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 無数の魔弾が魔獣を襲う。

 魔獣はこれまであらゆる魔術を無効とし何もなかったかのように平然としていたが、今ではその勇ましかった獅子の顔は歪んでいた。魔力の鎧は意味を成さず裸同然。今では踊るように迫りくる魔弾を避けている。魔弾は地面に辺り、魔力の残骸となって砕け溶けゆく氷のように消えていった。

 

 だがこれほどの魔弾の数を放ち続けているツキミにかかる負担は大きいだろう。彼女の額にすぅと一筋の汗が流れる。彼女の指で輝いている代々受け継がれてきたアッヘンバッハ家の秘宝「賢者の石」。その真紅の輝きと、その中に妖艶にうごめく影は一級品の宝石にも引けを取らない、いや超一級品でもだ。だが、それは見た目だけであり、その中身はアッヘンバッハの魔力に反応し魔力を増幅させる魔術具だ。

 

 だがその魔術具を使用したところで、彼女の中で血の如く巡っている魔力の量が増えているわけではない。増えているが、無限にこんこんと湧き枯れることをしらない泉とはわけが違う。無尽蔵にあるかと思われるが、それは確実に減っていっている。

 

 魔獣の魔力を使っているからと言って、ツキミが魔力を一切使っていないわけではない。

 魔弾に使用する魔力は魔獣との線を繋いで川を引くように精霊に魔力を与えられるようにはしているが、そこまでの川を創り精霊にそのように命令しているのはツキミだ。しかも声ではなく魔力で。今使役している精霊の数はもう両手ではかぞえられないほどに。

 

 「......くっ!!」

 歯を食いしばり、精密な魔力コントロールで精霊を従えていく。

 今グレイが行動を取ろうとしても、今では無駄に、いや邪魔をしてしまうだけだ。

 いまグレイにできるのは、ツキミを見守ることと、限界が近づいてきたときに彼女のみを守ってやれるように待機しているだけだ。

 「本当に俺がツキミを守れるか?」そんな声が何処かでした。

 「出来るさ。相手は俺だけを狙っている」

 「それは魔術師にはあの魔獣を倒せないからだ。魔獣だってそのことをしって見逃しているんだ。無害な動物を見逃すように」

 

 今でもすぐに抜けるようにしてある銃が、その冷徹な存在が更に大きくなった気がした。

 

 (もしこのまま、このままツキミが魔獣を倒してしまえば、彼女に人を殺した罪悪感を背負わせることになる。その時は......俺がこの引き金を引くしか無い)


 ただ俺は見守った。いや、立ちすくんでいた。

 

 

 

 ********************



 ツキミが精霊を使役しきれなくなり、少しずつ精霊の数が減っていっていっていた。

 魔獣にはダメージは相当なものだろうが、まだ動き回れるというのはしぶといからか、それとも最後の粘りか。

 仕留められなかったのは仕方がないが、ここで逃すのはまずい気がした。逃がすのは一番安全な方法でもある。だが、ここで逃してしまえば不意打ちの危険性、他の被害者の登場、そしてもう二度と相手の不意を打つことができない。今度は確実にツキミを狙って来る。ツキミだけは守らないと、その優先順位は十年前から決まっている。

 

 先程魔獣に吹き飛ばされたエイブは、まだ痛みはあるようで苦痛を滲ませた顔をしているが、それでも動けそうに見えた。まだいけるか?なんて視線で訴えてみる。エイブは親指を立てて頷いた。

 

 よし、エイブがいけるなら勝算はある。

 ここまで体力を減らしたのだから、ダメージが残るエイブでも五分の戦いが出来る。

 

 ツキミに早歩きで近づく。

 「なに?」

 近づいてきたグレイにツキミは問うた。近づいてみるとやはり無理をしているようでその額は脂汗が滲んでいた。隠そうと笑顔を見せようとしているが、引き攣った笑顔ではその疲労は隠しきれていなかった。

 「あと何分持ちそうか?」

 「10分よ」

 「わかった。あと30秒数えたらお前は離れたところで休憩しろ。人払いだけしてくれていたらいい」

 グレイは歩きだす。ツキミは「ちょっとっ!」と呼び止めようとしていたが振り向かない。

 心の中で数字を数える。

 今から危険に身を投げ出すというためか、鼓動が速くなる。数える数字は正しいか?

 残り時間が10秒が過ぎた。短すぎる。

 だがやりきるしか無い。この事件を解決し、これまで通りの日常を取り戻す。

 それが全てだろ?


 

 30。

 ツキミは魔弾を撃つのを辞めなかった。だがもう関係ない。

 ポケットから銃を抜き出し、初めて殺意を込めその引き金を引いた。練習した時にはあれほど躊躇いなく引けた引き金は今回は酷く重く、必死に力を込めた。弾が当たれば相手の生命を奪うことになる。だが、それでも俺は引かなくてはならなかった。魔獣はこちらに気付くことはなく、脳天ではなく比較的に当たりやすいだろうと思われる胴体を狙う。火薬が破裂し弾丸が飛び出した音がした。目でその弾を見ることはできなかった。


 何処に言ったのかは解らなかったが、魔獣に当たったのだろう悲鳴を上げながら転がりまわる。地面に血滴がその赤を示していた。

 それを合図だと判断したエイブが飛び出した。

 ツキミは俺が銃を撃ったことに驚いたのか、それともエイブが動いて精霊が邪魔になると判断したのか、精霊を操るのを辞め、距離をとった。良い判断だ。

 

 エイブの動きは始めほどのキレは無かったものの、ツキミの精霊魔術によるダメージ、そして俺の銃による不意打ちによって十分に戦えるものであった。

 

 俺は何時でも引き金を引けるように銃を構える。

 魔術を扱う魔術師にとって、これほど屈辱的なことはないだろう。自分の磨いてきた魔術を捨て、こんな野蛮な武器を構えるのは魔術師として失格だ。そんなことは俺でもわかっている。だが、もともと魔術が使えないのだからこれぐらいはいいだろう。

  

 エイブは魔術が効かないことを知っているため、距離を取ることを捨てゼロ距離で戦い続ける。

 口から吐き出される火焔など、一度見てしまえば木にすることなんて無いと言うかのように吐き出された瞬間、その火焔を打ち消すかのように、その炎を打ち消すように氷属性の魔術を放つ。そしてあっという間に水となって地面に落ちた。

 

 ツキミが何か呟く。回復魔術だろう。それだけでエイブの動きは更に良くなっていった。

 受けていた攻撃は交わし、カウンターを狙う。恐れていた爪は強化した拳で砕く。もう少しというところで身体に届かなかった拳が魔獣の胴体を抉った。

 

 血を含むつばをを吐き出しながら魔獣は吹き飛んでいった。

 エイブはこれで十分だろうと追い打ちをかけることはなく、地面を転がる魔獣を眺めていた。エイブの目は正しかったように、魔獣は起き上がることはなく身体を起こすことなく血を吐いた。起き上がる気がないのか、体力がないのか、エイブがなにかして動けなくなったのかは知らないが、逃げるような気配はなくその場でぐったりとしている。


 これで終わったのか?なんて疑問を抱きながらも俺も構えていた銃をおろし、ツキミに声を掛ける。

 「魔獣に逃げられないように結界を張ってくれ」

 「はい」人払いの結界を張ったのと同じ要領でおこなった。確かに魔獣の周りに覆うように結界が張られていくのが見えた。凄いものだ。

 

 エイブも結界を張られたのを見てこちらに向かって歩いてくる。

 「これで終わったのか?」

 「まあな。これで人が傷つくことはないだろう」

 「そうか」

 エイブは回復魔術でも治りきらなかった腰を摩りながら魔獣の方を見つめた。その表情を見る限り歯ごたえがある相手だったからか満足気に見えた。

 

 「事件が解決したとは言わないのね、グレイ」そのエイブとは対象的にツキミの顔は不満げだ。

 「まあ、解決したわけではないからな」

 「どういうこと?」

 「まあそのうち話す。とにかく目の前のことだ」というとグレイは魔獣の方に向かって歩いていった。

 

 前に立つと、魔獣は目だけ動かしグレイを見た。

 ギロリ、という擬音が似合う。身体は動かずともその目は殺意が込められていた。

 こんな状態でも未だ俺を殺そうと考えているというのか。それほど事件のことを解決してほしくないらしい。

 「もう変身を解いていいぞ」

 「変身?」ツキミが小首を傾げる。

 なんのことかと魔獣は睨んでいるだけだ。誤魔化せるとでも考えているのか?

 

 「ああ。こいつは魔獣だが、もとは人間だ」

 「人間が魔獣?」

 「どういうことだグレイ?」エイブも不思議そうに言った。「人間が魔獣になることはありえないだろう」

 「そうだ。ツキミ、魔獣とは一体何だ?普通の動物とは何処が違う?」

 「えっと......動物には体内に魔力を集めることができないけど、魔獣は集めて使うことが出来るのでしょ?」

 「だから魔力を体内で生成できる人間はなれないんだ」エイブがツキミに言う。「これが変身だとしても、ここまで完璧に魔獣になることなんてできない」

 「そうだ。だから、だ。」


 「なるほど!ファミューダ博士ねっ!!!」ツキミが声を上げる。

 「ファミューダ教授?」エイブは合致していないようだ。まあ仕方がないだろう。彼が研究している分野とは異なっているし、それにこの学園では研究者が多すぎるため名前と研究内容が合致しないことが多い。

 「ああ、ツキミ正解だ。人間を魔獣にへと変える研究をしていたのだと俺は考えた」

 「でも研究室なんて一回、しかもさっきだけじゃない。考えただけでそれが本当になるなんてわからないでしょ?」

 「まあ、そうだ。だが、シルミダからもらったあの書類だ。あれにはあの研究室で行方不明となった人たちの個人情報などが書かれていた」


 「行方不明の人たちが魔獣になったってことね」

 「なったかどうかはわからないが、実験されたのはそうだろうな。生き物を魔獣にできたファミューダからしたら、人間を魔獣にしたらどうなるのかという好奇心が出てきても不思議ではない。そしてファミューダは行方不明者を探すことも上に話すこともなかった。言ってしまえば実験がバレてしまうから......まあ動機がこうだとしてもそれを裏付ける事実がない」

 ツキミは相槌を打つ。

 「それを今回魔獣を捕まえることで明らかにしようと考えたわけだ」

 「まあ、魔獣が証拠になるのは確かだけれど......」

 「明らかに計画としては杜撰ではないか?」話を聞いていたエイブが言った。

 「もちろん。まあ杜撰ではあったが、このまま魔獣を野放しにしているのもどうかと思ってな」グレイは改めて魔獣を見る。「できればその姿ではなく人間の姿を見せてほしい」


 それでも魔獣は睨みつけているだけであった。

 グレイはため息をつく。なんだか動物に話しかけているみたいで小っ恥ずかしい。エイブだってこっちを見る目が冷たくなってきた。

 「シルミダさん。お願いしますから」

 魔獣の目に微かな動揺が走ったのを見逃さなかった。

 「シルミダさんは死んだはずよ」ツキミはすかさず言った。「死体は私が確認したわ。心臓を一刺しだった」

 「そんなことどうにでもなる。心臓を一刺し。他に傷がなかったのだろう?争った形跡すら」

 「不意打ちだったからじゃ......」だがその自信なさげな表情からは、それが間違っているということを認めているようだった。

 「違うな。魔獣は本当に殺そうとした人間しか殺していないじゃないか。シルミダの話を聞いた俺だって命は取られなかった。だけどシルミダが殺されるというのは変じゃないか?それに心臓を一刺し、しかも争った形跡がないなんてあまりに殺されにいっているようじゃないか」

 「それじゃあ自分を死んだと知らしめたかったわけ?」

 「そこらへんはそこで寝っ転がっている魔獣に聞け。そして死体が綺麗すぎたのは、シルミダが死んだと周りに思わせるためだったのだろうが、やりすぎた。綺麗すぎたんだ。多少争った形跡を残すべきだった。でも相手が動けないのなら作るのは難しかったから、ああするしかなかった」

 「でも死体はどうしたっていうの?」


 「それは変身魔術じゃないのか?」エイブが言う。「変身魔術ならその人の容姿をまんまに変えれることができるし、時間が経っても始めの魔力が多いだけでその容姿を持続させるなら容易だろう」

 「だな」グレイは頷いた。「まあツキミはそのあたりまだ勉強できていないからわからないのは仕方がない」

 「何よその言い方......あ、」ツキミがよろけた。それはまるで目眩がしたかのようだったが、明らかに結界を張り続けた結果魔力が欠乏している症状だった。

 

 「生徒もこんな様子なのでお願いします」

 先程まで睨んでいた魔獣の目は、今では弱弱しくなっていた。エイブもその様子を見て確信したのだろう。

 「強制的にその魔獣の姿を解くことになるぞ」

 そんな方法があるのだろうかとグレイは思うが、あるのだろう。そんな方法知らないが。

 

 ついに魔獣は横たわっていたのをやめた。風船に穴が空いたかのように体はしぼんでいく。剛毛で覆われていた皮膚は、毛は一つの場所に集まり髪に、そして獅子の体はやがて人になっていった。

 

 「ごめんなさい、服を貸していただけないかしら」

 全裸のシルミダは恥ずかしそうに頬を染めながらいった。

 しまった、そこまで考えていなかった。目を背けた方向にいたエイブも同じことを考えていたようだった。

  


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