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ヤオヨロズ──中道録  作者: 隼理史幸
八百万チュートリアル
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年下ですけど、先輩なんです

互いに乾杯の後、ペットボトルの蓋を開けほぼ同時に中身を口に含む。


ごく…ごく…ごく。と、スポーツドリンクと緑茶、それぞれが口に含んだ飲料が喉を通り抜け、身体に染み渡る。


「ふう…悪いね、ほんと。奢ってもらって」

「──ぷはーっ。いえいえ、言ったでしょう?拾ってくれなければ手元に無い筈の五百円です」


そう言われ、やや気にはしつつもアルビノの少年は「そういうことにしておきます」と言って引き下がる。


ふと、ショートカットの少女は少年の顔をじっと見る。そして、またかしこまった話し方で言う。


「あっ、自己紹介がまだでした。わたし、守凪琥珀(かみなぎこはく)と申します。駒海(こまみ)学園高等部一年です」


礼儀の良い少女─琥珀のお辞儀を見て、少年の方も少しばかりかしこまった態度になる。


「えっと、俺は青柳九龍(あおやぎくろう)。同じく駒海学園の高等部二年生だ。よろしく、守凪さん」

「はい、よろしくお願いいたします。先輩」

「先輩、か。俺部活動には所属していないからかな、なんだかむずがゆい響きだな…」


九龍は頬を掻きながら言う。それを聞くと、琥珀はくすりと微笑みながら言葉を紡ぐ。


「ふふ、なんだか変ですね先輩」

「そうか?それよりも君が後輩ってことの方が驚きだな。正直年上かと思ってた」

「あ、それは合っていますよ」

「…?どういうことだ?君は後輩、なんだろう?」

「はい、それも合っています。ちょっとややこしい話になるのですけど。わたしから見る貴方は、年下だけど、先輩なんです」


頭の上に疑問符を浮かべる九龍。それを解消させるため、琥珀は髪を掻きながら語りだす。


「わたし、早生まれで今が十七歳なので本当は高等部三年なのですけど…、実は本来入学する年に事故で一年ほど昏睡状態に、それのリハビリでさらに一年かかってしまい今に至る訳なのです。そんな訳で、年上だけど後輩、ということになります」


それを聞いた九龍は目線を落とす。表情もどこか申し訳無さを感じさせるものに変わる。


彼の表情を見て琥珀は慌てて訂正をしようと言葉を紡ぐ。


「あっ、別にこのことを聞いたからといって気に病まなくて大丈夫です。わたしは秘密にしているわけではありませんし」

「そう、か?ならいいんだ…じゃなくて、いいんですけど…」

「あ、年上だからといって口調を改めなくて大丈夫ですよ。名前の呼び捨てで結構です。わたしは後輩なのですから」


少しばかり気掛かりな様子を見せつつも、九龍は軽く咳払いをした後言い直す。


「え~っと、わかったよ、琥珀…さん?」

「──まあ、それで構いませんよ。先輩っ」


ふいに、琥珀は九龍の左手首に巻かれていた、朝日がガラスに反射している腕時計を見つけると、思い出したかのように彼に問う。


「先ほどから気になったのですけど、右利きなんですね。珍しいです」

「ん、まあよく言われます。そこの自販機もそうですが、世界が左利きのために出来ていることに不便さを感じることはままあるかな」


苦笑いする九龍に、琥珀はまたなにかを思い出したかのように訊く。


「時計…あ、ついででなんですけど、今何時でしょうか?」

「ん?ああ、もうそろそろ六時半だな」

「あ、もうそんな時間ですか。仕方ありません。今回のところはここで失礼して頂かせてもらいます。朝ご飯の用意がまだでしたので」

「…あ、俺もだわ。時間が経つのは早いな」


そう言って、二人は踵を返し、お互いに自らの帰る場所へと歩を進める。別れる直前に、九龍は琥珀の方へ向き直り挨拶をする。


「それじゃ、また。ペットボトル、サンクスな」


彼のお礼を聞いた彼女の方も、手を振りながら挨拶を交わす。


「どういたしましてです~。ではまた、縁があれば学校にて!」


急ぎ足で走りながら、二人は蝉がジリジリと鳴きはじめる街角で別れた。

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