幕間 其の四
縛られた前田ケイが必死にその拘束を解こうともがいていると、ガラガラと戸が開く音が聞こえた。
彼女はその音に反応して助けを求めるも、猿ぐつわをされていたため、くぐもった声を漏らす事しか出来なかった。
「静かにして」それは女の声だった。「騒がないで」
彼女は声のした方へと顔を向けるが、目隠しが邪魔で相手の顔が確認出来ない。いったい誰なの? 敵? それとも味方?
何者かの手が彼女の肩をつかまえ、うつぶせに組み伏せる。
彼女は恐怖の悲鳴を漏らした。こんな乱暴なことするのは私を拘束した人だからだわ。きっとこれから私は恐ろしい目に遭う。
彼女は身をよじり抵抗する。
「動かないで」女は言った。「縄がほどけない」
その言葉を聞いて彼女は抵抗をやめた。
この人は味方だ。私を助けてくれる!
彼女の縛られた両手と両足、それを背中でくくりつけている縄がほどかれた。次いで両足の縄がほどかれると、彼女は数時間ぶりにその足を真っすぐに伸ばす事ができた。何時間もエビぞり状にそっていたため、急に足に血が通いしびれだした。
「足しびれるでしょ。座った方が楽になるわ」
そう言って女は彼女の体を起こして体育座りにさせると、その足を揉みほぐす。
彼女はうめき声を漏らした。そんなことよりも縄をほどいてと。
その気持ちに気づいたのか、女が彼女の猿ぐつわをほどいた。彼女はどっと息を吐くと、喘ぐようにして深呼吸する。
「ありがとう。助けてくれて」
女は何も言わなかった。
彼女は息を整えると言った。
「手の縄もほどいてちょうだい」
女はまたしても何も言わなかった。
「ねえ聞いているの」
彼女はしびれる足でゆっくりと立ち上がると、女がいるであろう方向に背中を向ける。
「お願いこの縄もほどいて」
女の左手が彼女の胸の下に回される。そして女はぎゅっと彼女を引き寄せ抱きしめた。
「ちょっと何するの?」彼女は慌てふためく。
「おやすみ」女は彼女の耳元でそっとささやいた。
その時だった、彼女の首筋にちくりとした痛みが走ったのは。その瞬間、彼女の意識は遠のき、わずか数秒足らずで気を失った。




