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 その日は俺の心境とは裏腹に、空は晴天だった。

 今日から、学校に通わなければならない。

 前いた世界から学校嫌いだった俺は、どうしても学校と言うものが好きにはなれない。

 『学校が楽しい』とか言ってる奴はサイコパスだと俺は思ってる。

 朝起きると、メイドのメイさんは既に起床をして仕事をしていたのか、俺のベッドの横に待機していた。



「いつからそこに?」

「今さっきですよ、制服を届けに来ました」


 メイさんが手に持っていたのは、ビニールに包まれた新しい制服。


「似合わないとは思いますが、今日からこれを着て学校に通ってください」

「今日も朝から、毒を吐きまくりですね」

「毒?私は事実を述べただけですが……」

「それだよ!それ」


 俺は、ベッドを降りながら深いため息をついた。

 そして、メイさんから制服を受けとる。


「お着せしますよ」

「大丈夫ですよ。一人で着れます」

「そうですね、今まで独りでしたものね……」

「あんたは俺の何を知ってんだよ!」


 それでは、と言いながらご飯の準備をしてくると言ってメイさんは部屋を後にした。

 一人になった俺は、部屋にある大きな鏡の前で渡された制服を着るため、パジャマを脱いだ。

 そしてパンツ一丁になって、制服を手に持ったとき、ドアがノックされた──


「入るわよ」


 この声は、我がスイートハニー、セフィリアさん!

 しかし、俺はパンツ一丁で手には制服──

 待って! この制服、女子用じゃん!

 スカートあるんだけど……。

 ヤバくない? この状況、マジでヤバくない?


「ちょっと待った──」


 しかし、既に遅かった。

 おそらく、彼女の目にはパンツ一丁で女子の制服を握りしめた年頃の男性の姿が映っていただろう。

 いや、確実に映っていた。


 彼女は、驚くこともせず、顔から表情と言うものを消して、冷たく俺に質問を投げ掛けた。


「何をしているの?」

「えっ?!あっ……、違うくて」

「何が?」

「は、ハメられたんだ!」


 セフィリアさんは表情を一切変えずに、ジッと俺を冷たい目線で見つめてくる。

 ヤメろよ、照れちゃうだろ。


「朝起きたら、メイさんにこの制服を渡されて、着替えようと思ったら、女子用のものに気付いたら、セフィリアさんが来たんだ!

 俺は悪くない!社会が悪い」


 すると、俺の熱い思いが伝わったのか、セフィリアさんはハッと息を吐いた。

 いやー、セフィリアさんなら分かってくれると信じていたよ。


「その、制服を来たら許してあげるわ」

「はあ?」


 何を言ってるのこの子?


「誰に向かって、そんな態度をとっているの?そこは“イエス ユア ハイネス”でしょ」

「いや、どこの軍の上官だよ……」

「上官じゃないわ、ご主人様よ。でないと朝御飯は抜きにするわよ、変態駄犬」

「駄犬?!」


 朝から、言われ放題だな。

 見た目で結婚しちゃったけど、もう真面目に離婚を考えるレベルだよね。

 ……あ、変態を否定するの忘れてたわ。


「あの~、勘弁して──」

「駄目よ」

「……」


 き、着なきゃ駄目なの、これ。

 俺はしぶしぶ着替え始めた。

 なんたる、侮辱。

 男として大切な何かを俺は失ってはいないだろうか?

 大丈夫だよね?

 着替え終わった時、セフィリアさんの案外似合ってるじゃないと言うお褒めの言葉を頂いた時に、少し開かれたドアから覗いていてたメイさんの笑顔を俺は一生忘れない。

 ……ってか、メイさんその手に持ってる制服は何?

 それが男性用の、本来の俺の制服だったことは言うまでもあるまい。

 確信犯かよ。



 ※ ※ ※


 国立パルティア学園──名前の通り、パルティア家が開いたこの国でもっとも大きい学校。

 ここには、この国に住む、魔法や学力優秀者などのエリート達が集っている。

 校舎はパルティア宮殿には及ばないものの、かなりの大きさを誇っている。

 見るからに、キラキラしてるよね。


「今日からこんなところに通わないと駄目なのかよ……」


 俺はため息をついた。

 

「当たり前よ、そんなポンコツな頭で国のトップに立つつもり?」

「国のトップに立つつもりなんてサラサラないよ」

「あら、なら結婚を承諾してくれたのは、嘘なのかしら」

「それとこれとは……」

「同じよ。それに貴方は魔法が使えないんだから、学力クラスになるわけだから、相当な勉強が必要よ」


 この学校は、魔法クラスと学力クラスに分かれている。

 魔法クラスは、主に魔法技術のレベルアップや魔法の正しい使い方について学ぶ。

 学力クラスは、魔法は使えないものの、頭がいい人か集まりしっかり勉強をする。

 俺は学力試験なしで、学力クラスに転入してしまった。

 前の世界にいたときは、成績は中の中。

 正直、やっていく自信はゼロだと自信を持って言える。


 校舎に入った俺は、セフィリアさんの後に着いていく。


「ここが職員室よ、後は担任の先生に案内して貰いなさい」

「え?教室まで案内してくれないんすか?」

「は?何を言ってるの貴方は、私は魔法クラスだから、校舎が別だし、学年も一つ上よ」

「さいですか」

「じゃあ、頑張ってね」


 そういって去っていく彼女の姿は素直に可愛いと思った。

 いや、可愛いんだよ。性格に何があるだけ。


 俺は、一つ大きなため息をしてドアを叩いて職員室に入った。


「失礼しまーっす」


 中に入ると、居たのはお色気ムンムンのお姉さんただ一人。


「あら、見ない顔ね」

「転入生ですので」

「あー、君がね」


 おっぱいでかくて、泣きぼくろとか、もしかしてだけどおいらを誘ってるんじゃないの~。

 そしにしてもこんなにだだっ広い職員室に!朝からこのお姉さん一人だなんて、違和感しかないな。

 そのことに違和感を持ってる俺を察したのか、お姉さんは説明してくれた。


「ここは、学力クラスの職員室だから、先生は少ないのよ」

「そうなんですか?」

「ほとんど、魔法クラスに先生は回させるから、魔法クラスの職員室にいるわ」

「じゃあ、学力クラスの勉強は誰が教えるんですか?」


 すると、お姉さんはウフンと言わんばかりの前屈み決めポーズをして、


「全教科私よ」


 俺も前屈みになりそうになった。

 この世界に保健体育があるかどうかは知らないが、このお姉さんに保健の実技をして欲しいなあ。



 ※ ※ ※ 



 

 一人しかいなかった職員室から俺は、教室まで案内してもらうことになった。

 お姉さんが俺の二三歩前を歩いていくのを、着いていく。

 抱きつきたい、この背中に。


「貴方もこんな時期に大変ね」

「え?あ、まあ、そうっすね」

「セフィリアさんの旦那さんなんだってね」

「お姉さんは知ってるんですか?」

「まあ、担任だからね。他の先生は知らないし、黙っておくよう、理事長からは言われているわ……って、お姉さんは無いでしょ」

「すみません、つい」


 いや、本当に高校生って言われても疑問持たないレベルだよ。


「若く見られてるってのは、嬉しいけど、私は先生よ。名前はマミよ、マミ先生って呼んでちょうだい」

「いえっさー!マミ先生」

「よろしい」


 俺はにどうやら、二年生らしい。

 年齢的に、学力的には……知らないけど。

 とは言っても学力クラスはこの学校には学力クラスは各学年に一つしか無いため、学力クラスは別棟の同じ階に集められている。

 だから、セフィリアさんは一旦校舎を出たのか。


「そういや、セフィリアさんとはキスしたんか?」

「へ?!」

「いや、だからキス、したんか?」

「何ですか不躾に、言い方がおっさん臭いですよ」

「やかましいやつやな、で、どうなん?」


 何だよこの姉さん、喋ったら駄目な人かよ。

 ノリがマジでおっさん臭い、いや匂いはいい香りだよ。


「……してないですけど」


 すると、マミ姉さんさカッカと笑った。


「チキンか、お前は!折角ええ嫁貰ったんやけ、しっかり食べにゃおえんやろ」

「ちょ、朝から何てこと言ってるんですが!それに、セフィリアさん俺のことあんまり好いてなさそうですからね」

「そうなんか?顔は……悪くはないし、何が駄目なんや?性格か?……確かに、性格捻くれてそうやんな」

「余計なお世話ですよ。それに俺はとても良い性格をしてます。他人に迷惑はかけないし、こうしてマミ先生が女として無事にいられるのも、俺の紳士としての良心があるからですよ」

「それは、君が友達のいないチキン野郎なだけじゃないんか?」


 おっと、図星過ぎて思わず黙っちゃったよ。

 そんな、先生とキャッキャウフフな会話をしていると、漢字と数字で“2年7組”と書かれた立て札がある。

 ……日本語じゃん。

 そういや、今まで何も疑問を持たなかったが、普通に俺の産まれて育ってきた場所と言語一緒じゃん。

 ……………まあ、いっか。


 教室に先生と一緒に入ると、そこには俺の知ってる学校の風景があった。

 机があって、椅子があって、教卓があって、生徒がいて。


「はーい、これが急遽入ってきた転校生の……えっと……」


 チラチラと、こちらを見てきたので優しい俺はフォローした。


「芦沢 優です。よろしくおねがいします」


 俺は軽くお辞儀をしながら挨拶をした。

 ってか、先生、転校生の名前くらい覚えてやれよ。

 まあ、あまり前の世界の時も人に名前を覚えて貰えなかったけど。


「だ、そうだ。皆もよろしくしてやれ。席だが、一番後ろの空いてるところに座ってくれ」


 先生が指差す所に一つ空いていた席があったので、そこに向かっていく。

 そして、椅子を引いてゆっくり座った。

 なにこの高そうな椅子。

 さすが、国王が経営する、国立学校。

 俺は今日からここで勉強するのかぁ……──あれ?あれ?あれあれ?


「どーも、隣の席のメイと申します。以後お見知りおきを」

「知ってるよーーーー!!!!知ってるっつーの、ってか何でここにいるんだよ」

「ご存じでしたが、いや、ここに居ては駄目ですか?」

「教えてくれれば良かったのに」

「教えたくなかったので」


 何でだよ。と、思ったが周りの視線が集まってたので俺は黙って、先生のありがたーい話に集中することにした。


「今日は定期テスト、一日目やけど、頑張ってくれよ」

「は?」


 マジふざけんなよ。



 ※ ※ ※ 


 一時間目のテストは数学だった。

 数学は前いた世界よりそこまで進歩して無いと言うか、発達して無いと言うか、基本的な計算ばかりで、開始10分もしないうちに終わってしまった。

 ここは本当に国内屈指の学校なのだろうか?

 と、バカにしていたら、二時間目の社会でこんてんぱんにされてしまった。

 地歴のミックス問題なのだが、見たことのない地形に、見たことないヒゲの生えた叔父さん。

 名前なんてわかるわけないだろ。

 俺の0点が決まった瞬間だった。

 しかし、三時間目の理科は前いた世界とそんなに変わらなかった。

 ただ一つ違うのが、計算問題がなかったこと。

 一時間目に受けた数学のテストからして、おそらく数学を用いた理科は発展してないのだろう。

 そして、本日最後のテストが“魔法基礎”。


 魔法の属性、使い方、魔法に関しての法律などの問題があった。

 もちろん、俺にはサッパリわからない。

 本日二度目の0点です。


 テストが終わり、周りの人達はゾロゾロと動き出した。

 その的が俺だってことには、すぐに気付いた。


「この時期に転校だなんて珍しいね」


 一番最初に声をかけてきたのは、背がスラッと高い細身な男だった。


「色々あってね」

「まあ、そうだろうね。あ、俺はこのクラスのクラス長をしてるマダンって言うんだ、よろしく」

「ああ、よろしく」


 すると、そこから便乗するように色々な人達が自己紹介をしてきてくれた。

 こう言うところは、前の世界と変わらないな。

 気だるそうに教室にマミ先生が入ってきたので、皆は自分の席へ戻り帰りの準備を始めた。


「よーし、テストご苦労様。明日一教科残っとるが、頑張りや、じゃ、号令」


 そう言うと、クラス長のマダンが挨拶をして、放課を迎えた。

 委員長やクラス長ってのは眼鏡をかけた女の人をイメージしてたわ。

 いや、実際前のいた世界の同じクラスの委員長そうだったし。


 俺は鞄を持って、教室を出ようとする。

 すると、メイさんが着いてきた。

 いや、まあそれは良いとして、他の皆は何で帰らないの?

 学力クラスは俺を足して24人。

 帰ろうとしているのは俺とメイさんと、その他数名。

 そういや、このクラス人数、国立の割りには少ないな。


 その光景に少し足を止めて見ていると、後ろからメイさんにつつかれた。


「あっ、すみません」

「いえ、早く行きましょう。旦那……優さんがいらっしゃると、皆様の邪魔になりますよ」

「どういう意味だよ」

「そのままですが?」


 なに、きょとんとした顔をしてんだよ、可愛いだろうが。


「それに、旦那……優さんとセフィリア様を新しい家に案内するよう言われてますから」

「そうだったな、セフィリアさんはいずこへ?」

「セフィリア様は魔法クラスですから、校舎が違いますよ、こんな小さな校舎ではなく、そこの窓からみえる大きな校舎がそうです」


 でっか。

 俺のいる校舎の数十倍の大きさじゃん。

 格差社会?……いや、おっぱいの大きさじゃねーよ。

 

「セフィリア様は魔法クラスの中でも優秀なんですよ。全科目常にトップ。魔法の実技も常に一位で、群を抜いています。それにあの美貌ですからね、旦那……優さんも油断してたらどこぞの馬の骨に持っていかれますよ」

「いや、もう無理しなくてもいいよ。誰も聞いてないでしょ」

「いえ、念のためです」


 すると、下駄箱に着いて、靴を履き替えるときもメイさんはセフィリアさんの話を続けていた。


「でもさ」


 俺は急に呟いた。


「はい」

「同じ学校なのに、校舎を分けるってのはなんだかなあ。学年が違うならまだしも、能力で分けるなんて」


 すると、メイさんがフフッと笑みを浮かべた。


 「旦那様は優しいんですね……でも、分けてくれるのも、学校側からの優しさなんですよね」


 俺はメイさんの笑みに少し見とれてしまっていた。


「随分、仲良しなのね」


 はっと、振り向くと奴がいた!


「噂をすればセフィリアさん」


 俺は、見とれてしまっていたことを隠すように、平然を装ってそんなことをいった。


「あら、私の噂?どうせ、素晴らしいとか、可愛いとかでしょ?」


 自分で言っちゃうのかよ、いや、まあそうだけどね。

 可愛いのに、『私なんて全然~』とか言ってる奴より好感は持てるな。

 そう言ってるは、心のなかはどす黒いに違いない。


 俺がそんなことを心なかで思い、ウンウンと頷いていると、セフィリアさんがナゼか頬を染めいた。

 

「チョット、黙らないで、何か言い返してちょうだいよ……」


 ……可愛い~!何だよ、やれば出来るじゃないか!ツンデレ!

 恥ずかしがってるセフィリアたんマジ天使。


「悪いな、図星過ぎて言い返せなかったわ、可愛いよ」


 俺は目を輝かせながら、髪の毛をはなわくんの如くサラッと弄りながら決めていった。


「気持ち悪いわね、早く行くわよ」

「わかりました、セフィリア様」


 そう言うと、メイさんを先頭に俺達は新しい家に向かって校門から校外に出た。

 ちなみに、ここは学力クラスの校舎の校門だから、人はあまりいない。

 わざわざセフィリアさんはここまで来てくれたのか、ありがとう。

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