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On my deathbed ~せめて妻と子に看取られて~  作者: 弓月斜
私の人生
7/24

妻と息子

 寝室に入ると、すやすやと眠っている雅史の顔が見えた。幸い起こさなかったようだ。

確か、私が借金の保証人になったのは、二十七歳の頃だから、雅史は一歳か…

じっと雅史の顔を眺めていたら、雅史が突然にっこり笑顔を見せた。一瞬起こしてしまったのかと思ったが、そういう訳ではないらしい。私と恵美子に似てとても可愛らしい顔である。目がぱっちり二重なのは恵美子似で太い眉毛は私由来である。今の説明だと随分濃い顔を想像したかと思うが、雅史はまだ一歳児である。

そして、なんといっても、額にある黒いホクロがチャームポイントである。だが、これから先どんな顔になるか私には分からない。三歳までの顔しか知らないのだから…

一階に戻り、私は風呂に入った。鏡に移った自分の顔を改めて見る。皺が一つもない、顔も昔の私である。髪の毛も黒々としていて、ふさふさである。このまま、ずっとこの時代で生きていられるかは分からないが、こんなに若返ったなんてまるで夢のようだ。奇跡だ。人生がやり直せるなんて…

体を洗う時。ふと、右肩の痣に目がいった。確か、この痣は私が小学生の頃誤って熱い熱湯を肩から被ってしまった時の火傷の跡である。この痣自体は七十五歳になっても残っているが、こんなにくっきりとは残っていなかった。時間が経てば痣も薄くなるものなのか。

 数ヶ月ぶりの風呂を済ませた私(だが体は汚れていない)は、その後リビングに向かった。リビングに入ると、恵美子はソファーに座ってテレビを見ていた。一応カラーであるが、当然ブラウン管である。まぁ、私は現代の生活においても、液晶テレビなんてものは持っていなかったが…

「湯加減はどうでしたか」

妻はこちらに気づくと、テレビ画面から目を逸らしてこちらへ向けた。

「もう最高だよ、久々の風呂は気持ちいね…」

私は、はっとした。つい口が滑ってまた変なことを言ってしまった。

妻は、眉間に皺を寄せた。

「は…?確か、昨日お風呂に入っていましたわよね」

「あ、そう言う意味じゃなくて…その…今日一日が長かったからさ…」

「ああ、そうでしたか。今日もお疲れ様です」

なんとか訂正できたので私はほっと安心した。この老いぼれじじぃのおつむも舐めたものではない。

「そう言えば、今日は佐々倉さんと会う約束をしていると聞きましたが、何の話をなされたのですか」

「ああ、大したことはないよ。あいつもこれから先どうするべきか色々と悩んでいたから、アドバイスをしてやったのさ」

「佐々倉さんも大変ね」

「そうだな、あいつもあいつなりに頑張っていくさ」

闇金から借金だけはして欲しくないが…

 

 私はその後、妻と数十分間会話をして、先に就寝することにした。四十五年ぶりの会話はまるで夢のようだった。妻の髪、目、そして透き通るほど綺麗な声全てが懐かしかった。私は一生このままでいたいと思った。目が覚めて、もし現代なんかに戻っていたらと思うと私はなかなか眠れずにいた。


(/・ω・)/

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