第五幕 第二場
突きつけられた銃を見て、俺は憤慨する。
「やっぱりあんたが俺をだましていたんだな。そいつで俺を撃つつもりか」
「あほか地球人。幽体のお前に銃を向けて何になる」
俺は銃口の向けられた先を目で追った。そこにいるのはミヨだ。
「止めろ!」
俺は両手を大きく広げて制止する。
「ミヨを撃つんじゃない。すぐに銃を捨てるんだ。さもないと——」
「落ち着け地球人。俺はあんたを守ってやっているんだぞ」
俺は困惑する。「どういう意味だ?」
「お前体育館で俺のナイフを見てビビったろ。つまりは以前に同じ物を見て知っていたって事だ。だとしたらベファルトのヤツらが今でもナイフを隠し持っていて、油断して近づいたあんたを切り刻むかもしれない。人質を解放させたと見せかけて信用させ、その隙をつくなんてことヤツらなら平気でやるぞ」
俺の脳裏にミヨがスカートの中に隠し持っていたナイフが過る。
「ミヨ」
そう言って俺はミヨに向き直った。
「そんなことしないよな?」
「ええ、もちろんよ」
そう言うとミヨは、スカートの中に右手を滑り込ませナイフを取り出すと、それを遠くへ投げ捨てた。
「これでいいかしら」
「こいつはうそくせえ」
ジョン・スミスは引き金に指をかける。
「お前が隠し持っているナイフが一本だけのはずがないだろ。もっとあるんだろ、だせよ」
ミヨは舌打ちすると左手をスカートに滑り込ませてナイフを取り出し、先ほどと同じようにそれを投げ捨てる。
「これで全部よ」
「おい貴様」
ジョン・スミスがユウスケに銃を向けた。
「お前も持ってるんだろ。そいつをだしな」
「僕はもっていないよ」
ユウスケが降参のていで両手をあげる。
「おい止めろ!」
俺はジョン・スミスに顔を向ける。
「ユウスケに銃を向けるな」
ジョン・スミスは哀れむような表情でこちらを見つめている。
「地球人、あんた本当にお人好しすぎるぜ」
そう言うと、木の側に立つユウスケをにらみつける。
「とっとと出すもん出しやがれ。さもないと今すぐ引き金を引くぜ。いっとくが脅しじゃない。それはあんたがよくわかっているだろ」
ユウスケは両手を上げたまま言う。
「本当に持ってないんだ」
「はたして本当にそうかな」
ジョン・スミスはオペラグラスのような眼鏡の先端をいじり始めた。
「嘘つくんじゃねえぞ。銃らしき物を隠し持ってるじゃないか」
「高性能ないい眼鏡だな」
ユウスケはそう言うと、ブレザーの内ポケットから小型の銃を取り出す。
「おい、そいつを俺に向けてみろ!」
ジョン・スミスが早口でまくし立てる。
「すぐさま引き金を引くぞコラ!」
「ビビんなよ。ただの麻酔銃だ」
ユウスケは銃を地面へと落とした。
「これでいいか」
「おじょうぎわが悪いぜ。もう一丁銃をもってるだろ。てめえらの嘘にはもうだまされねえぞ。さっさとだしやがれ」
「……わかった」
ユウスケはそう言うと、先ほどとは反対のブレザーの内ポケットから先端がドリルのような銃を取り出し、それを両手にもって掲げた。
「誓ってもいい、僕が持っているのはこれだけだ」
「よしそいつを地面に置きな。そしたらお仲間のところに戻るんだ」
「嫌だね」
「何だとてめえ!」
「こいつを捨てたらお前は僕たちを殺すんだろ」
ジョン・スミスが軽く口笛を吹いた。
「いい勘してるね」
「撃つな!」
俺は拳を握りしめる。
「もし撃ったらお前をぶん殴るぞ」
「そりゃないぜ地球人。俺達はベファルトのヤツらにだまされた仲間じゃないか」
「違う、仲間なんかじゃない」
「ひどい事言うね。だったらお前はヤツらの仲間だとでも言うのか」
「ああ、そうだ」
「お前をだまし、裏切ったヤツらだぜ。そのせいでお前は死んでしまい、二度と生き返らることのできない幽体になったんだぞ」
「俺を戻す方法はあると言っている」
「じゃあ、その方法を訊いてみろよ」
俺はミヨに向き直る。
「ミヨ、どうやったら俺は元の体に戻れるんだ?」
「それは……その……」言葉を濁した。
「ミヨ、教えてくれよ。俺を戻す方法を」
ミヨは沈黙する。
何も答えないミヨに、俺は疑念を抱いてしまう。もしかして、本当に俺はだまされ利用されていただけなのか?
「……ミヨ、頼む何とか言ってくれよ」
「ごめんなさい。今ここでは……話せない」
ジョン・スミスが笑い声をあげた。
「ほれみろ。お前はこいつらに利用されてただけのお間抜けだ」
「嘘だろ……」
俺は失望した顔つきになる。
「ミヨ……」
「さあ地球人、ベファルトどもを皆殺しにしようぜ」
「ちょっと待ってくれ。二人を殺さないでくれ」
「おいおい、今さらそれはないぜ。俺とお前はあいつらに復讐するんだろ。まだこの期に及んで、あいつらを信用するなんて言わないだろうな」
「信用してシンゴ君!」
ミヨが叫んだ。
「お願い!」
「ミヨ……」
「考えてもみて。そいつらメチャワル星人は私たちをおびき出そうと、学校の人たちを人質にとった。それはつまり、私たちがみんなを助けにくると確信していたから。そんな私たちがあなたを裏切ると思う」
たしかにそうだ、と俺は思った。二人が仲間思いでなければ今回の作戦は成功しない。二人が極悪非道なら、メチャワル星人が来た時点でみんなを見捨てて逃げているはずだ。それはつまり……二人は信用出来る!
「俺が馬鹿だった」
俺は決意のまなざしになる。
「俺が信用すべき相手はミヨ達だった。どうして俺は信じてやれなかったんだ。本当に俺は馬鹿だった」
「目を覚ませ地球人。お前を殺し、こんな姿に変えちまったヤツらだぜ。俺と一緒に復讐をはたすんだ。さもないとあとで後悔する事になるぞ」
「言ったはずだ。俺は死んでもあいつらを信じると」
「ということは、十三人目の怒れる狩人にはなってくれないのか」
「そんなもんになるつもりはない」
「そうかいそうかい。そいつは残念だ」
ジョン・スミスがにやりと笑う。
「これで俺達は十二人の怒れる狩人に逆戻りだ。そう、十二人の怒れる狩人にな」
その時だった。気を失っていたはずの前田ケイが突然立ち上がったかと思うと、ユウスケを地面へと組み伏せ、手に持っていた銃を奪いそれをミヨに向ける。
「ケイちゃん」
ミヨが驚き顔になった。
「どうして?」
「動くな!」
前田ケイはそう言うとこちらに顔を向ける。
「お前も動くなよ地球人。もし逆らったらお前の大切な人とやらを」
そこでゆっくりと銃口を自分に向ける。
「こいつで撃つぞ」




