最期は妻と子に看取られたい
いくら会社が上手くいっていたと言っても、そんな高額な借金を返済することなど出来るはずもなく、私の人生は一気に転落していった。
毎晩借金取りが訪問してくる日々…
私は精神的に大きなダメージを受けていた。そんな私の状態のせいで、大きくなりつつある私の会社の経営はこの時から赤字が続いて…ついに倒産した。妻は私に離婚届を渡して息子を連れて家を出て行ってしまった。それは当然の結果だと思う。私は妻のことを一度も恨んだことはない。逆の立場だったら自分も同じことをしていただろう。家族も会社も全て無くした私は借金地獄の生活を余儀なくさせられた。そんな生活が数年続き、私はとうとう自己破産に踏み切った。
自己破産した後、私はアルバイトで日々、食いつないでいく日々を送った。ボロボロのアパートでの一人暮らし。部屋は狭い台所と四畳半の畳の部屋のみで、風呂は無かった。
借金取りこそ来ないものの、貧しすぎる生活に嫌気がさして私は何度も…自殺したいと思った。けれど、それを実行に移す勇気も無ければ度胸も無かった。孤独死…そんなのは嫌だった。せめて誰かに看取られて死にたかった…欲を言うと、妻や息子に看取られて死にたかった…だから私は生きた…いつか妻と息子が帰ってきてくれることを願って。だから私は今までずっと生きて来た。恵美子と雅史が帰ってくるまで私は生きていたかった…
月日は流れ、私は六十歳となって、なけなしのアルバイトで働くことさえ出来なくなった。当然貯金など無かった私は、ホームレスへと成り果てた。
そして、現在の私がここ…駅前のベンチの下に蹲っている。
もう、立ち上がる事さえ儘ならなかった。なんて情けないのだろう…このまま孤独死なんて、しかも路上で、私が蹲っていても周囲の人間は冷たい目を私に数秒向けるだけで、誰も近づいてきてくれる人は居なかった。どうせ、孤独死する運命ならさっさと自殺しとけば良かったな…私は小さく息をすると、道端に仰向けになった。その拍子にズボンのポケットから全財産(300円)と一枚の紙が出てきた。私はその一枚の紙を拾って、顔の前に持ってきた。その紙は、息子の三歳の誕生日に取った家族写真であった。
肩まで伸ばした黒髪が美しい妻・恵美子はにっこりと微笑んでいる。雅史も満面の笑みを浮かべている。写真の中の私もとても楽しそうだ。せめて、写真の中の妻と息子に看取られて最期の時を迎えられるのなら…私はそう思うと、ゆっくり瞼を下ろした…
皺がれた私の頬に一筋の涙が流れた。やっぱり本物の妻と息子に看取られて死にたかった…
「私」の運命は、、、