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On my deathbed ~せめて妻と子に看取られて~  作者: 弓月斜
私の人生
11/24

幸せな日常

その後、色々と過酷な仕事が続いたが段々あの頃の記憶が戻ってきたのか、私はなんとか無事に処理することができ、午後七時には仕事が終了し、私は真っ直ぐ家に帰宅した。

「ただいま」

リビングに行くと、まだ七時ということで雅史が起きていた。どうやら積み木で遊んでいるらしい。

「あら、あなた。おかえりなさい」

妻はエプロン姿で奥のキッチンから出てきた。カレーの臭いが漂っているので今日はカレーのようだ。

「今日は、辛口がいいですか?それとも中辛がいいですか?」

「雅史も食べるんなら、甘口がいいんじゃないのか」

私がそう言うと、妻は笑いながらキッチンへ向かい、小さな箱を持ってきた。

「雅史はまだ大人用のカレーは食べられないのですよ、あの子はこれです」

その小さな箱には『月のお嬢様』と書かれていた。確かこれはお子様用カレールーである。よくテレビCMでやっていたのを思い出した。

実に、四十五年ぶりの家族揃っての食事である。目の前に座っている雅史がニコニコしながらカレーを食べているのを見ていると、私は無意識のうちに涙が出てきた。

「あなた?涙なんて流してどうしたのですか」

妻は、突然涙ぐんだ私を不思議に思ったのか、首を傾げている。

「あ、いや…」

「やっぱり中辛の方が良かったかしら…」

「いやいや、辛口のせいじゃないから…ちょっと目にゴミが入っただけさ」

「そうですか…」

すると、妻は両手を叩いて何かを思いついたかのように私に向かって言った。

「そう言えば、来週の金曜日、会社はお休みの日でしたよね?」

私は、会社のカレンダーにその日が赤字になっていたのを思い出した。

「ああ、そうだが…」

「じゃあ、せっかくの三連休なんだから三人で温泉旅行にでも行きましょうよ」

私は思い出した。雅史が一歳の時に草津の温泉に出かけたのを…

「おお、良いね。どこの温泉が良いか」

「やっぱり、草津温泉が良いかな」

こう答えが返ってくることは承知済みである。しかし、私は試してみたくなった。こうなったら過去をどんどん変えて行きたくなった。

「草津も良いけど、喜連川の温泉はどうだい?」

「喜連川…そうね、草津はもう何回かいったことがあったから今回は喜連川温泉に行ってみようかしら」

「よし、じゃあ喜連川温泉に来週の金曜に行こう。三日間休みだから二泊三日できるな」

「ええ、そうね。楽しみだわ」

こうして私たちは来週の金曜日に栃木県にある喜連川温泉へ旅行しに行くことになった。しかし、過去を変える事はこんなにも簡単なことなのだ、と私はちょっと拍子抜けしてしまった。  

その時、これから私の人生は生まれ変わるのだと改めて確信した。


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