表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/14

―夢―





気が付くと、オレは、真っ白な世界にいた。



前も、後ろも、上も、下も。



白い、霧のようなものがオレを取り囲んでいて、せいぜい2、3メートル先くらいしか見えない。



・・・・ああ、また夢の中にいるのか。



そう納得するのに時間はかからなかった。



暑いか寒いかで言えば、真ん中よりやや寒い寄りかもしれない。



オレはさっきまでと同じ服装だったけど、むき出しの腕が少し冷えてくる感覚がしていたから。



ここは、どこだ・・・・?



いや、夢の中というのは分かっているのだけど、こんなに無機質な場所ははじめてなのだ。



確かオレは、弥生を探しに駆け出して、途中で車に・・・・・?



だったら、オレはそのまま死んだのか?



いや、その前に新庄が言ってたじゃないか。



ここは、自分が作り出した夢の世界だと――――――――




だったら、夢の中で事故に遭ったって、それでオレが死ぬなんておかしな話じゃないか。



そもそも、夢の世界にいたはずのオレが、また夢の中にいるなんて、いったいどういう意味だ・・・・?



オレは突っ立ったまま、わけ分からぬ事態に困惑していた。



まさか、ここは夢の中ではなくあの世なのか?


そんな考えに怯んでしまったり、


いや、オレは生き返っていいって、新庄がそう言ってたじゃないか。


怪しい男の説明に可能性を預けたり。



気持ちが、忙しなく動きまわる。



オレはその場で右、左に向き、ぐるりと一周してみたけれど、霧は一瞬引くだけで、すぐにもとに戻ってしまうのだ。


両手で払っても、きりがない。



いくら腕を振ってももがいても変わらない現実に、オレの中には焦りが芽生えてきた。



そうしてる間にも、徐々に冷えが増してくる気がした。



やがて、足先、手先から伝わってきて、体の芯にまで寒気が入り込みそうになったとき―――――――――




『諒ちゃん?』




弥生の、声がした。




『弥生っ?!』



急いで後ろを振り返ったけれど、そこには誰もいない。



気のせいか・・・?



そう思い落胆するも、また、



『諒ちゃんなの?』



オレを呼ぶ声がするのだ。



『弥生?弥生、どこにいるんだ?!』



まわりを見ながら叫んだオレは、霧を両腕で切って割いた。



『弥生っ!どこだ?!返事しろ!』



霧の中、かき分けるようにして数歩を進んでみるも、どこにも弥生はいない。



なのに、声だけは届いてくるのだ。



『諒ちゃん、無事なのね?』


『ああ、ここにいる!弥生は?!弥生は無事なのか?!』


弥生の声かけに応じるも、その姿を見るまでは安心できない。


オレは腹の底から声をあげた。



『諒ちゃんが無事なら、よかった・・・・・』



弥生の安堵する声に、オレはもう一度叫んでみる。



『どこにいるんだ、弥生っ!お前は大丈夫なのか?!』



けれど弥生はそれには答えてくれない。



『諒ちゃん、私ね、諒ちゃんのことが大好きだよ』



“大好き”



その言葉が、胸にささる。




『・・・・なに、言ってんだよ。そんなの、今じゃなくても・・・』



『だめだよ。私、ちゃんと言ってなかったもん』



『だから、“もん”なんて子供みたいな言い方するなよ』



姿のない弥生と会話していても、焦燥は募るばかりで、

オレの額には、じわりと汗が滲み出てきた。



『諒ちゃん、私、諒ちゃんとずっと一緒にいるつもりだったんだよ?』



・・・・弥生はなにを言い出すんだ?



オレは上下、360度、首がねじ曲がるんじゃないかというくらいに全力で弥生を探した。


姿が見つからなくても、気配だけでも手に入れたくて、必死に探したけれど、欠片も見当たらない。



なのに、声だけはするのだ。



まるで、

どこか高いところからオレを見ているかのように―――――――――――




『わたし、諒ちゃんとずっと一緒にいたかった。だから、外国で仕事をしたいって言ってた諒ちゃんについて行けるように、英会話スクールにも通いだしたんだよ?東京の大学に行ってからも、ずっと、諒ちゃんのことを考えてた。距離ができても、私はずっと諒ちゃんのそばにいたんだよ?』


そんなの、今弥生がここにいない状態で聞かされても、素直に受け入れられない。



『もういい!それはお前の顔を見てから聞くから!だからはやくここに来てくれ!弥生っ!』



まだ何か言いたそうな弥生に、オレは絶叫した。



そうでもしないと、自分の言いたいことを言い終えた弥生が、そのまま消えてしまいそうな気がしたから。



『諒ちゃん・・・・』



弥生が、どこか悲しそうにオレの名を呟いた。



『ごめんね、諒ちゃん。それはできないんだ』



『――――――っ!なんでたよ?!なんでできないんだよ?!』



『諒ちゃん・・・・』



弥生はもう一度オレの名前を呼ぶと、



『諒ちゃん、これだけは覚えていてね。私は、どんなに遠く離れたところにいても、顔が見えなくても、諒ちゃんのことを思ってるから。心は、いつも諒ちゃんのそばにあるからね』



語りかけるように言ったのだった。



『なんだよそれ!そんな、別れの文句みたいなこと言うんじゃねーよっ!ふざけんなっ!はやくここまで来いよ!』



オレはどうしようもない焦りを苛立ちに混ぜて声の限りに叫んだ。




けれど、





もう、弥生がそれに応えてくれることはなかった。






『・・・・弥生?』



静かになった辺りに、オレの声だけが響く。



『弥生?どこだ・・・?弥生?』



自分の声なのに、情けないほど、頼りない。



『弥生・・・・・弥生っ!』



最後に渾身の強さで弥生を呼んだとき、






パパパパパパ―――――――――――――ッ!!







けたたましい音と、閃光に包まれ、







オレは咄嗟に、両目を閉じたのだった――――――――――――――――
















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ