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違和感と、正体







「でもちょっとこれは濡れ過ぎだね・・・・・・・。私、家からタオル持ってくるよ」



弥生はそう言い残すと、走って家に向かっていった。



オレも一緒に戻ると言いたかったころだが、あいにく車を路駐してる身では、この場から離れることもできず、仕方なく弥生の帰りを待つことにしたのだった。





走っていく弥生の姿が護岸コンクリートを超えて見えなくなると、オレはそこで、じわじわと現実を感じはじめた。




弥生の記憶が戻った―――――――――――――――――――――――





何がきっかけになったのかは分からない。



あの大きな波をかぶったのがよかったのだろうか・・・・・




とにかく、弥生の記憶が戻ったのに間違いない。





気になるのは、記憶をなくしてる間のことを覚えているかどうかだが、



それは、さっきオレが弥生に宣言したように、オレが責任持って記憶を戻した弥生に教えてやるつもりだ。




残る問題は、交通事故の件だろうか。

デリケートな弥生の状況に配慮してもらい、いろいろなことを後まわしにしてもらっているのだから。



オレはとにかく弥生にもう一度細かな確認をしてから、すぐに警察と病院に連絡しなくては・・と思った。




そして、こんなにすぐ記憶が戻るなら、旅行中の親達に連絡がつながらなくて、却ってよかったのかもしれないと思い直していた。



いらぬ心配をかけずにすみそうだったから。




オレは体の細胞のひとつひとつが、”安堵” を刻んでいるようで、心の奥底のまた最奥から、ホッとしていた。






だが、濡れたTシャツを海風が揺らしたとき、




あの違和感が、再び目の前に現れた―――――――――――――








オレは奇妙な感覚にめまいがして、よろめいてしまった。




バシャ・・・・・・




波の中に膝をつき、気分の悪さが大きくなっていくのを感じた。





なんなんだ、これは・・・・・・



いったいなにがこんなに不快を煽ってるんだ・・・・・・・







わけのわからぬ症状に襲われたオレは、腹の中のものがすべて上がってくる感触に思わず手で口を覆い隠し、


そしてその時、



ついに違和感の正体を見つけた―――――――――――――――――――――












匂い、だ。












匂いが、しないのだ。














オレが作ったカレーも、


朝の食卓に並んだ納豆も、


弥生が好きなあの肉屋のコロッケも、


中学の同級生がつけているはずの香水も、


鉄棒を握ったあとのあの独特の鉄臭さも、


ガソリンスタンドも、


フードコートも、


石鹸の店も、




そして、この海も――――――――――――――――――










すべてのものから、匂いが、消えていた―――――――――――――――――――














「そんな・・・・・・・・・・


 匂いがしないなんて・・・・・・・・・・・・」




オレが愕然と両手で海水をすくい上げると、そのとき、





「よくお気付きになりましたね」




背後で、男の声がした。





反射的に振り返ると、そこには、新庄が立っていた。





いつもと同じように、すらりとしたスーツ姿で。





そうまさしく、いつもの姿で・・・・・・





ここは浜辺で、こんなに風が吹いているというのに、彼は、ネクタイも、上着も、髪の毛一本さえ、風になびかせていないのだ。






オレはその佇まいに、恐怖めいたものを感じた。







「あなたが気付かれたように、この世界では ”匂い” は存在しません」



「な・・・・・に言ってるんですか・・・・・・・?」



オレは海水に膝立ちになったまま男を見上げていたが、口の中がカラッカラに乾いていて、そう尋ねるのがやっとだった。





オレの問いに反応するように、少し離れた浜辺にいた新庄が、一歩、オレに近付いた。






「あなたはあの日、事故に遭いました――――――――――――」




          

           

新庄にそう言われた次の瞬間、







                        



パパパパパパパパ―――――――――――――――ンッ!!!!!




                

              


                  




けたたましい音がして、脳に激しい痛みが走った。





あれは・・・・・・クラクションの音だ。




オレはあまりの痛さに四つん這いになっていたが、ハッとして、新庄の方を見た。



すると新庄はまた少しオレに近付いていて、悠然と、意味不明の微笑みを浮かべている。

              

             

              

               

                

             

                

そうして、静かに、語り出した。







「あの日、帰省する青山さんを迎えに、あなたは駅まで歩いていました。

 途中、男児が横断歩道を飛び出し、そこへトラックが走ってきました。

 大変です。

 このままでは男児がトラックに轢かれてしまいます。

 男児の母親はあらん限りの大声で我が子の名前を叫びました。

 ”やっちゃん!!” と。

 その名前に誰よりもはやく反応した青年がいました。

 いえ、まだ少年と呼んでも差し支えのなさそうな、若い男です。

 その若い男は、何を思ったのか、男児とトラックの間に飛び込みました。

 キキキキキキキキキキキ―――――――――――――――――――ッ。

 ものすごい急ブレーキの音がして、トラックの大きなタイヤと道路のアスファルトが擦れた、嫌なニオイがあたりに充満しています。

 そんな中、トラックに轢かれそうになっていた男児がトラックの陰から這って出てきました。

 ”お母さーん”                                        

 男児は無事でした。

 周囲にいた者はみなホッとしたことでしょう。

 ですが、男児とトラックの間に飛び込んだ若い男の姿が見当たりません。

 やがて誰かが気が付きました。

 ”おいっ!救急車だ!はやく救急車を呼べ!”

 怒号が飛び交いました。

 トラックの運転席からは作業着を着た男が急いで降りてきました。

 頭には白いタオルを巻いています。

 トラックの男は慌てふためき、トラックの下敷きになっている若い男に声をかけます。

 それはそれは大きな声でした。

 ”お兄ちゃん!大丈夫か?!返事しろ!!”

 大丈夫な状況でないのは一目瞭然なのに、人間とはおかしな生き物ですね。

 大丈夫か?大丈夫か?それを繰り返しています。

 助かった男児は目の前で繰り広げられる騒ぎに驚き、大泣きしています。

 男児の母親は男児を強く抱きしめたまま、事の次第を見守っています。

 逃げようと思えば逃げられないこともなかったのに、それをしなかったこの母親は立派なものです。

 しばらくすると、サイレンの音が聞こえてきました。

 一台ではありません。

 二台、三台、警察車両も含めると四台の緊急車両が到着しました。

 まず救急隊員が手当てを試みますが、トラックが邪魔をしてうまくできません。

 次にレスキュー隊員がトラックの下敷きになっている若い男の救助に当たりました。

 さすが日頃から厳しい訓練を受けている特別救助隊。

 数分のうちに、若い男を車から引きずり出すことに成功しました。

 ですが、助け出された若い男はぐったりしていて、ピクリともしません。

 救助隊の呼びかけにも応答しません。

 すぐさま救急隊員が心臓マッサージを開始しました。

 周囲は騒然としています。

 男児の母親は、男児に目の前の出来事を見せないように男児の顔を隠しました。

 けれど彼女は勇敢でした。

 事故の目撃者はいないかと尋ねている警察官に、すぐに名乗り出ました。

 ”私の息子を助けようとして、あの人は飛び込んだんです”

 やがて心臓マッサージを受けていた若い男は、ストレッチャーに乗せられて、救急車で運ばれていきました」

            

             

              

                           

              

             

                

                


バシャンッ・・・・



波が、オレの頬を打った。



四つん這いのままだったオレはそこに座り込み、己の両手のひらを見つめた。


微かに震えてはいるが、これは、オレの手だ。


オレは、ちゃんとここにいる。



なのに渦巻く不安と恐怖。



オレは、腰を海に浸したまま、新庄を見上げた。




「オレは・・・・・・・・どうなったんだ・・・・・・・?」




オレは、思い出したのだ。

             

あの日、弥生と待ち合わせをした日、駅に向かう途中で、”やっちゃん” という幼児がトラックに轢かれそうになるのを見たんだ。

            

            

”やっちゃん” というのは、オレが幼い頃に呼んでた弥生のあだ名だった。

            

              

だからオレは発作的に、トラックの前に飛び込んでいたんだ。

           

            

             

            

             

           

             

              

そしてそのあとのことは、覚えていない。

              

             

           

               

               

                

               

                



「男児を助けたあなたは、すぐに病院に運ばれました。

 そして私は、あなたのコンサルタントとして、あなたが運ばれた病院に派遣されたんです」

              

             

新庄が、ビジネス的な口調で述べた。

              

             

「・・・・・・・・オレのコンサルタント?」

             

             

             

「左様でございます。

 ですが、そこで問題がひとつ持ち上がりました。

 とても深刻な問題で、私も長年この職に就いておりますが、初めての展開に、お恥ずかしい話、どうしたものかと考えあぐねておりました。

 そうしておりますと、もうお一方のクライアントとの面談の時刻になってしまいまして、ひとまず、あなたの方は後回しにさせていただくことにしました。

 そのもうお一方のクライアントというのが、青山弥生さまです」

               

               

             

           

不意に出された名前に、オレの脈がドッ、と自己主張してきた。

                 

             

             

              

「弥生が、クライアント・・・・・・?」

             

               

               

確か新庄は、弥生とは仕事で知り合ったと話していた。

              

             

「ええ。ですがあなたも私のクライアントですよ?高安 諒さま」

             

              

ばか丁寧な言い回しに、オレは言い様のない息苦しさが這いずり上がってくるようだった。

             

             

               

「そんな、オレはあなたに何か依頼した覚えはない」

             

             

クライアントは・・・・・依頼主、客の意味だ。

              

だがオレは、この新庄という男に何かを頼んだ覚えはないのだ。

              

                 

 「ええ、もちろん。私はあなたからの依頼でこちらに伺ったわけではございません。

 ただそういう決まりになっておりますので、そこのところはあまり追及なさらないでくださると助かります。

             

 では、ここからが本題になります。

 さあ、そうやって海に浸かっていては体が冷えてしまいますよ。どうぞお立ちください」

              

              

新庄は言いながら、オレの肘を掴んで立ち上がらせた。

            

それが思いの外強い力で、

そして、少し触れた新庄の手は、尋常ではないほどに、冷たかった。

            

              


「おっと、これは失礼。驚かせてしまいましたね。

 私どもはこれが普通なのですが、あなた方にしたらびっくりなさるのも無理はありません。

 ああ、話が逸れてしまいましたね。

           

 ここから本題に入ります。

             

 あの日、病院に運ばれたあなたを後回しにして、私は先に青山さんと面談することにしました。

 青山さんの方はあらかじめ日時が決められていた面談でしたので、スムーズにいくに違いないと、私はいつも通りの仕事をしておりました。

 ところがあの青山さんという方は非常に感受性が強いというか、勘が鋭いというのか、面談途中に私の何気ない言動であなたのことに気が付いてしまいました」

              

                

「・・・・・・・オレの何に気が付いたっていうんだ?」

               

               

新庄に立たされたものの、足先はまだ波の中で、時折甲を掠めていく砂が、オレを落ち着かせようとしてくれていた。

            

            

            

「あなたも、生死の境にいる、ということにですよ」

                   

            

              

               

                

                

                             

 


・・・・・・・・・・オレが、生死の境にいるだって・・・・・・・・?

               

             

              

              

               

                

                 

               

                  

オレは、新庄が言ったことを頭の中で反芻した。

            

            

           

          

            

何度も。

             

             

              

               

何度も、何度も、何度も何度も何度も

              




けれど全然現実味が感じられない。


だってオレはここにいるじゃないか。


波に肌を撫でられる感覚も、風に吹かれる感触も、確かにここにある。



なのに、生死の境だって・・・・・・・・・・?






突っ立ったままのオレに、新庄はまた話しはじめた。




「ああ、そこからご説明させていただきましょうか。

         

 あの日、たまたま高安さまと青山さまの事故が重なりまして。

 もともと青山さまの方はスケジュールにあったのですが、問題はあなたの方です、高安さま。

          

 本来ならば、あなたはあの男児を助けることはなかったのです。

 残念ながらあの男児はトラックに轢かれて即死の予定でした。

 ところがあなたが飛び込んだばかりに、あなたの方が生死の境にいく破目になりました。

 困ったのは私どもです。

 スケジュールにない方のコンサルティングは、非常に難しいんです。

 なのでどちらかといえば、何らかの口実をこしらえて生き返っていただきたい、

 私どもはみなそう思っております。

 厄介ごと面倒ごとはご免ですからね。

 そこへ、ちょうど青山さまとお会いしたんです。

 それで、さきほども申しました通り、青山さまが、高安さまもご自分と同じく生死の境にいるとお知りになり、

 なんとかあなたを死なせないようにと訴えられました。

 そもそもあなたはスケジュールにないお方でしたので、私も渡りに船とばかりに、青山さまにある賭けの申し出をいたしました」

           

           

           

           

「・・・・・・・・賭け・・・・・・」

              

           

              

               

オレは、あまりにも突飛過ぎて、新庄の言っていることの真偽を問うことすら忘れていた。





「そうです。

 まず私が、意識不明のあなた方の夢を操作して、その中で、青山さまの記憶を抜き取ります。

 それで青山さまが見事ご自分の記憶を取り戻せたら、青山さまの勝ち。

 あなたは生死の境を抜け出せることができます。つまり、死なずに済むのです。

 ただ、時間を無制限にすると決着がつきませんからね、

 タイムリミットを設けました。

 私は夢の世界で、青山さまの記憶とともに、”匂い” も抜き取りました。

 ”匂い” というのは記憶を呼び覚ますのに重要な役割もあるそうなので、賭けを複雑にするにはもってこいでした。

 青山さまの記憶が戻らなくても、あなたが ”匂い” の異変に気付いたら、そこでゲームオーバー。

 ですが無事、あなたが ”匂い” の異変に気付く前に青山さまは記憶を取り戻されました。

 よって、賭けは青山さまの勝ちです。

 あなたは生の世界へお戻りください」

          

          

           

この男は、なにを、言っているのだろう・・・・・・・

        

          

         

整理つかない頭の中で、オレは新庄の話したことを追っていった。

         

        

「ちょっと待って・・・賭けって・・・だいたい、コンサルティングって・・・・・」

        

「それは私どもの仕事のことです。いろいろな方々のライフコンサルティング、あるいはエンディングコンサルティングをさせていただいております」

         

           

           

オレがひとり言のように溢した疑問に、新庄はテキパキと答えた。

まるでその質問をされ慣れてるように。

         

           

「じゃあ、あなたは何者なんですか・・・・・?」

        

         

オレは今度ははっきりと新庄に向けて尋ねた。

        

          

日本人離れしてる肌の色に、信じられないほど冷たい体。

           

姿かたちは人間のそれなのに、どうしても人間には思えない。

         

           

             

「ああ、そこはお気になさらずに。

 いいじゃないですか、知らぬが仏、という諺もあることですし」

       

「でも、」

        

         

愛想よく誤魔化そうとする新庄にオレはなおも尋ねようとしたが、

         

          

「高安さま?知らない方がいいことも、ございますよ?

 曖昧は、とても尊い・・・・・」

         

          

低く低く、地を響かせるような、まるで人が変わったかのような新庄の話し方に、オレは何も言えなくなってしまう。

  

      

二の腕には、鳥肌が走っていた。

            


こいつは、やっぱり人間じゃない、のか・・・・・?

             

      

新庄の変貌に恐怖心を植え付けられ、怯んでしまいそうにもなったが、オレは、新庄の説明にどうしても引っかかってしまうことがあった。

                

                         

               

「・・・・・・・・弥生は?

 もしあなたの言ってることが本当なら、弥生も生死の境にいるんですよね?

 なら、弥生はどうなるんですか?」

        

          

          

新庄がどんなに怒り狂おうと、どうしてもこれだけは確かめずにはいられない。

        

        

        

けれど新庄は、もとの一見穏やかな相好に戻すと、すんなりと教えてくれたのだった。





「この賭けでの決まりごとは、青山さまが勝てばあなたを生の世界にかえす、それだけです。

 ですので、青山さまご自身の状況にお変わりはないかと存じます」

        

             

「じゃあ、現実の世界では、弥生は今も生死の境にいるっていうのか?」

         

          

「いえ、正しくは、”死の淵にいる” といったところでしょうか」

       

         

「それって・・・どう違うん・・ですか?」

        

           

「”生死の境” というのは、生に戻る可能性もあるわけです。

 ですが、”死の淵” というのは、死のすぐそば、というわけです。

 人間が作り出した言葉だそうですが、まったくもってピタリとくる言葉ですね」

      

           

おかしなところに感心を示す新庄。

      

       

だがオレは、新庄の説明に愕然としていた。

         

         

「・・・・・・それって、弥生は、助からない・・・・そういうことですか?」

       

        

         

頼む、否定してくれ――――――――――――――――

         

          

          

          

オレは祈らずにはいられなかった。

       

          

けれど、無情にも新庄は

       


「ええ、そうですよ?」


       

と至って普通に答えたのだった。

        

          


「そんなっ!じゃあ弥生は、オレを助けるためだけに賭けをしたっていうのか?!」

          

           

新庄に飛びつき、上着の襟を握って激しく揺さぶった。

         

        

「まあ、この賭けに関してはそういうことになるのでしょうか」

        

         

平然と言ってのける新庄。オレがどんなに揺さぶっても、顔色ひとつ変えやしない。



      

「そんな・・・・・そんなのっ!・・・・・・・・弥生は?」



高ぶる感情をぶつけていたが、ふと、冷静が過った。


家にタオルを取りに行った弥生が、まだ戻ってこないことに気が付いたのだ。


往復約十分。


もう戻ってきておかしくないはずだ。

     

       

オレは新庄を睨み上げた。

         

「弥生は、どこですか?」

       

       

もう新庄に対する恐怖心なんかどこにもなかった。



「そんな怖い顔しないでくださいよ。男前が台無しですよ?」

       

「いいから答えろよ!弥生をどこにやったんだよ?!」

          

「どこにやったと申されましても、それは分かりかねます。

 この夢の世界を作り出したのは私ですけれど、この世界は、青山さまが記憶を取り戻されるか、あなたが ”匂い” の異変にお気付きになったら、消滅することになっておりますので」

      


涼しい顔で、さも自分は無関係だと言いたげな新庄を、オレは力いっぱい突き飛ばした。



「ふざけんなっ!・・・・・弥生、弥生っ?!」



オレは新庄を突き飛ばしたあと、走り出した。



大声で弥生の名前を呼びながら―――――――――――――――――――




















「まったく。乱暴事はご免ですよ。

 

 ああ、そうそう、賭けはもうひとつありましてね・・・・・って、もういらっしゃらない。

 

 まったく。人の話は最後まで聞くものですよ。

 

 ・・・・・・おや、私としたことが。とんだ言い間違いをしてしまいましたね。私は ”人” ではありませんでしたね。これはうっかり。

 

 でもこれでやっと次の現場に迎えます。

 仕事は山積みですからね。 

 さて、参りましょうか」















「弥生?弥生!弥生っ・・・・・!!」

      

        

オレはもうほとんど怒鳴り声のように弥生を呼びながら走った。

       

        

車を出す手間を惜しむほどに、全身全霊で走った。

      

       

歩いて五分の距離なのに、果てしなく遠く感じた。

        

          





      

そして横断歩道のない道を横切ろうとしたその時――――――――――――――












―――――――――――――――――――――――――ドンッ!!











ものすごい衝撃が、体じゅうに当たった。








オレは、自分の体が宙に浮かんでいくのを、スローモーションのように感じていた。




目に入った空は、雲ひとつない鮮やかな濃い水色で、その眩しさに、思わずオレは目を瞑った。







その時、弥生の声が聞こえた気がした







―――――――――――――――諒ちゃん、と















  




        


                   


                

                 



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