ワインの色
―黒の視界が赤に変わった
目蓋をゆっくり開けると、目の前に心配そうな顔で俺を覗き込んでいる正蔵の顔があった。気のせいか正蔵が少し太って見えた。俺は頭の中が真っ白であった。ここは…
「大丈夫ですか、雄二さん」
正蔵の隣に座っていた人が俺に向かってそう言った。よく見たら、その人は正蔵が勤めている会社の社長であった。テーブルの上にはグラタンと白ワインが置いてあった。
もしかして…元の時代に戻ったのか…いや、でもあの日、俺が頼んだのは赤ワインだったはず、しかも正蔵と二人だったはず…
「正蔵…今の年号ってなんだ?」
俺は、元の世界に戻ったのだろうか…今までのことは全て夢だったのであろうか…
俺のことを不思議そうに見た正蔵は、呆れた顔でこう言った。
「お前…何言っているんだよ。ここは昭和ですよ?」
昭和…俺は戻って来られたのか?
「お前、変な夢でも見ていたんじゃないのか?」
夢…確かにそうなのかもしれない。今までで一番長い夢を見たのかもしれない…
すると、社長が俺に話しかけてきた。
「仕事のし過ぎでしょう、今日はゆっくり家で休んでください。では、後ほど契約手続きを行いに行きますのでよろしくお願いいたします」
そう言うと、席を立って彼は何処かへ行ってしまった。話の内容が全く分からず、ボーっとしている俺に正蔵は、
「これから、お前の会社とうちの会社が力を合わせていくんなだぁ…」
と言った。え?なんだ?その話?あの大手、長谷株式会社が俺の会社と提携を結んだのか?
俺は今の状況が全く掴めなかった。
俺は今、過去にいる?
いや違う。。。
俺にとっての現在にいる。
あと1話で、完結です!




