表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

スタート地点

 8月31日の夏休み最終日。高校一年の榊 耕太郎はある林の中で首を吊る準備を進めていた。切っ掛けは失恋。確かに失恋は心に深く傷を負う出来事ではある。だが、だからと言って耕太郎も失恋をしたから自殺をする……というほどまでにメンタルが弱いという訳ではない。繰り返すが失恋は切っ掛けでしかなく、耕太郎が自殺をするという選択肢を選ぶことになるほど追い込まれた原因ではない。では原因は何かと言うと……告白をした相手にある。


 それをもう少し詳しく話す──事はあまり必要はない。事はシンプルだ、その耕太郎が恋した相手は外面は良いが中身がまっ黒であった、という事だけである。まあ、その女子生徒の名前なども重要ではないだろう。肝心なことは、夏休みを迎える前に告白した耕太郎の心を深く傷つけた。手ひどい振り方をしたという事ではなく、耕太郎から告白をされたという事を誰彼かまわず言いふらしまくった。話に尾ひれや背びれをくっつけて滝登りどころか天に昇るぐらいの脚色付きで。



 それは当然にごとく学校全体にあっという間に広まり……いつの間にか、耕太郎は告白を振られた腹いせに強姦まがいの事をして、その上で撃退された──という事になっていた。



 さて、もちろんのことながらそれは事実ではない。だが、人とは面白そうなことがあるとそれを喜ぶ。真実などどうでもよく、耕太郎というおもちゃが突如浮上して来た事に周囲の人間は興味を持った。ましてや強姦まがいの事をしたという噂によるインパクトの大きさから耕太郎は教師に目をつけられ、警察にも任意同行を求められる羽目になった。当然ながらいくら調べ上げられても耕太郎が強姦を行ったという証拠は何一つ出てこない。耕太郎はただその女子生徒に告白を行っただけであり、強姦まがいのことどころか指一本その女子生徒に触っていないのだから。


 だが、周囲の目は夏休みに入る直前には耕太郎は犯罪者まがいの事をやった人間であるという見方で固定されていた。証拠がないから警察のお世話になってないだけであり、上手くやったんだろうと勝手に決めつける人も多くいた。このころになると、すでに周囲の人間は耕太郎にとっては敵になっていた。何の証拠もなく、嘘と噂だけで親を含めた周囲の人達が耕太郎を責め、証拠を見つけてやると憤っていた。影で殴られ、ありもしない噂を流され、耕太郎の心身は憔悴していった。


 もちろん耕太郎は無実を訴えた。自分は確かに告白は行った、だが告白した相手には指一本触れておらず、強姦まがいなんてとんでもない事はしていないと。だが周囲はそんな耕太郎にこう言い放つ。


『そうか、ならその証拠を出せよ』


 無理な話である。そもそも証拠とは何かをやったからこそ作られるものであり、何もしていない耕太郎に証拠などあろうはずがない。むしろなにもやっていないのだから、強姦まがいの事をした証拠が出てこないこと自体が無実の証拠と言えば証拠なのだが……それでは納得しないのもまた人である。そして夏休みに入ったわけだが……いたずら電話に始まり、うわさ好きの人間があることない事を耕太郎の近所に来てまでわざわざ近くを通る人の耳に入るぐらいの声の大きさで言いふらし……夏休み終盤には、耕太郎を見かけると敵意丸出しの目を向けて自分の子供を後ろに隠す母親達ばかりになっていた。


 耕太郎はもう疲れ切っていた。親にも『お前はクズだ』と罵られ、周囲の人はただただ耕太郎の事を犯罪者としてしか見ず、そしてとある子供の『あー、ごうかんまだー』という声を聴いて、ついに耕太郎の心にある最後のか細い糸はついに切れてしまった。


(もういい……もうどうでもいいや……もう疲れた……)


 耕太郎は後悔していた。なんであんな屑女に自分は惚れたのかと。見かけだけの物腰の良さを見抜けなかった自分の見る目のなさを恨んだ。そして、噂を真に受けて自分を犯罪者扱いする周囲の人間すべてに怒りとも諦めともいえないごちゃまぜの感情を持ち、いつしかそれも消え失せた。そして8月31日、太いロープと木箱を用意した耕太郎は自殺の準備をしていた……という事である。


(これでお終いだ。やっと終わる……)


 しっかりと太い枝にロープを括り付け、首吊り用の輪っかがちょっとやそっとではびくともしないことを確認してから耕太郎は首を輪っかに通して、箱から飛び降りた。こうして耕太郎は若干16歳で冤罪によりその命を散らす……事になるはずだった。だが──


『自殺、駄目』


 との言葉と共に耕太郎の両脚は地面について、飛び降りた勢いのままに前方に倒れこみ顔面をしたたかに地面にぶつける事になった。その痛みで耕太郎は逆上し、振り向きながら怒声を浴びせた。


「うるせえよ! 俺が死んだところで何も変わらねえだろ! 周りがせいぜいすっとする……だけ……」


 だが、その怒声はすぐに勢いを失った。無理もない、その耕太郎の後ろに居て耕太郎の自殺を止めた者の正体は……人型をしてはいるが、影が青と紫を入り乱れさせたような光に輝く存在だったからだ。この時になって耕太郎は自分の首に掛っているロープに気づいて胡坐をかく体勢と取った後に首から外してみた。そのロープの先……木の枝との間にあった部分が焼き切れていた。この時になってやっと耕太郎はそのロープが焼けた焦げ臭い匂いを自覚した。


『でも、死んだら駄目。死んだらすべてが終わる。何も成せない』


 そんな輝く影はそう耕太郎に語り掛ける。だが、耕太郎は首を振る。


「いや、もう終わりなんだよ俺は。もうどうしようもねえんだよ。だから死なせてくれよ……頼むからよ……」


 涙声で耕太郎は輝く影に伝える。自分の周囲には敵しかいない。それが今の耕太郎を取り巻く状況であった。一人ではいくら冤罪であると訴えても誰も聞いてくれないのである。


『状況を把握したい。貴方の頭の中を覗かせて貰いたい。許可を』


 そんな耕太郎を見ていた輝く影は、耕太郎にそう伝える。その言葉に耕太郎は……


「見れるなら好きなだけ見ろよ。そのついでに殺してくれればなおいいや。もしくは自殺の邪魔をしないでくれよ」


 とぶっきらぼうに答えた。その言葉を聞いた影はゆっくりと耕太郎に近づき始めた。その行為を見た耕太郎の心にはほんのわずかに恐怖心が湧き上がるが……どうでもいいやとばかりにその恐怖心を眠らせる。やがて少しひんやりとした水……の様な物が頭に触れたことを感じたが、耕太郎はそのまま動かずに座り込んでいた。そうすることしばし。


『状況を把握、強姦なる犯罪経歴に当たる行為は確認できず。冤罪による大多数からの不当な精神攻撃も確認。主犯格に罪の自覚なし、その周囲にも自覚なし。報復の正当性を確認』


 その輝く影からの言葉に、耕太郎は反射的に首を上げた。目の前の存在は『冤罪』と言っていた。周囲は何の疑いもなく耕太郎を犯罪者と決めつけているのに、である。


「ま、まさか、本当に俺の頭の中を見たってのか!? あ、アンタは何物だ!? 俺の妄想の産物でないのなら、いったいあんたは何なんだ!!」


 一切話していないのにもかかわらず耕太郎しか知らない真実を淡々と告げてきた存在が目の前に居る。そんな驚きと焦りが入り混じった耕太郎からの質問に、輝く影はこう答える。


『私は、私達は《何でもない》。私達は《何にでもなれるが、何にもなれない》。故に、私達は私達が一つの固有存在となれる方法を探し旅を続ける存在』


 この影からの質問に、耕太郎は少々混乱した。〝何でもない”ってことは無いだろうと。そして何より、〝何にでもなれるが、何にもなれない”とはどういう意味なのかと。


「よく、分からないんだが。〝何にでもなれるが、何にもなれない”という言葉の意味が分からん」


 すでに自殺をしようとしていたことなど頭の中から抜け落ち、目の前の存在に強烈な興味を持ち始めていた耕太郎である。


『──なら、実例を用いる。目の前で見てみたいものを想像してみてほしい』


 その言葉に、耕太郎は目を閉じて現実には存在する訳がない異性を想像してしまった。それは二次元にしか存在していない紫がかったロングヘアをもち、身長は自分より5cm短い167cm。「整った顔立ちをしていてスリーサイズはB90W58H85。などなど、ただひたすらにいくつもの条件を次々と付けていく。ついでに超能力に該当し、戦闘が可能とする条件も付随した。右手には雷を纏い、足には風を。こんなものは絶対にできるわけがない。


『了解した。──完了。確認を』


 しかし、そんなむちゃくちゃな条件をいくつもくっつけたにもかかわらず、完了。確認をと光り輝く影は言ってきた。その言葉を聞いた耕太郎が目を開くと……耕太郎が想像した条件通りの美少女がそこに居た。おまけに右手には雷を纏い、足元には風を纏っているためなのか、草が揺れている。


「う、嘘だろう……!? こんなのは夢でしかありえない!」


 つい自分の頬を強く引っ張る耕太郎。だが、その引っ張られた頬からは痛みしか伝わってこない。


「これは現実。受け入れた方がいい」


 人の姿を取った為なのか、流暢な女性の声になった輝く影は耕太郎に言い放つ。


「そんな姿になれるなら、なんで”何にもなれない”と言うんだ? もうそんな姿を取れるだけで十分……」


 という耕太郎の前で、光り輝く影は一瞬のうちに様々な姿を取り始めた。鳥、犬、猫と言った小動物から木になってみたり、戦車やミサイルにまで。そんなさまざまな変身ショー? を5分程度続けた後に、耕太郎が思い描いた美少女の姿に戻る影。


「見てもらったように、私達は何にでもなれる。幻などではなく、変身した存在と全く同じ能力も発揮できる。戦車などになれば弾丸を撃つなどの戦闘も可能。でも、どれも私の正体ではないし、私の存在を決める物でもない。そんな存在は、いったい何と表現すればいい?」


 この問いかけに耕太郎はうなった。確かに何にでもなれる事は目の前で証明された。では、どれが目の前の影を表現するのにふさわしいのだろうか? そんな時にふと浮かんだ言葉があった。


「ニャルラト……なんとかっていう、架空の存在でいうあのなんとかの神?」


 この耕太郎の言葉に、目の前の影……今は美少女だが……は首を振る。


「あの作品にでてきた存在と私は別。それにあちらには正体があるが私にはない。だから私達は、私達を〝何かにしてくれる”存在を求めている。念のために補足するが、私達の関係者がこの地球と呼ばれる星を訪れたのは私で3回目。だが、1回目と2回目の時には人類はまだ存在していない時期であったことがはっきりしている。ゆえに私達をモチーフとしてあの作品を書いたという予想を否定する」


 と、真っ向から否定。そしてさらに目の前の美少女は話を続ける。


「──それはまた別の機会に。これから必要な事になるが、私は貴方の自殺を止めた。故にその自殺を止めて貴方がこれから冤罪で苦しまぬように貴方の無実を証明する義務があると判断する。そのために私が行動する許可を貰いたい」


 この言葉に耕太郎は眼を剥く。


「こんな状況を、どうにかできるのか!? 打破することができるのか!?」


 その耕太郎の言葉に、美少女はゆっくりと頷く。


「可能。証拠がないと言われたようだけれど、私の前では証拠だらけ。口では嘘をつけても脳を覗けば嘘など通じない。それらを映像に肉声付きで纏め上げて明日の新学期なる物の全校集会で上映する。さらに催眠術で主犯格を操り、無理やりにでも警察という組織の前で自白させる。そしてその主犯格の行動に乗っかって噂をまき散らした、無自覚な共犯者達は……」



 ──相応の苦しみと痛みを。



 その一言は、感情が込められていない一言であった。だが、その一言は耕太郎にとっては物凄く怖ろしいものと感じられた。目の前の存在は、いったい何をしようとしているのだろうか? それはまだ、彼女以外には知る者はいない……。

更新も内容も不明です。ですが、これを文章にしないと頭が混乱しそうで。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ