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研究課題

 問題は選抜であるが、幸い私には博士論文の出版計画があり、ゲラができていた。そのゲラをコピーして残りは論文を2本つける。それで選抜を通ることができた。単著の著書をすでに著している人は珍しかった(単著は実名で出版されている)。


 研究の内容について詳述することはしない。略述すれば、当時すでにゲノム、臓器移植、ES細胞、生殖補助医療、クローン・キメラ・ハイブリッドなどの先端生命科学が進歩しており、そのような科学は生命を研究対象とするので法整備が課題であった。もっとも、行政指針や学会会告によって規制を行っていることも多く、関係法制には一貫性が無かった。それをどのようにしたらよいのかを考えようというのである。法はもとより、生命科学一般や医事法にも知識が必要で学習することはたくさんあった。



 A先生は国際法が専門であるのに生命倫理・医療倫理にも造詣が深く、わからないことは教えてもらえる。それに「問題のある教員」ではないので、安心してやっていくことができる。ちょうど博士論文を書き終わったところであるし、新しいことを始めるにもタイミングが良かった。



 だが、職としての待遇はよくない。月給は15万円で非常勤扱い。福利厚生は基本的にはない。常勤教員が一人で使っている部屋を京都大学法学研究科COE事業研究員6名でシェアし、机一つと本棚の一角が使えるという勤務環境(のちに女性の非常勤事務員の方が入ってきて、ここで業務を行うことになった)。任期は1年で最長2年まで延長可能。これはこんな職でも、何もない失業状態の研究者よりマシなので、職をなるべく多くのものに分配するための措置だった。事実、職務内容が研究に専念していればいいことになっていたので、応募してきた人は結構いたようだ。


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