! やるじゃないっ!」
「氷王学院は今後、千刃学院の見えない幻影に怯えるというわけか……悪くない」
リアとローズは納得したように頷いていた。
(い、いやいやいや、そんな馬鹿な……)
五学院が一つ、氷王学院の一年生代表三人を相手に俺が三連勝?
(ないない、それはない……)
いくらなんでも俺を買いかぶり過ぎだ。
いいとこ、一勝をあげれば十分過ぎる活躍だろう。
俺が苦い顔をして首を横に振っていることに先生は全く気付かず、喜悦に満ちた表情で突如大笑いを始めた。
「ふふっ、まさかの三連敗を喫し、悔しさのあまり歯をガタガタと震わせる奴等の姿が目に浮かぶようだ……っ! ふふ、はは……ふぅはははははははっ!」
■
そして迎えた大五聖祭当日。
大五聖祭運営委員から手渡された氷王学院の出場選手リストを見たレイア先生は、
「んなぁ……っ!? ふ、ふざけるなよ……っ。なんだこの舐めたリストは……っ!?」
悔しさのあまり歯をガタガタと震わせていた。