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第五幕 第三場

 俺は目の前の出来事に混乱する。

「何がどうなっている?」


「言ったはずだぜ地球人」ジョン・スミスが言った。「俺達は十二人の怒れる狩人だと。人質を取って立てこもる場合、万が一に備えて人質の中に仲間を紛れ込ませておくもんだぜ。おかげで形勢逆転だ」


 やられた! 


 俺が倒したメチャワル星人の数は十人だったのか。そんなことにも気がつかずに、俺はヤツの口車に乗せられてここまでやってきてしまった。おそらくもう一人のメチャワル星人は気づかれぬよう静かにあとをつけ、今の今まで息をひそめて隠れ、そして前田ケイに取り憑いた。


「きたねえぞ」

俺はくやしさのあまり唇を噛み締める。

「最初っから俺をだますつもりだったんだな」


「だまされる方が悪いのさ、このマヌケが。すこしは人を疑う事を覚えるんだな、お人好しの地球人よ」


「くそ!」


 ジョン・スミスと前田ケイの二人が声をそろえて高笑いする。


「おいお前」

俺は前田ケイに顔を向けた。

「もし彼女を撃ってみろ。その時はすぐさま魂を引っ張りだして消してやるからな。そうなったらお前達は——」


「おい地球人」ジョン・スミスが俺の言葉を遮る。「こっちを向きな」


 俺が振り向くと、ジョン・スミスは左手でトレンチコートの中からナイフを取り出す。


 俺はすぐさま身構える。

「ナイフ捨てたはずじゃなかったのか」


「ナイフ一本捨てたぐらいで安心するなよ。本当にマヌケだな。もし俺達に危害を加えようとしたら、すぐさま俺がお前を切り刻んでやるぜ」


「ちくしょう!」


「だが安心しろ地球人。俺はとてもやさしい。言う事を聞いてくれるのなら、お前の大切な人を解放してやろうじゃないか」


 俺は疑惑の目でジョン・スミスを見つめる。

「……どうせ嘘だろ」


「嘘なんかじゃねえぜ。だいたいあの地球人の女に、俺達はなんの怨みもないからな」

言い終えるとジョン・スミスは右手に持つ銃を俺の足下へと投げる。

「銃を拾え地球人」


 不承不承ながら俺は銃を拾い上げる。

「何のつもりだ?」


「その銃でベファルトの女を撃て。そしたらお前の大切な人とやらを解放してやる」


「なんだって! そんなこと出来るはずないじゃないか」


「だったら女は解放しない。殺すまでだ」


「ふざけるな!」

 俺はすぐさまジョン・スミスに向けて銃を構える。

「そんなことさせない!」


「別に撃ってもいいぜ」

 ジョン・スミスは両手を大きく広げて挑発する。

「でもその時死ぬのはこの肉体の持ち主であるこの地球人だ。俺はどうってことないぜ。また新しい肉体を探せばいいんだからな」


 俺は歯ぎしりしながら銃を下ろした。どうにもならない。もはや万事休すだ。


「そうそうそれでいい。その銃で狙う相手はベファルトの女だ。さあ早くしろ」


「あんたの言う事を聞いて、あんたがその約束を守る保証はあるのか」


「口答えするな、立場をわきまえろ。どっちみちベファルトのヤツらは殺す。だったら誰が殺しても同じだ。いや、お前が殺せば女は助かるオマケ付きだ」


 俺は苦しげな表情でミヨに向き直る。ミヨは少し寂しげな笑みで俺を見つめていた。その表情から何を考えているのかわからない。

 どうすればいいんだ?


「さあ銃を構えろ地球人。出来ないとは言わせないぞ。その時は容赦なくお前を背後から切り刻んでやるからな。覚悟しとけ」


 俺は震える手でゆっくりと銃を構えた。見据える先にいるミヨの表情は変わっていない。まるで覚悟しているかのようだ。


「やめろシンゴ!」ユウスケが叫んだ。


 俺はいまにも泣き出しそうな顔でユウスケに視線を移した。拘束されているユウスケはもがきながらこちらに顔を向ける。


「そいつのいいなりになるな!」


「だまってろ!」

 前田ケイがユウスケの頭に銃口を突きつけた。

「大人しくするんだ」


「ユウスケ……」

 俺は消え入りそうな声でつぶやいた。


「なにぼさっとしているんだ地球人」

 ジョン・スミスが言った。

「さっさと引き金を引くんだ」


 俺はうつむく。

「……本当なんだな。ミヨを撃てば本当に彼女を解放するんだな」


「もちろんだとも。約束は守るぜ」


 俺は顔をあげてミヨを見つめる。すると自然と涙がこぼれ始め、嗚咽を漏らしてしまう。


「泣いている暇はねえぞ地球人。早くしな。それともぶっ刺されてえのか」


「ミヨ……ごめん」


 ミヨは小さく首を横に振った。

「あやまるのはこっちのほうよ。こんなことにあなたを巻き込んでしまって、本当にごめんなさい」

 その言葉を最後に目を閉じた。


 心臓の鼓動が跳ね上がる。あふれる涙はとどまる事を知らない。俺は今からミヨを殺さなければならない、好きな人を助けるため。

 好きな人……。俺が好きなのは……。俺は……俺は……。


「できない」俺は銃を下ろした。「ミヨは俺の事を好きだって言ってくれた。好きな人を助けるために、そんなミヨを撃つなんてことできない」


 ジョン・スミスが声をあげて笑い出した。

「こいつは傑作だ。地球人に恋する宇宙人なんてよ。恋だの愛だのなんてばからしい感情、俺には理解出来ないぜ」


 ジョン・スミスの笑いにつられて前田ケイも笑い出す。

「そんなセリフ吐いたんですかボス。そいつはあまりにも滑稽過ぎて、笑いが止まりませんぜ」


「あなた達!」

 ミヨが憤怒の表情で前田ケイに向き直る。

「人の事を馬鹿にして!」


「おっと動くなと言ったはずだ」

 前田ケイがミヨに銃を向ける。


 ミヨはくやしそうにして両手の拳を握った。


「さてと地球人。お前は約束を守れなかった」

 ジョン・スミスがナイフを掲げる。

「消えてもらうぜ」


「待って!」

 ミヨが叫んだ。

「私が死ねばいいんでしょ。そしたらケイちゃんを解放してくれる、そうでしょ」


「ああ、そうだが」


「だったらあなた」

 ミヨは前田ケイが持っている銃を指差す。

「それで私を撃ち殺しなさい」


「だめだミヨ!」

 俺は声を張り上げた。

「そんなの、そんなの絶対ダメだ!」


 ジョン・スミスが楽しげに口笛を吹く。

「こいつはいい。地球人が大切に思っている人間で、地球人の事が好きなベファルトの女を殺す。こいつは見物だ。いいだろう、殺れ」


「わかりましたボス」

 前田ケイはゆっくりと慎重に狙いを定めてる。


「やめろやめろやめろ!」

 俺は前田ケイに銃を向ける。

「やめてくれ!」


「残念だったな地球人」

 ジョン・スミスが言った。

「他の仲間達と同様、あいつにはお前の声は届かない。見えているのは宙に浮いている銃だけだ」


 そういえばそうだった。他のメチャワル星人は他人の肉体に取り憑いている間は、特殊な機器を使わない限り生身の人間と一緒だ。


「さあどうする? 急がないとあいつはベファルトの女を撃つぜ。それを阻止するためにはあの女を撃つしかない。猶予はわずかしかないぞ。さあ決断しろ地球人」


 前田ケイが引き金に指を掛けた瞬間、世界がスローモーションになる。俺もすぐさま銃の引き金に指をかけた。そして引き金を引こうとするも……指が動かなかった。それをあざ笑うかのように、前田ケイはいとも簡単に引き金を引いてしまう。


 ドリルのような銃の先端が光ったかと思うと、一筋の光がミヨの胸を貫いた。


「ミヨ!」俺の手から銃がこぼれ落ちる。


 ミヨは膝をつくと、こちらに顔を向けてうつぶせに倒れた。彼女はまばたきひとつせず目を見開き、口を半開きにしている。その生気のない表情を見て、俺の脳裏には死という文字が過った。


「……嘘だろミヨ。ねえミヨ返事をしてよ!」

 俺は必死に呼びかけた。

「お願いだよミヨ、返事をしてよ!」


 ミヨは身じろぎひとつしなかった。

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