amalgam
「………………それでは次、………………あ、あーるま………………?」
「あ、黒崎 凜でいいです。………………長くて、面倒だし。」
「は、はぁ………………それでは、黒崎さん。ここの答えは?」
「ふぅん………………4xですかね?」
「はい正解、それでは次を………………」
………………ふぅ、なんとか答えられた。高さの合わない椅子に腰を下ろしてほっと一息つくと、同時にチャイムが鳴る。適当に号令がかかるのとほぼ同時に、扉を乱雑に開いてすたすたとみんなが食堂めがけて走っていく。
「あれ?凜ちゃんは御飯食べに行かないの?」
「うん、今日はお弁当にしたの。」
そう言ってカバンの中から小さなお弁当箱を取り出すと、机の上に広げた。
「………………あ、おいしそう………………」
「あら、食べる?」
ちょうど横を通りすがった安栗さんの口にミニトマトを押し込んでお引き取り願うと、ご飯にまず箸をつける。
「それにしてもお弁当なの勿体なくない? 食堂で食べれば楽なのに。」
「あら、そんな事ないわよ。こうやって作る楽しみもあるし、それにお昼ぐらいはたまにでもゆっくりしたいじゃない?………………あんな戦場じゃゆっくりなんて、到底できないもの。」
と、次のおかずに箸をつける。
………………それにしても、なんで私が口許にご飯を持っていくだけで、こう、周りからため息が漏れるのかな………………
「そっかぁ………………んじゃ私たちは食堂行くねっ」
と、私の周りから人が居なくなっていく。その背中を見送ったあと、ほっともう一つため息をつく。
「………………たまにでもゆっくりしたいってのはホンネだけど、ほんとは違うんだよね。」
………………………………言えるわけないよね、私がお刺身とかマグロのたたきとか、そういうナマモノが大嫌いってこと。
(私は他の人とは違いすぎるもの。………………誰もホントの私のことを、知らないんだから。)
………………だけど、あの子なら………………こないだ『見つけた』あの子だったらきっと、私のことを分かってくれるかも。
卵焼きの最後のひと切れを箸でつっつきながら、ぼんやりとその子を待ってみた。
(………………これで、決める。)
耳元で響くキリキリという音。一つ気を抜けば、そのまま暴発するって知ってるから、あえてぴぃんと気を張り詰めたまま。緩めるのはほんの一瞬………………………………っ、今!!
込めていた力を『ほんのり』と緩める。その、『ほんのり』が、風を切り裂いて的を射抜く………………はず、だった。
「惜しいっすね、あと6センチ………………風あるのかなぁ………………」
弓を下ろすと同時にほうっと息を吐くと、すかさず安栗先輩………………いや、在籍年数も経験も私の方が上だけど、向こうは高一の編入組で………………が、隣の射場に立って矢を番える。
「………………っ!?」
引き絞ったかと思いきや、タイミングすら外して雑に矢は放たれて、的の端をかすめて土壁に刺さる。
「どうしました?」
「………………………………蚊にさされた………………」
べしっとほっぺたを叩いて手のひらを見せてくる。
「集中力が甘いですよ。好きに吸わせればいいんです。」
そう言って次の矢を番えると、また引き絞って射る。今度も的中しなかった。
「………………沙也加っちも集中できてないじゃん。」
「う、うるさいですっ!!」
大股で射場を後にすると、ロッカールームの扉を雑に開ける。
(………………こ、このっ………………あいつ………………あいつの、せいだ………………)
ここの所チラついて片時も離れてくれないあの顔、あの態度。どれだけ集中したくても、させてくれない。
(………………………………なんなんだっ、この………………変なモヤモヤはっ………………)