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上級聖騎士と晴れの国【六】


 黒の組織との戦闘を終えた俺が一息ついたところで――リアとローズがラオ村へ到着した。


「――あ、アレン、大丈夫!?」


「ちょっと速過ぎるぞ、お前は……っ!」


 額に大粒の汗を浮かべた二人は、周囲を警戒しながら剣を抜き放った。


「あぁ、悪い。でも大丈夫だ、もう全員仕留めたからさ」


 遠方からラオ村の危機的状況を目にした俺は、ベンさんから許可を取って一人先行させてもらったのだ。


 それから少しすると――上級聖騎士のみなさんが到着した。


「お、おいおいアレン……っ。まさかお前、たった一人でこれ(・・)をやったのか……?」


 ベンさんは意識を失った五十人以上の剣士を見て目を丸くしていた。


「はい、なんとかなったみたいです」


 幸いなことに、この中には千刃学院を襲った神託の十三騎士フー=ルドラスやドドリエルクラスの剣士はいなかった。


「や、やるじゃねぇか……。まさかたった一人で『皆殺し』とはな……っ」


「……え?」


 物騒なことを言うベンさんに対し、俺はすぐに反論した。


「い、いえいえ……っ! 誰一人として殺していませんよ……っ!」


「……は?」


 すると彼はポカンと口を開け――近くにいた黒の組織の首元へ手を伸ばした。


「……脈が、ある? まさか本当に全員生かしているのか!?」


「あ、当たり前じゃないですか! そんな簡単に『殺し』なんてしませんよ!」


 俺がそう言うと、ベンさんは突然黙り込んでしまった。


(こ、こいつ……化物か……っ!? 『一対五十』って絶望的な戦力差で、全員を生け捕りにした……だと!?)


 彼はゴクリと唾を飲み込み、乾いた笑みを浮かべた。


「は、はは……っ。さすがは『クラウン』と『黒拳』の一押しだな……っ。これでまだ学生だってんだから、末恐ろしいぜ……っ」


「ど、どうも……?」


 何故かいきなり褒められた俺は、わけもわからず空返事を返した。


「と、とにかくこりゃ大手柄だぜ、アレン! ――おい、お前ら! 今すぐ黒の組織の奴等を拘束しろ! 決して自害させるなよ! みっちり絞り上げて、なんとしても情報を吐かせるんだ!」


「「「おぅっ!」」」


 そうして上級聖騎士たちが、気絶した黒の組織を拘束し始めたそのとき。


「あ、アレン……アレを見てっ!」


 リアは顔を青くして、ある一点を指差した。


 そこでは――先ほど俺が助けた女の子が、意識を失った男に剣を突き付けていた。


「いけない、止めさせなきゃ!」


 慌てて駆け出そうとしたリアへ、俺は制止の声を掛けた。


「……いや、大丈夫だよ」


 確かにあの子の目には今、強い憎悪が渦巻いている。

 だけど、その奥には――温かく優しい光が宿っていた。


「ま、ママの(かたき)……っ!」


 そう言って高々と剣を振り上げた彼女は、小刻みに震え出し――ついにはその場で崩れ落ちた。


「よ、よかった……っ」


 リアがホッと息を吐き出したところで、


「――ちょっと行ってくるよ」


 俺はあの子の元へ向かった。


「え? あ、うん」


 驚かさないようわざと足音を立てて進み、彼女の目線に合わせて腰を下ろす。


「……大丈夫?」


 優しい声でそう問い掛けると――彼女は涙でぐしゃぐしゃになった顔をあげた。


 そして、


「私、できなかった……っ。ママの仇なのに……っ。怖くて……、手が、震えて……っ!」


 鼻をすすり、声を詰まらせながら必死に言葉を紡いだ。


「――君、名前はなんて言うの?」


「……み、ミレイ」


「そうか――ミレイは強いな」


「……え?」


「君はできなかったんじゃない。ちゃんと自分の意思で選んだ(・・・)んだ――こいつらと同じ『外道』にならない道をね。感情に押し流されず、しっかり自分の理性で決断を下した。これは君の強さだ。それに……ちょっと見ててくれるか?」


 俺は少し大げさに指を鳴らし、村人を保護していた闇の衣を取り去った。


「……お兄ちゃん、何をしたの?」


「ほら、あそこをよく見てごらん」


 そう言って俺は、ある一点を指差した。


 そこには――。


「う、うそ……っ!?」


 スーッスーッと規則的な呼吸を繰り返す、ミレイのお母さんの姿があった。


「ま、ママ……っ!?」


 彼女は大きく目を見開き、一目散に駆け出した。


「ママ、起きて……っ! ねぇ、お願いだから……目を開けてよ……っ!」


 そう言って必死にその肩を揺らすと、


「……あ、れ? 私……?」


 ミレイのお母さんはゆっくりと目を開け、まるで何事も無かったかのように上体を起こした。


「ま、ママっ!」


「……ミレイ? ――そ、そうだ、黒の組織は!?」


 彼女はミレイを抱きかかえ、素早く周囲を見回した。


「もう大丈夫だよ! このお兄ちゃんが、悪い奴等をみんなやっつけてくれたの! それに――ママの怪我まで治してくれたんだ!」


「う、うそ……っ。あんな深い傷を……いったいどうやって……!?」


 ミレイのお母さんは「信じられない」といった表情で、こちらを見つめた。


「え、えーっとですね……っ」


 治療方法について問われるのは、正直一番困る。

 自分でもよくわからない謎の力で治しました――これが嘘偽りのない真実だが、さすがにそれをそのまま伝えるわけにはいかない。


(……仕方ない、よな)


 回答に困った俺は、小さな嘘をつくことにした。


「じ、実は俺……回復系統の魂装使いなんですよ」


『謎の力』よりも『回復系統の魂装』と言われた方が、きっと安心できるだろう。


「そ、そうだったんですか……! 本当にありがとうございます……っ! 娘の命だけでなく、私まで助けていただいて……っ。もう、なんとお礼を言ったらいいのか……っ!」


 そう言ってミレイのお母さんは、何度も何度も頭を下げた。


「いえ、気にしないでください。それよりも、本当に無事でよかったです」


 俺がそんな話をしていると、


「――アレン。すまんが、ちょっといいか?」


 ベンさんはそう言って、俺の肩をポンと叩いた。


「なんでしょうか?」


「いやなに、まさかお前がここまで強力な魂装を持っているとは思わなくてな……。ちょいと作戦を練り直すことに決めたんだ。――悪いが、少し顔を貸してくれ」


「はい、わかりました」


 ……俺のこれは魂装じゃないんだけどなぁ。


 どうやらまずはその辺りから、説明する必要がありそうだ。



 その後、俺はラオ村の宿舎で『闇』の力についてベンさんに説明した。


「ふぅー……っ。まさかアレ(・・)が魂装ですらないとは……。アレン、お前は本当にとんでもないイレギュラーだな……」


 彼は呆れ半分といった様子でそう呟いた。


「あ、あはは……。すみません……」 


「いやしかし、本当に珍しい力だ……。これまで魂装使いは何百人と見てきたが、こんなに変わった能力を見たのは初めてだぞ……」


「そ、そうなんですか……?」


 俺がそう問い掛けると、ベンさんはコクリと頷いた。


「あぁ、間違いない。あいつら(・・・・)の反応を見ただろ? アレが答えだよ」


「な、なるほど……」


 ベンさんの言う通り、初めて俺の闇を見た上級聖騎士のみなさんは、一様に目を丸くしていた。


「とにかく――その闇は相当に珍しく、とんでもなくすげぇ能力だ。なんてったって、この俺が羨ましいと思うほどのもんだからな!」


「あはは、ありがとうございます」


 そうして話がひと段落したところで――部屋の扉がガンガンと荒く叩かれた。


「――おぅ、入れ!」


 ベンさんがそう言うと、無精髭(ぶしょうひげ)を蓄えた怖い顔の聖騎士が部屋に踏み込んできた。


「おぃ、支部長! ラオ村の住人、全員の無事が確認されたぞ!」


「おぉそうか、そいつはよかった!」


 どうやら、奇跡的に誰も命を落とさずに済んだようだ。

 なんとか闇の治療が間に合ってくれたみたいだ。


(……それにしても、本当に凄まじい治癒能力だな)


 正直言って……ミレイのお母さんは間に合わないと思っていた。

 俺が見ただけでも三回――彼女の胸に剣が深々と突き立てられた。


 まさかあの状態から、目立った後遺症も無く一瞬で完治させるとは……。


(……やはり間違いない。全てが(・・・)上昇(・・)している(・・・・)……っ)


 身体強化・攻撃力・防御力――そして治癒能力。

 闇の出力が上がるに連れて、これらの力は一気にグンと跳ね上がるようだ。


 それは頼もしくある反面、少しだけ怖くもあった。


(……これ(・・)と何か関係があるのか?)


 俺は白黒入り交じった自分の髪の毛をつまんだ。


 最近、俺の体にいくつもの異変が起きている。


 闇を纏わずとも発揮される凄まじい身体能力。

 恐ろしく丈夫なこの体。

 そして何より――突然、白黒入り交じった髪の毛。


(これってもしかして……少しずつアイツ(・・・)に似てきてやしないか?)


 アイツの身体能力は、俺が知っている中でぶっちぎりの一番だ。

 さらにその体は、刃が通らないほどに頑丈で――そして何より、奴の髪は真っ白だ。


(だ、大丈夫だよ、な……?)


 朝起きたら体を奪われていました。

 そんなことはさすがにない……と思いたい。


 俺が一人そんなことを考えていると、怖い顔の聖騎士は報告を続けた。


「――それと黒の組織の連中を絞り上げたところ、いくつか新しい情報がわかったぜ! 奴等の目的は、この国に眠る霊晶石(れいしょうせき)だ!」


 霊晶石――確か限られた地域でのみ産出される希少な鉱石だ。

 俺たちが授業で使う霊晶剣の他、黒の組織が開発している霊晶丸の素になる素材だ。


「それとだな……この先にある王城には、神託の十三騎士――レイン=グラッドが君臨しているそうだ。組織内では『雨男』と呼ばれる超凄腕の剣士だってよ」


 神託の十三騎士レイン=グラッド、か……。

 千刃学院を襲った神託の十三騎士フー=ルドラスと同格の剣士。


(……遥か格上の相手であることは間違いない)


 でも、リアやローズ、それにベンさんたち上級聖騎士と一緒ならば、勝てない相手ではないはずだ。


 そうして部下の報告を聞いたベンさんは、大きな声で命令を発した。


「――よぅし、わかった! それじゃまずは、全上級聖騎士をこの宿舎に集めろ! そこで特級戦力『アレン=ロードル』を全面に押し出した、新たな殲滅作戦を説明する!」


 それから俺たちは、ベンさんが練り上げた新たな殲滅作戦を頭に叩き込み――この国を支配する神託の十三騎士レイン=グラッドを討つため、ダグリオ北端に位置する王城へ向かったのだった。

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