2
「パルティア家長女、セフィリア・パルティアが願い奉る。我に相応しき、生涯のパートナーをここに馳せ参じたまへ」
長い髪をした輝かしい金紙の、白いドレスを身にまとった女性がそう言うと、彼女の目の前には魔方陣の様なものが浮き出てきた──
そしてその魔方陣の上に一人の男子が現れた。と言うか、俺だった。
俺はフッと体が浮くような感覚から一気に重力を感じたように体をびくつかせその反動で目を覚ました。
……目の前に金髪美少女がいました。
するとしだいに魔方陣は光を失っていく。
俺は尻餅をついたまま、辺りをキョロキョロと見回す。
何か、中世ヨーロッパのお金持ちみたいな雰囲気。
ド○ゴンク○ストに出てきそうな感じ。
空は満点の青空。
どうやら、どこか宮殿の屋上らしい。
……俺ってば、まだこんな夢を見れるほどのピュアな気持ちを心の底に秘めていたのか。
「ようこそ、パルティア家へ。貴方は今日から私の旦那だ」
動揺していた俺に、金髪美少女が方膝を着いて俺にそう言った。
「えっ?……パートナー?」
「そうだ、いきなりな事でわからないと思うが、とりあえず宮殿の中に入って話でもしようか」
「え?あ、はい」
俺は金髪美少女から差し出された手を握って立ち上がった。
その手は、小さくて柔らかい。軽く力を入れただけで壊れてしまいそうだった。
そして立ち上がって気付いたんだが、背が高い。
おそらく、俺より五センチほど高い。
顔は、文句なし。可愛いんだけど、どちらかと言うと美しい。
美しすぎる。
外国人のように鼻が通っていて、目は少しつり上がっているが、パッチリとしている。
なんと言うか……女神だよな。
手を引かれるがままに着いていくと、宮殿の中の一つの部屋に招かれた。
ソファーに座るよう言われたので、高そうな、こんなのイギリスの王族の部屋にしか無いようなソファーに腰をかけた。
……何か、ソワソワして座ってる感じ全くしないけど。
正面には、俺をここまで連れてきた金髪美少女が座った。
「今回、召喚の儀式で貴方がパートナーになったわ。とりあえず自己紹介をお願い出来る?」
「召喚の儀式?!……えっ、あ、芦沢 優って言います」
「あしざわ……ゆう…?……変わった名前をしてるね」
「え?そうですか?生まれて初めて言われましたけど。結構ノーマルな名前だと思うんですが」
変わった名前かな?今まで自分の名前に疑問を持ったことないからわからないよ。
「そう?まあ、これからは優って呼ばせて貰うわ」
「はあ」
「では、いきなりで悪いのですが、今晩の挙式の為に服の採寸をしますがよろしい?」
「えっ?!挙式?!……いや、その前に貴女のお名前を教えて貰っても──」
そう言うと、彼女は目を大きくした。
めちゃ驚いてるやん。
え?何、ってか、そもそもここどこ?
「わ、私を知らないのですか……?」
「ざ、残念ながら……」
すると、彼女は身を乗り出すようにしてこちらに質問してきた。
「貴方、出身は」
「出身?……日本?」
「……ニッポン?」
彼女がはてな顔をしながら考え込んでいると、ハッと気付いた素振りを見せて、こちらに言い放った。
「貴方、まさか異世界の方ですか?!」
※ ※ ※
このあと彼女と一時間ほどお話をさせていただきました。
彼女は、どうやら俺が今までお世話になった世界とは違う人らしい。
逆か、俺が異世界に喚ばれちゃったらしい。
そして一番驚いたのは、俺がこんな美人の旦那になること。
セフィリアさんが顔を真っ赤にしながら、『結婚をしてほしい』と言ってきたときは、写真を撮っておけば良かったとひどく後悔した。
もちろん、断る理由がない。
夢かも知れないし、荒手なドッキリかもしれないけど、もうこの際どうでもいい。
ドッキリならそれで構わない。
あ、ちなみに彼女はパルティア・セフィリアさんと言って、この国の王族の娘さんらしい。
だから、この国に住んでる人なら誰でも知っているらしい。
でも、よくあるらしいよ、僕みたいに異世界人が召喚されることは。
そして俺は今、服を着せられている。
大きな丸眼鏡をかけたメイド様に。
「メイドのメイと申します。以後お見知りおきを」
「は、はあ。その……自分で着れますよ?」
「いえ、これが私のお仕事ですので……それにしても良い体をしておられる」
「まあ、中学校までは野球をしていたので」
「?ヤキュウ?……そう言えば、旦那様はこことは違う世界からやってこられたとお聞きしましたが」
「そうらしいですね……セフィリアさんから粗方の話は聞いたので、状況は把握してるつもりですが……」
「また、落ちつきましたら、お話をお聞かせ下さいね。私、貴方がいた世界に興味があります」
「是非、俺も話し相手が欲しかったですし」
「そうなんですか?私、旦那様はてっきりコミュ障かと思ってました」
「えっ?なに、野球という単語は知らないのに、コミュ障って単語は知ってるの?!」
「何をそんなに驚かれているのですか?」
「いや、驚くよそりゃ……然り気無く貶されてるし……」
「マゾフィスト……」
「違ーーーーう!!!何ボソッと呟いてるの!喜んでないし!」
なにこの眼鏡。
可愛いからって、俺をバカにしていいことにはならないんだからねっ!
「旦那様、服の方が終わりました。どうでしょう
」
何か、ゴージャスな服を着せられた。
少しゴワゴワして落ち着かないが、少し新鮮な気持ち。
「どうでしょう、と言われても困りますけど、まあいんじゃないんですか?」
「そうですか、それならよかったです。旦那様は一人で服もまともに着られませんから、頑張った甲斐がありました」
「いや、最初に一人で着れるよ? って聞いたよね? ねえ?」
「はて? 何の事やら」
このとぼけメイドめ、今から襲ってやろうか。
「イヤらしい……」
何?! 心を読んだだと?!
と、思ったが、その声を発したのはメイドのメイちゃんではなく、ドアからこちらを覗いていたセフィリアさんだった。
「着替えは終わりました?変態さん」
「いや、変態って……」
「本当……さっき襲われそうになって……」
「ちょ、メイさん何を──」
メキっ
木が折れるような音がした──
壁にヒビが入っていた。
「変態さん、早くいきますよ」
「は、はい」
セフィリアさんは部屋から出ていった。
俺もあとを着いていこうとする──
「二人は見ていると面白そうですね」
部屋を出る瞬間に、メイさんがそんなことを呟いていた。
面白いんじゃなくて、貴女が面白がってるだけだって。