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命の時間  作者: らりなな
2/9

図書室にて

 昼休みは、毎日図書室へ行く。

 平穏で、ゆったりとできるから。


 なのに――




 今日もいつもみたいに、読んでみたい本を探す。昨日探した本は、もうとっくに読み終えてしまった。


(……あ、あの本とかいいかも)

 私の目についた「七のろうそく」という本は、そこまで分厚くなく、二時間ほどで読み終われそうな感じだ。

(読んでみよう)

 そう思って手を伸ばし、本に手をかけた時――


 誰かの手が、私の手の上に重なってきた。


「うわあっ!!」

 あまりの突然の出来事に、私は飛びはねてしまう。重なってしまった方の手を、もう片方の手でかばいつつ、下を見ていた顔を上にあげると、そこには同じクラスの神崎優二かみざきゆうじが立っていた。

「あ! ご、ごめん」

 遠慮がちに言う神崎は、たれ目で私より少し背が高く、おとなしい雰囲気を持つ男子だ。一度も話した事がない。

 あまり面倒事に関わりたくない私は、その場から立ち去ろうとした。

「ち、ちょっと待ってよ」

神崎が慌てて私を止める。

「これ、山内さん読まないの?」

「別にいい。ただ手に取っただけだし」

「で、でも……」

 うじうじしている人は苦手だ。こっちがどう対応したらいいか分からなくなる。私はその場に立ち、次の言葉を待った。

「だ、だったら」

神崎が弾むような声でこう促した。

「一緒に読もうよ」


「……は?」

 私は固まってしまう。


 一緒に読もうよ、って、低学年が一緒に絵本を読む訳じゃないんだから。半ば呆れている私に、神崎は何の屈託もない笑顔で続ける。

「だって、山内さんも読みたいんでしょう?」


 もう、どう反応すればよいのか分からなくなり、その場の勢いで私は図書室から走って出ていってしまった。




 夕焼けがよく見える通学路を歩き、家を目指している時、考え事をした。


 昔から、人と話すのは苦手だ。まあ、話しかけられたら対応はするけれど、特に話題が続く訳じゃない。原因は多分、素直に話せる人がいなくなったからだろう。



 私の両親は、私が小学一年生の頃に交通事故で亡くなった。もう、両親の顔は写真の中でしかイメージが掴めないし、声なんてとっくに忘れてしまった。

 おじいさんやおばあちゃんも居なく、元々一人っ子だった私は天涯孤独の身となり、親戚の家に預けられることとなった。居心地は結構良いし、親戚のおばさんは私に優しくしてくれる。

 ただ、私はどうしても昔のように素直になれなかった。どうしてもおばさんを「他人」としてしか見ることができなかったのかもしれない。そう、家に突然親の再婚相手がやってきたような心境。だから私は暗い性格になったのかもしれない。環境のせいにするのはよくないけれど、もしも、私の親が死んでいなかったならば。私はもっと別の未来を歩んでいたのかもしれない――


 なんて考えているうちに自分の家が見えてきたから、今考えていた事をすべて打ち消した。




 翌日の朝、私は早めに登校する。

 いつものようにランドセルから教科書類を取り出し、机の中に入れようとした時、机の中に違和感があることに気がついた。

 何だろ……と、机の中にあるものを取り出すと、それは真っ白で何も書かれていない封筒だった。

 私は普段、誰とも話さない。そんな私に手紙を書くような変わり者は一体誰だろうか。

 封を切ってがさがさと中身を取り出し、お手本のようなキレイな字が並んだ手紙を読んでみた。


 山内さんへ


 昨日はあんなこと言ってごめんなさい。

 「七のろうそく」って本、僕が読み終わったら貸してあげるね。

 ……あと、僕、いざ話すと考えてもいない変なこと言っちゃったりして、話すの苦手なんだ。手紙に書いてあることも直接言った方がいいのかもしれないけど、まあそういう訳だから・・・・・・ごめんなさい。


 神崎より



 「神崎」という名前を見た時、机に頭を突っ伏す勢いで落胆してしまった。か、神崎からかよ……。けれど、手紙を書いてまでわざわざ謝罪の分を書くってことは、もしかしたらいい奴なのかもしれない。


 手紙が送られてきたら、何となく手紙で返さなければならない気がする。相手には、手紙を書いた分の苦労があるのだから。

 その日、私は軽く返事を書き、次の日に神崎の机の中にこっそりと昨日書いた手紙を入れておいた。

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