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ヤオヨロズ──中道録  作者: 隼理史幸
八百万チュートリアル
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喜べクロウ!美少女二名によるチュートリアルだ!

「イエス!登録完了っと」


喜びでぐっと握りこぶしを振り上げるミシェル。それをやや冷めた様子で見る九龍はあらためて琥珀に向け訊く。


「まあ、要約するとだ、残滓探しをしていてたら、何やら窓かはたまた外に反応があってそこいらじゅうかざしていたら四階からうっかり携帯落っことしてしまった…と?」


それを聞いた琥珀は、また申し訳なさそうな態度に変わる。それを見た九龍は慌てて言葉を紡ぐ。


「あっ、別に怒ってはいないんだ。むしろ、仲間が増えたことのほうがうれしいと思うよ」

「? うれしい…ですか?」

「ああ。というか、もし俺のところ以外に落ちていたら落とされた側も落ちてきた携帯の側も結構悲惨なことになっていただろうさ。それに、共通の話題のある知人がいるってのは、なかなか悪いもんじゃないと思うがね?」


俯きがちの琥珀とは対照的にニッコリと笑った様子で話す九龍に、先程まで悦びを噛み締めていたミシェルが彼の背中をばんばんと叩きながら声をかける。


「おー?なになに、さっきまで〈八百万〉に興味無さげだった癖にどーしちゃったの?」

「ミシェル…。いや、深い意味はないんだが、こういうゲームからでも人と人を紡ぐ(えにし)が生まれると考えたら悪くないと思ってな」

「へぇー。クロウ、なんか坊さんみたいなこと言うね」

「…誉めてるのか?それ」


少しだけ首をかしげる九龍。そこへ琥珀が何かを思い付いたように両の手を軽く叩きながら提案する。


「あの、先輩。その、お詫び、という訳ではないのですが、聞いたところ先輩は始めたばかりとのこと。ひとつよろしければ、なにかお手伝いをしましょうか?」


その提案を聞いたミシェルは、意気揚々とそれに乗っかり話す。


「お、いい考えだよ琥珀ちゃん。喜べクロウ!美少女二人によるチュートリアルだ!」

「──美少女って、お前自分で言うかよ?」

「二人、ってわたしも含めてですか?」

「や、琥珀さんそこにツッコミ入れるか?」


三人は妙に息のあった漫才を披露した後、ミシェルが咳払いをし話を戻す。


「こほん。とりあえずクロウ。キミはゲームのシステムに慣れを覚えるとこから始めよう。その為にボクと〈決闘(ライバルマッチ)〉をしてもらおう。一応ハンデとして琥珀ちゃんをアシストとして連れてね」

「ライバル…マッチ?なんだそれは?」


今一つ理解しかね首をかしげる九龍に、琥珀がやさしく解説をする。


「先輩、この〈八百万〉には残滓を収集し精練する他にも、NPCや他のプレイヤーと戦うことが出来ます。プレイヤーと戦うモードのことを〈決闘〉と言います。この戦うモードの時にあらかじめフレンド登録した人をアシストとして一緒に戦ってもらうことも出来るんですよ」

「なるほど。だからフレンドの数は多いに越したことはないのか」

「そういうこと。ああクロウ。一応言っておくけど〈決闘〉に負けてもデメリットは発生しないから安心してやられてね」


その言葉に、九龍はピクリと眉を動かす。


「ほー、ミシェルさんや。それは遠回しな勝利宣言ですか?初心者狩り上等ってか?」

「あったりまえよ。いい機会だ。お昼から続く争いにケリつけよう」

「お昼の、って生ハムメロンとピーマンの肉詰めのコトか? まだ引きずってるのかよ? 相変わらずしつこいな」

「うるさいな。ボクは物事はハッキリさせたいタチなんだ。ついでに酢豚にパイナップルは異物だっていうボクの持論を証明してやる! さあ対戦用の部屋は作った。携帯を構えろ!」


熱の入ってきたミシェルに肩をすくめながら九龍は自分の端末に目をやる。『〈決闘〉の招待が届きました』というメッセージが出力され、彼がそれをタッチすると、画面が切り替わり闘技場のような背景になる。


「うーん、わたしは嫌いじゃないですけどね。酢豚にパイナップル」


〈決闘〉の準備が進むなか、琥珀は目の前の少女に聞こえないようそう呟くのだった。

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