第四幕 第三場
俺は体育館玄関ロビー横にある階段を上ってギャラリーにたどり着くと、物陰に身を潜めて相手を観察する。
「相手は四人。下にいるヤツらに気づかれぬよう静かに消していかないと」
ギャラリーにいる四人のテロリストを倒すべく俺は動き出す。まず最初に近くにいたテロリストの一人をおびき寄せるため、わざと階段を踏みならし注意を引きつけた。そしてまんまと誘いに乗ってきたテロリストの体からメチャワル星人を引きずり出すと、そのまま壁に打ち付けて消滅させる。テロリストの体は見つからぬよう、階段の陰に座らせるようにして隠した。
「まずは一人目」
次にギャラリーの窓から外の様子を見張っているテロリストの背後ににじり寄り、後ろからメチャワル星人をテロリストの体から窓の外へと突き落とした。メチャワル星人は地面へと落下し、その幽体を四散させ消滅する。俺はテロリストの体を窓枠にもたれかけるようにした立たせた。こうしておけばしばらくの間はごまかせるだろう。
続いてもう一人、窓から外を見張っていたテロリストをさっきと同じように対処する。これでギャラリーに残されたテロリストはあと一人。
俺が振り返ると、その最後の一人のテロリストが階段へと向かっていた。どうやら仲間の一人が帰ってこないのを不審に思っての行動らしい。
「まずい!」
俺はすぐさま走り出す。
「ここで騒ぎになれば、みんなに危険が及んでしまう可能性が!」
「おい何をサボっているんだ貴様は!」
テロリストが階段の陰に座っている仲間を見下ろしながら言った。
俺はテロリストの背後から飛び込むようにしてその背中をすり抜けて、メチャワル星人をつかみ取ると、そのまま階段踊り場へとダイブする。メチャワル星人はその際の衝撃で四散し消えてしまう。
「危なかった。あともう少しで——」
一息つく間もなく、新たなトラブルが発生する。メチャワル星人の幽体を抜かれ、気を失った状態で階段の上に立つテロリストの体がゆらりと揺れ、そのままこちらへと傾く。
「やばい!」
俺は急いで立ち上がるも、テロリストの体は四十五度に折れ曲がっている。階段を転げ落ちるのは目に見えていた。
俺は腕を伸ばして倒れてくるテロリストの両肩を掴み、なんとかそれを食い止めようとしたが、テロリストの体の重みに押され尻餅をつくようにして倒れてしまい、踊り場へと落ちていく。そのせいで大きな音が響いてしまった。
うめくようにして自分にのしかかるテロリストの体を横へ除けると、静かに立ち上がり耳をそばだてた。
「……バレたか?」
だが取り立てて変わった物音は聞こえてこない。
俺は心臓をバクバクさせならが階段を下りると、フロアの戸口から様子をのぞき見る。さっきまでと変わった様子はない。
「よかった。まだバレていない」安堵のため息をついた。
フロアを改めて見回す。百人近くいるであろう人質のまわりに見張りが四人、そして舞台の上にボスらしき大柄な男が一人、計五人。
「さてと……どうするかな」
どうするべきか思案していると、外から風を切り裂くような大きな爆音が聞こえてきた。どうやらその音はヘリコプターらしく、サーチライトで体育館を照らしており、そのまぶしい明かりが暗幕の隙間から漏れだしている。
「テロリスト諸君に告げる」
拡声器ごしの大声が響いた。
「我々はあなた方の要求には従わない。今すぐ人質を解放し、投降しなさい。さもなくば武力を持ってこれを制します。そうなった場合、あなた方の命の保証はしません」
「馬鹿な」
俺は目を丸くする。
「テロリストを刺激してどうするんだよ。武力突入すれば人質がどうなるかわかっているだろ」
「テロリストとは交渉しない」
拡声器の声は続ける。
「これは国際常識である。ゆえに人質に犠牲がでようとも、その理念を我々は貫き通す。我々はテロリストには屈しない」
「ふざけるな!」
俺は怒りでどうにかなってしまいそうだった。
「人質が犠牲になってもいいだと。くそったれの大人どもが」
死の宣言にも等しい、残酷な通知を聞かされた人質達がざわめき始めた。
「静かにしろ!」フロアにいたテロリストの一人が怒鳴り声をあげた。
「おい!」
舞台の上に立つ大柄な男が、ギャラリーにいる仲間に向かって叫ぶ。
「あのうるさいハエを撃ち落とせ」
だがしかし、ギャラリーにいた抜け殻であるテロリスト達が、その声に反応する事はなかった。
「おいお前ら、聞こえないのか!」
大柄な男は苛立ち舌打ちすると、フロアにいた一人に指示を与える。
「お前が二階に行って知らせてこい!」
「はいボス!」
テロリストの一人が返事をすると、こちらに向かって駆け出してくる。
「今しかない」
俺は腹をくくった。
「ヤツらが外に気をそらしている今がチャンスだ!」
俺はフロアの戸口から飛び出すと、出会い頭にテロリストの顔面に拳をお見舞いする。俺の拳はテロリストの顔面をすり抜けて、メチャワル星人の顔面を捉えた。メチャワル星人は消滅し、テロリストの男は音を立てて床へと崩れ落ちるも、ヘリコプターの爆音のおかげで誰にも気づかれなかった。
「あと四人!
」
すぐに次の行動に移る。フロアにいる三人のテロリストのうち、みなが視線を向ける窓とは反対側に位置する場所に立っていた男に近づき、背後からメチャワル星人を羽交い締めするような形で取り出すと、後頭部に向かって頭突きをくらわせ消滅させた。
「あと三人!」
フロアに残る二人のテロリストは、銃を構えながらゆっくりと窓に歩み寄っている。窓の外を警戒しているらしく、後ろを振り返る様子を見せない。
俺はこの絶好の機会を生かすべく走り出していた。
「お前ら敵は後ろだ!」舞台に立つ大柄な男が唐突そう叫んだ。
「なに!」
走りながら舞台に目を向けると、大柄な男は俺の動きに合せて顔を動かしているではないか。
「見えているのか?」
フロアにいた二人のテロリストが振り返った。しかしこの二人には俺の姿が見えてはいないらしく、視線をあたりに走らせている。
俺はすれ違い様にテロリストの一人にパンチをお見舞いすると、走る勢いを止めずにもう一人のテロリストに向かっていき、体当たりをくらわせた。テロリストから引きはがされたメチャワル星人は消滅し、残るは舞台に立つ大柄な男一人だけとなった。
大柄な男は舞台から俺を見下ろしながら拍手を送る。
「すごいね。まさか一人で俺達をここまで追い詰めるとはたいしたもんだよ。その姿から察するにベファルトのヤツらの仕業だな」
俺は大柄な男の視線から外れるようにして移動する。大柄な男はこちらの動きに合せて視線を動かす。やはり俺の姿が見えているのは明らかだった。
「貴様見えているな」
俺は舞台に体を向けて立ち止まった。
「そりゃそうさ」
大柄な男はオペラグラスのような眼鏡をくいっと持ち上げる。
「こいつがあるからな」
「……なるほどね」
ミヨの掛けていた眼鏡と同類のものか。どうりで俺の姿が見えるわけだ。これで一つの疑問は解決し、もう一つの疑問が頭をもたげる。
「もう一つ質問だ。どうして俺の声が聞こえるんだ?」
「お前に対して俺がそこまで教えてやる義理があるか」
「……ないな」
「舞台に上がってこい地球人、いやベファルトの犬め」
大柄な男は挑発する。
「あいつらを血祭りにあげる前の余興として、お前と遊んでやろうではないか」
俺は敵の余裕の態度に不安を覚えた。なぜああまでも悠長に構えていられる? 俺が肉体から魂を引きはがしてしまえばそれでヤツらは終わり。それなのにどうしてだ……。
何か策があるに違いない。これは罠だ!
「どうした上がってこないのか? それだったら俺が下りてフロアで暴れてもいいんだぞ。そしたら人質は巻き込まれてしまうな」
大柄な男はさも楽しげに話す。
「そこでぐずぐすしていると、外の連中が突入してこのフロアは大変なことになるぞ。それでもいいのか地球人?」
選択肢がない事を悟り、俺は舌打ちする。
「わかった」
大柄な男がにんまりと口元を歪める。
「カモ〜ン」




