再会
その後、私たちは店を出て、それぞれの家路に着いた。彼と別れた後、腕時計を見ると、夜の十時を指していた。
(もうこんな時間か)
上を見上げると無数の星屑が広がっていた。街の様子も昔そのまま、ネオンなどというものはほとんどなく、全体が夜の静寂に包まれていた。月明かりだけでもよく見える。
私の家は先ほどのレストランから歩いて十分程度の所にある。家を手放してから、四十五年ぶりの我が家である。きっと家には妻と息子がいるのだろう。私はそう思うと心臓のバクバクが止まらなかった。
私の家は一軒家の三階建てである。外壁は赤茶色のレンガ造りでこの時代では珍しく、洋風の造りである。家自体はとびっきり大きいわけではないが、そこそこ豪華な家だと思っている。
玄関の石段を上り、鞄の中から家の鍵を出す…
私の手は震えていた。
手に力を込めて、鍵を回す。
―ガチャ
家の中に入ると、懐かしい香りがした。玄関に飾ってあるのは、息子の写真と深緑色の花瓶。この花瓶は確か、結婚祝いに恵美子の両親がくれたものだ。花瓶にはコスモスの花が刺してあった。白とピンクの花びらはとても綺麗である。どうやら今の季節は秋らしい。
すると、奥のリビングから妻、恵美子が出てきた。
「あなた、おかえりなさい」
妻の顔を見るなり私の目に涙が溜まって、せっかくの妻の笑顔が霞んでしまった。
「どうなさったのですか」
「え…恵美子…やっと会えた…」
その時の私の顔はきっととんでもなく歪んでいたことだろう。嬉しさで顔がくしゃくしゃであった。
「あ、あなた?酔っ払っているのですか…お風呂沸かしてありますから、今日は早く寝てください」
「…う…う…分かった…」
だが、私には風呂なんかに入る前に、するべきことがあった。
―それは、息子の顔を見ること。
「雅史はもう寝ていのるか」
「ええ、二階の寝室で」
私はそれを聞くなり猛スピードで階段を駆け上がった。もう一階から聞こえる妻の、
(雅史が起きてしまうから静かに上がってください)
なんて言葉は私の耳には届かなかった。
(/・ω・)/