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ヤオヨロズ──中道録  作者: 隼理史幸
信頼という木と、恨みという根
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やっぱりあんたらが犯人か!?

「……で、なんでそいつまで一緒なんだ?」


苛立ちを露にして、吐き捨てるように言う。三人まとめての睨み付けにも動じることなく、色素の薄い髪を夕陽に染める彼への批判に対し、飄々とした態度で反論する。


「そりゃ、逃げるなと言われても、連れが居ちゃいけないとは言ってないからなぁ?」

「っち、揚げ足とりやがって。だからこいつ嫌いなんだよ。」

「上等。無理に好かれてもなんか嫌だし。簡潔に済ませたほうがいいでしょ、お互いに。」


フン、と双方ともに反目した様子を眺めつつ、半ば巻き込まれのアルビノの少年、九龍は気をもんでいた。


彼からすれば、放課後、どことなく機嫌の悪いミシェルに大した説明もなく空き教室に随伴するよう呼び出された思えば、すぐにでも喧嘩が起こりそうな鉄火場に放り込まれたというのである。


「それで、何の用? リンチにするにしては、心許ない数じゃない?」


───何とか自分が緩衝材となるよう、張り積めた空気の流れをそれとなく誘導しようと試みる彼の思惑は、即座に崩れ去った。早速ガソリンを投げ入れるミシェルのせめてものフォローとして割って入る。


「ステイ、ステイ。で、何か? 妙に思い詰めてるみたいだけど……」


邪魔するなと噛み付きそうなミシェルを自分の後ろにおいて、交渉人を買って出る九龍。今にも乱闘騒ぎに発展しかねない空気を前に、一歩前に出る。


我ながら貧乏くじを引かされている、と自嘲しつつも、この場は何とか穏便にやり過ごそうとする彼の心境を汲み取ったか、同じ二組のクラスである加賀尾鈴が最初に要件を切り出したのだった。


「……ふたりとも、特に青柳は、緑野凉子(みどりのりょうこ)と、毬子赤哉(まりねあかや)。知ってるよね?」


ふたり揃って頷く。九龍とミシェル、彼らにとっては嫌でも忘れられない、モスグリーンの髪の少女、緑野凉と、朱色の髪の少年、毬子赤哉。十日前の事件に会っている両者の名前を出され、心構えをする。


「ああ、一週間前くらいから風邪拗らせてるって……。」

「わたしら、見舞いに行ったんだよ。そしたら、その、ふたりとも………。」


急に顔を伏せ、言いよどむ姿に訝しむ九龍とミシェル。彼らの疑問に答えるように、続きを本出林檎が説明する。


「……意識不明、生きちゃいるケド、今日までずっと眠ったまま。」

「─────っつ!?」

「なっ………!?」


驚きのあまり声を上げる。ふたりとも直後に過るのは無論、同じ光景であった。同時に、その焼き付いた記憶と三人組の語る内容との一致しない要素に腑に落ちない様子でもあった。


「───その様子だと、ふたりとも知らないって感じ?」

「……言った筈だよ。ボクは何でも知ってるネットの先生じゃない、ってね。」


目を伏せ、数時間前の言葉を再度述べる。はぁっ、と溜め息を吐き肩を落とす。


「……ヤバいなぁ。飛び級生なら何か、とは思ったんだけど。これでマジに手掛かり消えたわ。」

「……? 手掛かり、とは何なんだ?」

「あたしら、というか、クルミがね、見てたんだよ。十日くらい前に、あんたらと下駄箱前で言い争ってるの。その次の日からかな、二人とも様子がおかしくなったの。」


顎に指を添えて、深く考え込む。


「………あんた達、ホントになんも知らないの?」

「ボクらが嘘吐いてると?」

「………言いたくないけど。あたしらはあんた、飛び級生にいろいろやったよ。そのやり返しで、何か知ってるんじゃないか、って思ってるのよ。」


───深い、とても深い溜め息だった。心底侮蔑している、或いは失望か。なんにせよ、ミシェルの眼差しはひどく冷たく、目の前の三人組は道端の石ころと同義にしか映っていなかった。


「お前ら、やっぱりボクを馬鹿にしてるのか?」

「なん……」

「今さら同情か? 舐めるな。そんなもの腹の足しにもならない。犬にでも食わせとけ。」

「……何よ、その言い分は。あたしらは───」

「もういい、喋るなファーム育ちが。苛つく。」


───ピリッ、と空気が張り積める。さながらガスの充満した閉鎖空間。火花ひとつで大爆発を起こす、危険極まりない空間にいながらにして、浅葱色の髪の少女はさらにガスの濃度を上げる。


「報復? ふざけんな。お前らなんぞ報復する価値もない。輪に入ってないものを、他と違うものを徹底的に排除しておいて、どの面下げてきた畜生風情が。───下らないよ。」

「…………!!」


下らない。その言葉は看過できない。逆鱗を逆なでされた、大切にしていた、譲れない一線を無慈悲に踏みにじられた、仏味胡桃は頭に登る血を、怒りを一気に噴出する。


「下らない、ですって!?」

「……そうだよ。そう言ったよ。」

「ざっけんな! その態度が気に食わないのよ! 少しばかり頭が良いからって、なんもかんも知った風な口を利くのが!」

「知らないよ。お前たちがボクのようなはぐれものに対して何も思わないのと同じように、ボクはお前たちの縄張り意識なんて知らないし、知りたくもない。だから下らないって言ったのさ。」

「…………っつ!!!」


激怒。目の前の相手が憎々しくてたまらない。思い付く限りの方法で屈服させてやりたい。そんな感情に支配された仏味胡桃の耳に、友人ふたりの声は既に届いてはいなかった。


「こンの、クソガキ! もう許さない!!」

「───っ! 二人とも止めるんだ! ミシェル、お前も煽るな!」


今すぐにでも掴み掛かろうと詰め寄る胡桃とミシェルの間に入り制止する九龍。構うものか、と押し退けようとするが、女子生徒と彼とでは力に差がありすぎて、振り払うことは叶わなかった。


「邪魔するな! やっぱりあんたらが犯人か!?」

「やっぱり畜生風情だな。さっきも言ったぞ、ボクらがそんなことするわけないって。わかったらとっとと帰れ、時間の無駄だろ、互いに。」

「こンのぉ……!!」

「ミシェル! いい加減にしろ!!」


紛糾するこの空間に、フン、と吐き捨てると心底怪訝な様子で教室から出ようとするミシェルを、すぐにでも暴れかねない胡桃を抑え込みながら引き留める。


「おい、どこ行くんだよ!?」

「帰る。クロウもとっとと帰れよ。」


とりつくしまもない、といった面持ちのまま退室する。残されたのは彼女の言動に少なからず腹を立てた三人組と、調整役を全うできなかったアルビノの少年がただ立ち尽くしているだけだった。


「………糞がっ!!」


行き場のない怒りを、近場の机にぶつけられる。そんなことでこのよどみきった感情に晴れ間が出来ることはないと知りながら。

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