表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
On my deathbed ~せめて妻と子に看取られて~  作者: 弓月斜
私の人生
5/24

やり直し

「そうか…だよな、借金なんて良くないよな」

「そうだ、そうだ、やめとけ」

「分かった、もう一度よく考え直しとくよ」

彼は、私が保証人になる気が無いと知ると、素直に借金をすることを諦めた。所詮その程度の決意だったということか、私は、あの日、軽い調子で承諾してしまった自分を後悔した。

「そうだ。事業というものは、ある程度金が溜まってから始めるものだ」

「そうだよな、事業に失敗したら終わりだもんな」

そう、事業に失敗したら終わり…けれど、それ以前の問題として彼には時間がない。二年後には亡くなる予定の彼のことを思うと私は胸が痛かった。

「正蔵…体には気を付けろよ」

「どうしたんだよ、畏まっちゃって、何だか今日のお前、おかしいぞ」

「そんなことはないさ、さあ料理が冷めてしまうから食べよう」

私は先程から、目の前にあるグラタンが気になって仕方がないのだ。

「そうだな」

スプーンを手にとってグラタンを掬って口に運ぶ…香ばしい香りがして口の中に広がるクリーミーな味わい、もう私の口の中はパレードになっていた。こんな美味しい食べ物を食べたのはいったい何年ぶりだろうか、世の中にこんな食べ物があるなんて…私は無我夢中でグラタンを口へ次々と運んでいった。

「うまい…うまい、こんなにうまいのは久々だ…」

ガツガツ食べる私を制するように正蔵は小声で言った。

「お前…行儀が悪いぞ、ここは一流レストランなんだから、そんな恥ずかしい食べ方するなよ、まるで貧乏人みたいじゃないか、お前は社長だろ」

私は、つい自分が一企業の社長であるということを忘れていた。この時代の私はホームレス暮しの落ちこぼれでなく、リッチマンである。

「あ…いや、実は今朝から何も食べていなくて…」

ははん、と正蔵からの哀れみの視線―

「まぁ、どうでもいいけどよ、お前も大変なんだな、毎日忙しくて飯もろくに食べてないのか」

「そ、そうなんだよ。もう忙しくて、忙しくて…」

私はその後、赤ワインに手を出した。赤ワインなんて五年ぶりだ。確か最後に飲んだのは、なけなしの金で買ったスーパーの398円ワインだったような…

一口飲むと、口いっぱいにワイン独特の香りが広がった。味は良く分からないが、高級そうな味がした。きっとスーパーのものとは比べ物にならないのだろう…多分。


ついに妻に。。。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ