君とお話
図書室に居る時もそうだった。
神崎が、図書室に居るんだと気にしてしまう。
神崎は図書委員で、今日は図書当番だった。私はその事に気が付いて、それから何となく意識は神崎がいる方角へと向いてしまっていた。
そんな時、神崎にある女の子が話しかけてきていた。どうやら、二つ下の学年の子みたいだ。
「神崎君」
「ん?」
「この本、元々どこにあったのか分からなくなって……教えてくれない?」
この学校では、図書館とは違って自分が借りた本は、コンピューターで返却した後に、元の場所に戻さなくてはならないのだ。元々優しい性格の神崎は、「僕が戻しておくよ」といい、女の子が手に持っている本を受け取った。
「ありがとう!」
女の子は笑顔で笑いながら、別の場所へと行ってしまった。
いつのまにかそんな一部始終を眺めている自分がいて、はっと我に返った。
なに、神崎の行動を気にしているんだ、私。
そう考え、読みかけの本を再び読む。
――もしかしたら、私もあの女の子みたいに、神崎と話したいのかもしれないな。
と、ふと思い、再び神崎の方をちらりと見ると。
神崎と、バチリとが合ってしまった。
勢いでバッと目を逸らした。なんだか、背中から体が熱くなるような、汗を大量にかいたような変な感じがする。な、何なんだ、今の。
……自分の中に、そんな感情が芽生えることに、違和感を感じた。
「僕、そろそろ山内さんと話してみたいな」
こんな文章の手紙が来てしまった。正直、返事の仕方が分からなかった。
だって、最近変なんだ。
神崎を、意識してしまう。
手紙は何となく続いているけれど、一つ一つの言葉を、なんて書こうか迷ったり、これだと思って書いても、やっぱり駄目だとすぐに消してしまったり。どうしたら神崎が楽しんでくれるかとか、今まで以上に考えてしまう私がいる。そんな私が神崎と面と向かって話したら、一体どうなることやら。
それでも、神崎と話してみたい自分がいる。
迷い、迷った挙句、手紙に「今日の放課後、水色公園で待ってるから」と、書いてしまった。
そして次の日。
まだかな……。もしかしたら、来ないかもしれないな……。
そんな事をそわそわと考えながら、ベンチに座っていた。秋風が体にしみる。くつろいでいるはずなのに、心が何だか落ち着かない。
「山内さんー」
「!!」
俯いていたら、ザッザッザッという足音と神崎の声が聞こえ、何となく顔が上げられなくなってしまう。
神崎が目の前に来たところで、やっとこさ顔を上げる。間近で見る神崎は、走ってきたのか息切れしているのにも関わらず、どこかほんわかとしていて、何となく落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
「もしかして待った?」
「ううん……」
「そっか」
神崎が隣の空いているベンチに座り、笑顔を向けてくる。
「それじゃ、何か話そうか。うーんと、本の事とか……? 僕、会話下手だけど」
「構わないよ。お互い様だね……」
話し方、ぎこちなくなってないかな。
そう考えつつも、結局は趣味の読書について二人で話した。
「それでねー」
夢中になって話していると、いつの間にか話す事に緊張せず、会話にのめり込んでいる自分がいた。
何でだろう。楽しい。
「山内さんさ」
「何?」
神崎に優しい目を向けられていた事に気が付いたのは、この時だった。
「笑顔、可愛いんだね」
読んでくださりありがとうございます。次回、12日20時投稿予定です。