ようこそ。〈八百万〉の世界に
表示されたアプリの画面を見せながら、ミシェルは軽い咳払いをし、質問を始める。
「とりあえず確認しておきたいのだけど、クロウはこのアプリをインストールしているのかい?」
「いや、ねえ。俺、携帯ゲーム機のソフトはプレイしたことはあるが、アプリのゲームはさっぱりなんだよな」
「なら、ちょっと携帯貸してくれる?」
そう言い、本人の確認をとる前に携帯端末を奪い、自身の端末の双方を同時に指で操る。
「…よし、赤外線ポチっとな。オッケー、完了っと。ホラ返すよ」
ミシェルの返した九龍の端末の画面には、先ほど彼女が見せた画面と同じものが表れていた。その画面を差し、説明は続けられる。
「今、ボクのと同じゲームアプリ、〈八百万〉をインストールした。あ、大丈夫。金取られたりはしないから」
「…で、こんなゲーム握らせてどういうつもりなんだ? 布教活動か?」
その問いに、ミシェルは少し考え込んだ後に答える。
「んま、半分正解かな?プレイヤー同士でフレンド登録しておきたいって訳なんだけど」
「フレンド登録?なんだそれは?」
「──そうだなぁ。例えるなら、ブログとか動画サイトとかじゃ閲覧者とかフォロワーの数がステータスみたいに扱われるでしょ? それと似た感じで、登録したフレンドのIDの数がプレイヤーにいろいろプラスに働く仕様なのさ」
ふむふむ、とミシェルの説明に相槌を打つ九龍。彼は手にした携帯端末の画面を見ながら言い放つ。
「つまり友達は多い方が得ってことか。現実もゲームも案外変わらないものだな」
「ま、最悪いなくてもやれないことはないからね。さあ、今すぐボクと友達になろう!」
「なんだそのヒーローショーのキャッチコピーみたいなのは。まあインストールされた以上、構わないけど。どうすりゃいい?」
「ああ。まずは軽い世界観の説明的なモノやるから、先にそれを終えてね」
そう言われ、九龍は自身の端末の液晶に集中する。ゲームをスタートすると、画面に黒い和洋折衷の着物を纏い、狐の面を被るキャラクターが登場する。
キャラクターの登場とほぼ同時に画面の下からテキストが出力されていき、九龍はそれを朗読しつつ進めていく。
「…なになに、『ようこそ。〈八百万〉の世界に。わたくしは〈名無し〉と申します。この世界の案内を務めさせていただく身であります。さて、このゲームアプリは古今東西の伝説や神話、実際の歴史に名を連ねる者から書物に描かれた架空の者まで、ありとあらゆる力のある存在を〈カミサマ〉という概念にひとくくりに扱わせてもらいます。あなた様には、あなた様の世界に散らばるこの八百万の〈カミサマ〉達の残滓を集めていただきたく存じます。──すべては、我が主の為に…』…って、どういうことだ?」
テキストの朗読を終えた後、首をかしげる九龍に、補足をするようにミシェルが言う。
「ま、簡単に言えば色んな神話や物語やら歴史やらの登場人物がゲーム内にも登場するんだけど、そいつらを集めて育成とか対戦等をして遊ぶ、って感じかな」
「フム、育成ってことは極端なこと言うとめちゃくちゃ雑魚なヤツでも育て方次第で最上級のヤツに一矢報いるくらいはできるって訳か?」
「…今の例は極端過ぎだけど、確かに〈カミサマ〉は全部で1~5までにランク付けされてて数字が高いほど強力だけど、強さ=使い勝手もいいとは言いきれないからね」
補足事項を述べているミシェルは、また画面の方を指さし告げる。
「ほら、まずチュートリアルから始まるよ。細かいことはそれで学びなよ」
彼女が言うとおり、液晶の画面が切り替わり、ゲームのシステムの説明が開始されるのだった。