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On my deathbed ~せめて妻と子に看取られて~  作者: 弓月斜
俺の人生
18/24

俺は今、未来にいる

 公園を出て数分歩くと、大通りに出た。早朝ということで行き交う人の数は少なかった。当然こんな時間から開店している店は無いと思いながら肩を落としながら歩いていると、信じられないことに、一件だけ営業中の店があった。近くに行って、店の中へ入ってみると店員がこちらに目を向けて、目を細めた。しかし、そんな人の反応をいちいち気にしていられない状態だったので、俺は構わず食べ物を探した。商品棚にはパンやおにぎり、そして既に出来上がっているスパゲッティが透明な容器に入って売られていた。

俺は、カレーパンとおにぎり三つ、そしてお茶を握りしめレジへ向かおうとした。その途中、シャンプー、ひげ剃り用具、歯ブラシ等を見かけたので、ついでに購入した。自分の体臭は良く分からないが、きっと酷いに違いない…レジへ商品を出すと、店員はお落ち着かない動作で商品に何か機械のような物を当てていった。その度に『ピッ』と音がしていたが、俺にはさっぱりよく分からなかった。ふと、昨日見たアイデア賞の公募を思い出した俺は、ボールペンとハガキ、そして切手を店員に注文して一緒に買うことにした。


 店を後にした俺は、再びあの公園に戻って、ブランコに腰を下ろして直ぐに、先ほど買ったパンやおにぎりを貪り食った。ものの五分で完食した俺はその後、公園の水道へ向かって、髪や顔を洗い、汚い歯も磨き、生え放題の髭も剃り、再びブランコに坐った。腹の空腹はなんとか良くなったが、俺の見た目はおそらく、然程変わっていないだろう…この汚さは、一度では洗い流すことができそうにない…

その時、何やら女性の独り言が聞こえ、公園から外の道を見た。すると、一人の三十代半ばと思われる髪の長い女性が手に何か持ってそれを耳に近づけながら一人で賑やかに喋っていた。

『えっ、そうなの?じゃあ今からそっちに行くわ』

まぁ、こんな感じで喋っていた。非常に不気味である。彼女はいったい誰と話しているのだろうか…まさか、機械ですか?一体この世界は何なんだ?もしかして未来?そのことは昨日から薄々感じていたが…

「おじいちゃん?僕、ブランコしたいな」

ふと、前方を見ると五歳くらいの男の子がこちらをじっと見ていた。

「あ…ごめん、ごめん…どうぞ」

俺はそう言ってその子に席を譲った。子供は嫌いじゃない…

「ねぇ、僕?ひとつ聞きたいことがあるんだけど良いかい?」

「いいよ」

男の子はにっこりしてそう言った。

「昭和って知っているかい」

男の子は少し首を傾げた後、口を開いた。

「昭和?それって僕のママが生まれた年だよ、この前ママが昭和生まれですって、誰かに言っていたもん」

「…そうかい…君のママが…」

そして俺はここが未来であることを確信した。

「今は平成だよね」

男の子は続けてそう言うとブランコを漕ぎ始めた。

「平成…」

確か昨日拾った500円と書かれた硬貨にも平成と書かれていたことを思い出した。今は平成という年号らしい、俺は昨日拾った写真を思い出し、ポケットから取り出してそれを改めて見た。六歳であろう少年がランドセルを背負ってにっこり笑っている写真…

昨日はよく見なかったが、よく見るとその少年の額に黒いホクロがあるのが見えた。それに、顔の輪郭がそっくりだった。私の息子、雅史に…

(この写真に写っているのは雅史なのか…)

おそらく今の俺は末広雄二…つまり、俺の将来の姿なのだろう…信じられないが、俺は数十年先の世界にタイムスリップしてしまったようだ。じゃあ俺の将来は浮浪者ということなのか?俺の会社は?恵美子は?雅史は?どこにいるのだ?この状況から推測すると恐らく会社はもうないのだろう…それとも誰かに分捕られたのかもしれない…妻や息子もこんな浮浪者とはとっくに別れているに違いない…


―最悪な人生だな


 俺は自分の人生に失望してしまった。このまま俺の一生は終わるのかと思うとやるせない気持ちになった。しかし、こんなところでグズグズしている暇はない、俺にはやるべきことがある。公園の小さなベンチに腰掛けて俺はペンを走らせた。今まで俺の頭にあった全てのアイデアをかき集めて、最高のアイデアグッズを開発してやろうじゃないか、そして俺はブランコに乗っている少年にこう言った。

「僕…ちょっとお願いがあるんだけど、いいかい」

この日から俺の生涯の幕を大きく左右するであろう賭けに挑み始めた。アイデア公募のテーマは『お年寄りでも楽に使えるもの』であった。俺は自分の老体を有効活用して次々とアイデアを生み出した。飲みやすいストロー、持ちやすいペン、転びにくい靴…俺のアイデアは後を絶たなかった。


「私」と「俺」の運命は。。。

※同一人物です。

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