私は今、死に際にいる
鉛色の空から綿飴のような雪が降っている。街はクリスマスムードである。駅前の繁華街は希望で満ちた人々で溢れかえっていた。
この街の雰囲気も数十年前と比べると随分と変わった。昔はもっと人が少なくて…あそこ、今私が立っている位置から右側に数十メートル行ったところには美味しい蕎麦屋があったな…今はカラオケ店に変わってしまったが…と、
そんなことを考えながら私は白い息を吐くと、駅前のベンチに腰を下ろした。その後、私は持っていた大きな鞄から毛布を取り出して全身に巻き始めた。こうでもしないと私の身体は耐えられないのだ。
それからだった…周囲の人間が私をチラ見しては、そっぽを向いて逃げるように去っていくのは…もうお分かりだと思うが、私は行く宛のないホームレスだ。だから家(金)は無い。家族も…今はもういない…
いや、どこかにはいるはずだが…四十五年間音信不通なのである。今年七十五歳を迎えた私の傍らには誰ひとりとして居なかった。居るのはベンチの上に置かれた食べかけのコンビニ弁当を夢中で拾っている鳩くらいだった。私がその鳩に近寄ると彼は慌てて飛び去っていった。残ったのは鳩の白い糞だけ。私はさらに虚しくなった。人目も気に掛かるのでひと寝入りしようと横になって瞼を閉じた。
あれから何時間たったのか、空はもうすっかり暗くなっていた。空から目を離して街を見渡すとイルミネーションがキラキラと輝いている。空の星より数千倍明るく感じた。ベンチから起き上がって歩き出す…
けれど三歩程歩いた途端に右足から私は崩れ落ちてしまった。実はもう何日も何も口にしていないのだ。公園の水くらいは少し飲んだが、あれは冷たすぎて二口で精一杯だ。とにかく私にはもう力が無くなっていた。
空腹と疲労、そして寒さでその場から動くことができない…もう限界だ。ついに来た…私の死に際が…やっと死ねる…実はと言うと、こんな人生早く終わりにしたかった。
今から四十五年程前、あの日から私の人生は大きく変わった
これは短編系の話です。