少女とマフラー
吸血鬼は目の前の人間の少女を眺める。人間に多い茶髪の髪は光を反射し、青色の月の様な蒼色の瞳は吸血鬼を不思議そうに写している。
「貴様……人間だろう……」
「!」
少女は吸血鬼に話し掛けられ、驚きながら目をより一層輝かせた。その様子に吸血鬼は疑問を覚えた。彼を見れば誰もが逃げ出し怯えるのが彼にとっての"普通"だったからだ。
「そうだよ!私人間族だよ!」
「……だろうな、見た目からして人間だ」
少女はうんうんと一人頷き「でもね!」と吸血鬼に指を向けハリのよい声で吸血鬼に聞かせるように名を名乗った。
「私貴様じゃないよ?私はヴァルツァーて名前があるそれで呼んで欲しいな♪」
「……フン、人間の名前など覚える気にもならん」
「え~…」
名前で呼ばれる事を否定された事が初めての少女ヴァルツァーは困ったように左右に揺れて吸血鬼を見つめる。吸血鬼は左右に揺れるヴァルツァーを見ながら眉を寄せ顔を向ける。
「おい、貴様用が無いならさっさと消えろ……血を吸われたくなければな……」
「ん~…、用ならあるよ?ここにポーションに使う薬草を摘みに来たんだよ」
「なら、早く摘んで帰れ……余の気が変わらぬ内にな……」
今は血を吸う気分ではない吸血鬼はヴァルツァーから目を背け立ち上がり離れようとすると、腕を掴まれた。吸血鬼が鬱陶しそうに後ろを振り向くと……。
「あのね、これあげる!」
「はぁ…?」
ヴァルツァーは自分の首に巻いていた赤色のマフラーを吸血鬼につき出した。吸血鬼は困惑した。意味が分からないと怪訝そうにマフラーを見つめ取ろうとはしない。
「吸血鬼さん寒いのでしょう?」
「!……寒くない……」
「でもさっき寒いっていってたよ?」
「貴様の聞き間違えだ!さっさと消えろ!」
吸血鬼は先程の呟きを聞かれたのが恥ずかしかったのか吸血鬼特有の白い肌が少し赤みがかった。しかし、ヴァルツァーはマフラーを引っ込めず立ち去ろうともしない。
「吸血鬼さん……照れ屋さん?」
「!?……違う!」
「恥ずかしがりや屋さん?」
「だから違う!」
「だって、顔赤いよ?」
「あっ……赤くない!」
「赤いよ?」
「貴様の目は節穴だ!」
吸血鬼が否定すればヴァルツァーが問いかけるその度吸血鬼は怒りか、はたまた指摘されるのが恥ずかしいのか更に頬が赤くなる。
「とにかく、これあげるよ」
「だからいらない……てっおい貴様!」
ヴァルツァーは吸血鬼にマフラーを押し付け人間族の集落に走っていく。そして、去り際に振り返り手を吸血鬼に振りながら話す。
「じぁね!また明日ー!バイバイ」
そう言って困惑した吸血鬼を残しヴァルツァーは去っていた。吸血鬼はわざわざ自分が追いかけるのも癪で追いかける事はしなかった。
吸血鬼の手はほのかに暖かいマフラーがありました。
5日ぶりです。5日おきに更新したいと思います。