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ヤオヨロズ──中道録  作者: 隼理史幸
プロローグ
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プロローグ 其の二

──ふいに、笑い声を上げる三人内の一人─リーダー格の少年の後頭部に、軽い音とともに何かがぶつかる。


「っつ、なんだぁ?」


少年は自身の後頭部にぶつけられ、足下に転がるそれを見つける。それは中身のコーヒーが飲み干された後の、空のアルミ缶だった。


彼は自身の結びの緩い堪忍袋の緒が切れたのを感じた。今自分たちのいる場所は四階建て校舎の屋上。ここにゴミ捨て場は存在しないことから、誤ってゴミ箱を外して自身にぶつかった、というのは決してないことを理解していたからだ。


「誰だ!この俺になめたマネしたヤツは!?」


リーダー格の少年の怒号とともに、ぐったりとした幕ノ内少年を除く三人は空き缶の飛んできた方向へと振り向くと、屋上の入り口に人影をひとつ見つける。


それは彼らと同じ学校の学生服ではあるものの、蝉の鳴き声が絶え間無く聞こえる時期にしては珍しく長袖のモノを身に纏い、薄い手袋を身に着けた、中肉中背にフルリムの眼鏡を着用したアルビノの少年が眉をひそめ彼らを見つめていた。


「チッ、カツアゲにリンチとはな。進学校が聞いて呆れるわ」


アルビノの少年はわざと三人に聞こえるように少し大きめの声で言う。それを耳にした三人は、ボロボロのサンドバッグを屋上のタイルの上に放り投げ、新たに現れた少年に向かっていく。


「なんだテメー。邪魔だ帰れよ」


三人のうちの一人─やせ形の少年がアルビノの少年に唾を散らしながら威圧する。しかし、当のアルビノの少年は全く意に返すことなく自身の赤い瞳で三人を睨み付ける。


「あー、御言葉を返すようで悪いんだけど。もう下校時間なんで屋上カギ掛けろって先生に言われててな。臆病者の遊びなら他所でやってくれないかな?」

「!!だ、誰が臆病者だコラァ!」


三人の内のもう一人─肥満体型の少年が甲高い声で怒鳴り散らす。それを見て、アルビノの少年は内心腹の底から沸き出る苛立ちを感じていた。そしてそれを彼らに隠すことなくぶつける。


「一方的に一人を多数の暴力で屈させようっていう発想が臆病者以外のなんだというんだ?チキン以下のクズだよ」

「テメェ!」


肥満体型の少年は右拳をアルビノの少年の顔へめがけて振りかぶる。瞬間、アルビノの少年は反射的に襲い来る拳に合わせて首を可動させる。拳は頬に触れるものの、与えられる衝撃は受け流され威力が半減する。


「…?なんだ、手応えが…」


肥満体型の少年の言葉が最後まで発せられるより早く、彼の身体がタイルに叩き伏せられる。──アルビノの少年が、殴打されたほぼ直後に彼の左頬へと右の鋭いフックを直撃させていたのだ。


「…昔から言うだろ?右の頬を殴られたならば左の頬を叩けってな」


白目を剥いて気絶している肥満体型の少年を冷ややかに見下ろしつつ、それを殴り飛ばした少年は右拳の手応えを確かめる。


「やべっ、感心するほど良いのが入っちまった。一応歩いて帰れるくらいには加減する気だったのに…」


困り顔のアルビノの少年とは反対に、倒れ込む仲間を見ていた残りの二人は思わず二歩後退りをしていた。二人とも、それが恐怖からくるモノであることを内心理解していた。それを見逃していなかったアルビノの少年は、彼らを冷たく見つめる。


「ほら、言った通りじゃないか。臆病者…ってな」

「っ…!なんだと!?」


アルビノの少年の指摘に、リーダー格の少年は少しだけ上ずった声で怒鳴り反論する。彼はそれを、はぁ、というため息とともに呆れた様子で返す。


「一方的に一人を嬲り物にするのは楽だよな?殴られるのは痛いだろうからそんな心配は無いし、日頃生じるストレスを発散もできる。臆病者らしいチンケで卑しい発想だ。──反吐が出る」

「っつつ!ふざけんなぁぁあ!」


アルビノの少年の放った言葉を聞いた直後、やせ形の少年が声を上げながら殴りかかろうと駆け出す。──だが、


「ぶがっ…!」


その怒りの篭った拳は届くことはなかった。打ち込むより早く、アルビノの少年が自身の身体をタイミング良く潜り込ませ、彼の顎に左拳のアッパーカットを直撃させていたのだ。


やせ形の少年は、海老反りの状態でそのまま意識を刈り取られ、大の字に倒れ込む。残されたリーダー格の少年はその様をまざまざと見せられ、その額に夏の暑さからくるモノとは別の汗が滲ませる。


「な…つ、つええ…」


完全に腰が引けてしまったリーダー格の少年とは対象的に、アルビノの少年はその様を見てとても煩わしい心持ちであった。


「──もういいだろ。早くそこのぶっ倒れてる奴ら引っ張ってとっとと帰ってくれ頼むから」


アルビノの少年は屋上のカギを指でぶらぶらと揺らしながら、ひどく面倒くさそうに言い放つ。リーダー格の少年は憎々しげな表情をしながらも、気絶している仲間達の肩を背負い屋上を跡にする。


アルビノの少年は三人が去ってゆく姿を見送ってから、自分の他に屋上に残された一人の少年の元へと歩み寄る。


「おーい、生きてるか…ってひどい顔だな…」


一つ結びがほどけ、顔は内出血だらけに加え鼻血で汚れたの幕下少年を見、アルビノの少年はやや慄きながらもぐったりとしている彼の身体を背負い込む。


「もう下校時間なんだよな。保健室開いてるといいが…」


アルビノの少年は背負っている彼をできる限り動かせないよう気をつけ、ゆっくりと屋上の出入口に向かうのだった。

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