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2話、『世界最強』の実力

 前回のあらすじ。

 公園で日向ぼっこをしていた青野楓は近所の小学校で立て篭もり事件が起きたことを知り、事件解決のために犯人と交渉するのだが、犯人の要求を飲むことはできなかった。

「死ね!!」

 楓に向けられたサブマシンガンから無数の弾丸が発射される。

 立て篭もり犯と楓の間合いは約20メートル。

 片手で乱射したとしても当てるのはそう難しくはない。

 当然ながら棒立ちであれば楓は3秒で蜂の巣だろう。

 楓は自身の前面に防御障壁バリアを展開し、弾丸の雨を防ぐ。

 効果範囲も流れ弾が保障局局員や野次馬に当たらないために半径3メートルの半円形。


(妙だな……銃ってこんなに半永久的に射撃できるのか?)

 銃に疎い楓も弾倉マガジンの存在くらい知っている。

 サブマシンガンは多くても50発程度しか一度に射撃することはできない。

 魔法を用いて改造していたとしても150から250程度が限界だろう。

 射出速度が分速900発であれば一度に乱射できるのは15秒程度となる。

 最初の弾丸が防御障壁に命中して15秒は既に経っており、現在20秒を迎えようとしていた。


 痺れを切らした楓は()()()()()()()()()()()跳んだ。

 多くの魔法使いは自分を中心のエリアにしか障壁を展開することは出来ない、その先入観をつく作戦のつもりであった。

 だが、立て篭もり犯の男はそれを見て笑う。

 待っていた、と言わんばかりに笑った。

 盾にしていた人質(女性)を突き飛ばし、左手にマシンガンを装備した。

 男も一流なのだろう、魔法を使ったとはいえ、装備に0.01秒もかかっていない。

 右手はサブマシンガンを未だ撃ち続けており、左手のマシンガンで楓を狙う。

 楓の跳躍は物理法則を無視しているわけではない。山なりの跳躍。

 つまり最高到達点に達した時、極わずかではあるが狙い撃ちにできる瞬間が存在するはずなのだ。

 そして、楓の跳躍が最高到達点に達し、マシンガンに引き金を引いた時、()()()()()()


 重力操作の魔法により引力を極端に強くしたのである。

 本人はいともたやすくやっているが、重力操作による落下が早すぎれば着地時の衝撃が強くなりスキを生む。落下が遅すぎれば当然着地までの時間が長くなり行為の意味が弱くなる。

 本来、このような使い方をする魔法使いはいないが、楓はそんな些細なことを気にしていない。

 そのおかげでサブマシンガンもマシンガンも着地した楓を狙っていない、つまり楓は安全地帯にいるわけだ。

 対して立て篭もり犯は人質という盾を突き飛ばしているため、スキだらけである。

 楓がこのスキを見逃すわけがない、というよりも意図的にこのスキを狙っての下降。

 立て篭もり犯が楓の着地を認識した時には、もうすでに楓は立て篭もり犯の懐に踏み込み、鳩尾に渾身のボディブローを叩き込む。

 立て篭もり犯が膝から倒れこむのを楓は達成感もなく当然の摂理だと言いたいような顔で見ていた。


 楓の跳躍から5秒も経っていない。

 瞬殺とはこのためにあるのではないか、と思えるほどの電光石火。

 誰もが目を疑うようなレベルの戦闘を楓はやってみせた。

 勝因は特にない。

 楓にとって全ては本能や反射のレベルであり、倒すことは必然に等しかった。

 ゆえに『勝てて良かった』などと安堵することもなく、他の立て篭もり犯残り2名の無力化をどうするかということしか考えていない。


「あらよっとっ」

 昇降口の前の立て篭もり犯を局員に確保するように指示を出した楓はそのまま校内に侵入せずにジャンプして屋上に登った。

 この小学校は北校舎と南校舎の2棟であり、楓が今いるのは北校舎だ。

 楓はジャンプする前に探知魔法を使い、北校舎内に人間がいないことを確認していた。

「村雨、立て篭もり犯は3人だと聞いたが本当に3人か?」

『それは間違いないと思うよ。索敵魔法を4種類使ったけれどさっきの大男を含めて南校舎に確認できるのは全部で23人。うち21人が教職員たちを含めた人質だから犯人は残り2人だね。1人は人質の周辺を歩きながら見張ってる。もう1人は廊下をうろうろしながら警戒している様子。どっちも手馴れてる、素人の動きじゃない』


「残り2人か……。なぁ村雨。今回の事件、どう考えてもおかしいことだらけだよな」

『あー、やっぱり感じる?』

「確かに立て篭もり犯のヤツらは優秀な魔法使いだ。さっきの男もSランクの魔法使いで間違いない」

 魔法使いは基本的にS・A・B・C・Dの5段階で評価される。

 DやCというのは魔法使いを自称できるレベルではなくむしろ落ちこぼれの烙印である。

 B・Aランクになれば職業として魔法使いを名乗ることが世間的に許されるだけの実力を持つ。

 これらのランクは役所などで認可してもらう資格ではなく、あくまで指標であるため法的拘束力などは存在しない。

 なお、魔法が使えない者はEランク。そして、楓のように基準を逸脱した能力値を有する魔法使い達はSSランク、または〈偉大な魔法使い達(マギカ・グランデ)〉と扱われている。


「日本の小学校を占拠する、それだけなら確かにSランクの魔法使いが3人で十分というのは分かる。しかし、囚人レインの解放の要求と青野楓の縄張での犯罪ならば不十分、自惚れも甚だしい」

 さらに楓が不可解だったのは要求である。

 レインの処刑は公になっていないとはいえ極秘事項ではない。

 レイン本人の死を知ることはそう難しいことではないはずなのだ。

 ここまでのテロ事件の犯人たちが処刑の事実を知らないことは不自然としか言えない。

 考えられる可能性は2つ。犯人達は()()()()()()()()()()()()()()()()、もしくは()()()()()()()()()()()()()()()()()()くらいであるが、その両方とも楓は納得できなかった。

『まぁ、密入国してまでの犯行にしては適当すぎるとは思うよ。これが陽動なら同時多発テロを警戒する必要があるね』

「分かっているなら全力で警戒しろ。システムの使用権限をBまで許可する」

『了解。システム権限の許可を確認しました』


 村雨との通信を止めた楓は北校舎と南校舎の狭間に存在する中庭に着地した。

 立て篭もり犯たちに気づかれないように着地の衝撃は完全に消していた。

 すでに人間の領域を超えている。


局長マスター。右手側の昇降口付近に男が1人、銃を構えて待機してる。迂闊な行動は控えたほうが良い』

「右手側か……あそこだな」

 楓は村雨が言っていた昇降口を確認し作戦を練った。

「あぁ、それで行くか」

 と楓は誰に相談するわけでもなく独断で先行した。

 警戒することなく、極普通に歩き、そして昇降口に入り靴箱を素通り。

 迂闊の極みとも言える間抜けすぎる行為。

 歴戦の戦士とはとても思えない平凡さが滲み出ていた。

 そして、廊下に出て、曲がり角を曲がった瞬間、立て篭もり犯の白人に見つかる。


 当たり前のように男は構えていたショットガンの銃口を楓に向けて引き金を引く。

 ポンプアクションのショットガンから広範囲に拡散した無数の散弾が楓を貫いた。

 散弾に貫かれた楓は同時に吹き飛ぶ。

 吹き飛ぶ楓を正面からもう一度、立て篭もり犯は撃った。

 ダメ押しの散弾は無慈悲に楓を襲う。

 糸の切れた操り人形のように廊下に倒れる楓。

 そんな楓に対し、立て篭もり犯はもう1回、もう2回と無駄に殺す。

 よほどの恨みがあったのか、それとも散弾を数発撃ち込んでも楓なら耐えてみせると思ったのか。

 真意は分からないが、これだけの散弾を撃たれて生きてる魔法使いはいるはずない。


「くくく……ははは、ふはははは!やった!あの青野楓をオレが殺した!!オレが殺したんだ!!」

 高らかに笑う。憎き仇敵を殺せたことに歓喜する。

 勝利の余韻に浸っていたその時、男の耳に背中側から信じられない肉声が届く。

「いや、流石にそこまでするか?いくら相手が青野楓このオレだからってさ?」

「なっ!?」

 立て篭もり犯の男が驚愕し、振り返った瞬間、殺したはずの青野楓が自分の背中に触れていたのだ。

 そして。

「寝てろ、お前が勝てる道理なんてないんだから」

 楓は感電死しない程度の電流を男に流した。

 言語では表現しにくい悲鳴を流しながら男は倒れる。


 無様に気絶した白人の大男を見て楓は呟く。

「やっぱり『分身』は使えるな、もっと人気出るべきだと思うんだが」

 楓が指をパチンと鳴らすと、楓の姿をしたモノは粉微塵に消滅した。

 分身の術。

 一般的には魔法というよりも忍術のイメージがあるが楓はそんなことを気にしていない。

 使える術技は使う。戦士として当然の判断であり手数は多いに越したことはない。


 うつ伏せで倒れている立て篭もり犯の背中に腰掛けて楓は小休憩を挟む。

「さて、残りは1人。職員室で人質を見張っているヤツか……一番面倒だな」

 最初に倒した黒人男性同様に挑発に似た行為で注意を逸らし一撃で倒そうかと思ったが、バカの一つ覚えも芸がない。

「どうしようかなぁ……」

 完全にゲーム感覚になっていた。

 緊張感が欠如してしまっている。

 人質が居るとはいえ、楓は一対一タイマンで負けることを想定していなかった。

 なぜなら青野楓とはそういう男だからである。

 硬い表現をするなら『一騎当千』、若者が好む表現であれば『チート野郎』

 世界に7人しかいない〈偉大な魔法使い達(マギカ・グランデ)〉の1人であり、『世界最強』と謳われている青野楓が有象無象を無双することなぞ当然の結果でしかない。

 そんな青野楓が苦戦するような相手がやってきたのなら、人質の犠牲は必須事項であるが、そんな強敵が人質に頼る必要はない。大量虐殺が目的であれば立て篭もりのような面倒な行為に及ぶ必要はなく、青野楓本人を殺すのであれば公園で呆けているところを()()()から狙撃するのが最適解だろう。


局長マスター!十時の方向から未確認飛翔体が接近中です!』

「なんだとっ!?増援か!?」

 村雨の動揺した発言に流石の楓も驚きを隠せていない。

『分かりません!このままではもう間もなく小学校そこに来ます!』

 楓が村雨からの通信を聞いたとほぼ同時に轟音が鳴り響いた。

 反射的に楓は自身を中心とした360°に防御障壁バリアを展開した。

 耳をつんざくような衝撃音が楓を襲い、相応の衝撃も襲った。

 足元の立て篭もり犯は防御障壁内で気絶したままであるが、それを気にしているほど楓も優しくはない。

「ちっ!村雨!何が起きてる!?」

『…………』

「呆けるな、村雨!!」

『あ、すみません。あまりの出来事に驚きを隠せなくて』

「どうした?」

『状況を説明します。北校舎の4階は半壊し、3階の教室も瓦礫で押し潰されています』

「被害報告よりも飛翔体云々の説明をしろ!」

 飛翔体が校舎の一部を破壊したことは説明されなくても理解していた。

 問題は人質が無事なのかどうか、それから飛翔体の正体などである。

『人質は……おそらく無事です』

「説明が中途半端だぞ」

『申し訳ないとは思っています。しかし、こちらから状況を説明しにくいです。なぜなら……』


「お前が青野楓かぁーーーー!!!」


 奇声が聞こえてきた。

 若い少女の声であり、声の主は推定2メートルの立て篭もり犯の最後の1人ではないと楓も判断できるモノだった。


「聞こえているのか、このクズがぁーーーー!!!」

 自分に向けて発しているものではないと楓も分かっている。

 しかし、その怒声は正直聞いてて気分が良いものではなかった。

「……村雨、もしかして?」

『はい。説明に戻ります。……推定10代半ばの少女が校舎の一部を破壊し中庭に着地。そして中庭から職員室の壁も破壊して、立て篭もり犯の首を掴み投げ飛ばし尋問を開始しています……が、犯人は既に気絶しています』

「……はぁ。超展開すぎるだろ」

 楓は頭を抱えた。

 飛翔体の正体がその少女なのは言うまでもないが、なぜ立て篭もり事件の現場に飛んできて、白人男性に対して『青野楓かどうか』と詰問する意味が分からなかった。

 楓本人もそれなりに自分の知名度を理解していたが、それを差し引いても白人の大男と間違われる特徴を自分が持っているとは思えなかった。

 つまり、立て篭もり事件以上の異常事態に巻き込まれたわけである。


「あー、もういいわ。村雨、システム権限をCランクに下げろ」

 興ざめもはなはだしい展開に対し、楓はぞんざいに指示を出す。

『え?そんな判断で大丈夫?』

「あぁ、謎の少女の狙いは知らんが、立て篭もり犯は全員気絶しているわけだろ?」

『まぁ……そうだけど……』

「なら、オレがあのふざけた少女バカを半殺しにすれば事件解決じゃねぇか」

『少々迂闊じゃない?』

「黙れ。他に同様の事件が起きてないかを30分は注意し続けろ。だがその前に運動場で待機している局員たちにこのアホ面と人質の無事の確保と野次馬の退避を優先するように指示。5分経っても、他にテロ事件が起きていなかった場合は保障局本部の判断に従ってくれ。もっとも5分もかかるわけねぇだろうけど」

 アホ面で気絶している立て篭もり犯の男を軽く蹴りながら楓は村雨に指示を出した。

『りょうかい……多忙だなぁ』

 村雨は嫌々そうに文句を吐きながらも指示にはきちんと返事をする。


「お前が青野楓かぁーーー!!」

 両腕に篭手のような武器を装着した少女が飛び掛ってきたのだが、楓は右に体をそらして避ける。

 小学生がドッジボールのボールを避けるがごとく、当たり前に避けてみせた。

 少女は前転するように右手で廊下を押して体勢を整え、再度楓を睨みつけた。

「あぁ、そうだ、オレが青野楓だ」

 楓は構える。常勝不敗の男として少女の蛮行を裁こうとする。

 目の前の少女に手加減をするつもりはなく、半殺しすると決めた以上、立て篭もり犯の男たち同様に気絶するまで殴る蹴るなどをするつもりだった。

 ある種のガス抜きのつもりであったのだ。

「テメェの狙いに興味はねぇが、オレにケンカを売った以上、怪我で済むとは思ってねぇだろうな?」

 だが、楓は少女相手に苦戦することになるとは微塵も予想していなかった。

 傲慢なわけではなく、自身の能力を正当に評価しているからこそ、予想できる訳がなかった。

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