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ヤオヨロズ──中道録  作者: 隼理史幸
八百万チュートリアル
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こいつがウワサのゲームアプリ、〈八百万〉だよ

生ハムメロンの論争を繰り広げたその日の放課後、ミシェルは九龍を伴い、廃棄予定の学習机を運び出していた。


「ったく、なぜ俺がお前のクラス委員長としての仕事で扱き使われなきゃならん?」


机を二段重ね運ぶ九龍のぼやきに、その委員長は溜め息で答える。


「はぁ~、仕方ないでしょ?クロウに話があったついでだし、他に手伝ってくれる人にアテも無かったし。そもそもボク委員長なんてメンドクサイのやりたくなかったのに…」

「それは前も聞いたな。勝手に推薦された挙げ句対抗馬もなかったから自動的に就いてしまったとか」


はあ…、とその祭り上げられた委員長は机を運ぶ最中にまた溜め息を重ねていく。心中を察した九龍も、ぼやきをそれ以上は口にはしなかった。


「あーあ、民主主義は時に醜いモノを見せるなぁ。三~四歳は年下のガキひとりにみんなしてなにやってんのさ。くっだらない」


歩いて机を運びながら、今度はミシェルのぼやきが止まらない。


「あいつ等はボクのコトをナマイキだとか子どもの癖にとかって言うけど、そっちこそ齢十六~七程度で一端の口利ける程年を取った気でいるのが腹立つね。年下相手にアドバンテージ握られるのが我慢ならないだけでしょうに。それから──」

「おい、それ以上マシンガンのように愚痴をこぼすのは止めにしてくれ。もう目的地に着いたんでな」


そう言われ彼女は足を止めると、確かにふたりは粗大ゴミ置き場に到着していた。机を二段重ねて運んでいた九龍は、それらを置くや否やすぐさま伸びをする。


「あ~運ぶの面倒臭かった。机はかさばるし、BGMは愚痴だしで散々だったぞ」


率直な感想を耳にして、彼女は抱えていた机を乱雑に置くことで今の心境を示す。


「ハイハイ、悪うございました。感謝してるよ。手伝ってくれてありがとう」


わざと棒読み気味に喋るミシェルに肩をすくめる九龍。そんなふたりに近づいていく人影があった。


「おお、青柳じゃねえか。ご苦労だったな」


現れたのは、筋骨隆々の体躯に真紅の坊主刈り、水色の作務衣(さむえ)が特徴的な、二十代後半ほどの外見年齢の男性だった。


「あれ、鳥居(とりい)さんじゃないですか。お久しぶりです」


九龍は鳥居と呼ぶ男性に軽く頭を下げ挨拶する。彼の丁寧な態度を見たミシェルは不思議がる様子でその男性に訊く。


「?えっと、そこのゴリマッチョ…じゃない、鳥居さん?クロウとどんな関係で?」

「ん?そういや隣の彼女とは初対面だったな。俺は鳥居金司(とりいきんじ)。今はここの学校で用務員を勤めている。そこの青柳とは二年位前に山の中に知り合ってな」

「や、山の中って…、どんなシチュエーションなの…?」


理解しかねている様子のミシェル。そんな彼女の姿を見てから、鳥居用務員は九龍へと訊く。


「ところで青柳、そっちのちんちくりんは?お前の妹か?」


ちんちくりん。そのワードが彼女の琴線に触れた。顔にも青筋を立て、怒りが沸き上がってゆくのを隣の九龍も感じていた。


噴火するほど膨れ上がる前にと、九龍はすかさずフォローを入れる。


「違いますよ。こいつは同学年のダチですよ。すごいんですよこいつ。特進クラスでも超高順位の成績キープしてるんですから」


九龍は不機嫌そうな彼女の頭をぽんぽんと軽く触れながらそのように説明する。鳥居用務員はそれを聞いて感心した様子で言う。


「ほー、エライじゃねーか。じゃあ俺はサッカー部がぶっ壊した設備の修理に行ってくるから、気をつけて帰れよ?」


そう言い残し、鳥居用務員は踵を返しこの場を跡にする。その後姿を見送る九龍に向け、ミシェルは少しばかりドスのきいた口調で言う。


「おい、いつまで頭ぽんぽんしてんだボクの脳細胞死ぬだろ」


言われるまで気がつかなかったのか、急いで手を離す。その頭をぽんぽんされていた側は眉を曇らせた様子で言う。


「あーったく、静電気が…。あ、そうそう思い出した。これ運び終わったら話があるんだった」


そう言って気を取り直し、制服のスカートのポケットから白いカバーが取り付けられた携帯端末を取りだし、暫く画面のタッチを続ける。それが完了した後、画面を見せる。


「こいつは、ゲーム?」

「そ。名前くらいは聞いたことあるでしょ?こいつがウワサのゲームアプリ、〈八百万(ヤオヨロズ)〉だよ」

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