薬草と古びた本
ヴァンツアーはバスケットの中から薬草を取り出し、吸血鬼の目の前に差し出す。
「この、薬草を探してるの」
「そうか……」
「この薬草岩の間とかにあるの」
「……そうか……」
「今冬だから探しにくいだぁ~」
「…………」
上目使いで自分を見てくるヴァンツアーに吸血鬼は顔を背け去ろうとするが、服の袖を掴まれる。
「……何なんだ!」
「一緒に探してよぉ~」
「はぁ!?何故余が貴様の薬草取りに付き合わねばならんのだ!」
「いいじゃん~吸血鬼さんどうせ暇なんでしょう?」
クッと吸血鬼は小さく声をあげる。あまり触れて欲しくなかったように苦しそうに顔を反らす。
「……暇じゃ……ない……」
「嘘だ~」
「うっ……嘘じゃない!」
「じゃあ、何してるの?」
「…………」
「ねぇ?ねぇ?吸血鬼さん?」
吸血鬼が右に顔を反らせばヴァンツアーは右下から顔を覗き、左に反らせば左下から覗くと繰返し吸血鬼に話しかける。
「暇ではないと言っているだろう!」
「じゃあ、何してるの?」
吸血鬼はバッと顔をヴァンツアーの方に向け、やけくそ気味に言う。
「きっ…貴様と話しているのだ!」
「!」
吸血鬼がそう言うとヴァンツアーは面食らったかの様に顔を下に向け口に手をあて必死に笑いをこらようとしたのだが堪らず笑いだした。
「アハハハハ…吸血鬼さん…フフッ……面白いね!」
吸血鬼は初めて笑われました。