君の声
私の好きな本を、誰かが読んでくれる。面白さを、共有することが出来る。その事実はとても喜ばしい事で。
私は満足気な顔で、自分の部屋の棚からかごを取り出した。
「ふふっ」
蓋つきの小さなかごを開けると、それまでの神崎とやり取りしてきたことの証がたくさん入っている。
最近、よく新しい便箋を買いに行くことが多くなった。可愛い絵柄が多くてどれを買おうか迷ってしまう。けれど、いつも神崎の雰囲気に合わせて、木や花などを基調としたイラストの便箋を買っている。神崎も同じようで、最初の頃のような真っ白い便箋ではなく、落ち着いた柄の便箋や、可愛らしい小鳥の絵が描かれた便箋の手紙が送られてくるようになった。
神崎は私の好みをよく分かってくれている。
そしていつの間にかそんなやりとりを楽しんでいる私がいる。手紙上でしか行われないやり取りは、気が付けば一ヶ月も続いていた。
今日もいつものように、朝登校して真っ先に机の中を覗き込む。すると、案の定手紙がちょこんと入っている。
最近は、本について以外のやり取りも増えた。今日、捨て猫を拾ったとか、新発売のお菓子が並んでいたとか、そんな些細なこと。けれどもそんな事も躊躇わずに、お互いに嬉しかったこと、悲しかったことを手紙に綴った。神崎も私と同じ、話すのが得意なタイプじゃないから、こうやって誰かと出来事を共有したいのかもしれない。
私と神崎は、どこか似ているのかもしれない。
いつもの教室。私は本を片手に休み時間をやり過ごす。……はずだった。
教室には神崎がいて、数人のおとなしい系の男子と話している。
――神崎の、まだ声変わりしていない高めの声。優しそうな、安らぐような声。
なぜか聞き耳を立ててしまい、そうしていて「あれ?」と思った。いつもはこんな事ないのに。人が会話している内容に興味を持つなんてこと、普段ならあり得ないし、誰かの声に興味を持つこともない。
そう思って再び本に意識を集中させようとしても、目が印刷された字を追うだけで、全く内容が頭に入ってこない。
声が。神崎の声が気になってしまう。
結局その日は本を読むことに集中できなかった。