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第四幕 第二場

 ……落ち着け、俺は究極の透明人間なんだ。どんなものでも透き通るし、どんなものでも掴める。だったらあの取り憑かれている人間の体を透き通って、中にいるメチャワル星人の幽体を直接捕らえる事が出来るはずだ。だからこそミヨ達は俺を透明人間にしたんだ。ヤツらメチャワル星人を倒すために。


「いきなりぶっつけ本番のメチャワル星人退治か。やるしかないな。やるんだシンゴ!」


 俺は己を鼓舞するため雄叫びをあげながら、取り憑かれた人間の正面に向かって走り出す。取り憑かれた人間がこちらに気づく様子はなかった。


 取り憑かれた相手に体当たりをくらわすかのごとく、その胸に向かって両手を伸ばしながら飛び込んだ。すると俺の体は取り憑かれた相手をすり抜けて、向こう側に飛び抜けた。そしてその両手の先には……メチャワル星人の姿があった!


「出来た!」


 俺は歓喜の声をあげながら、掴んだメチャワル星人とともに地面へと倒れ込む。後方では取り憑かれていた人間が膝から崩れ落ちるようにして倒れた。


 俺はメチャワル星人に馬乗りになると相手をにらみつけた。

「このクソ野郎!」


「な、何者だ貴様!」

 メチャワル星人が顔を上げて、大きな黒い目で俺を見つめてくる。


「……お前、俺が見えるのか?」

 俺は意外な事実に眉をひそめた。

「それに声も」


「当たり前だ!」


「そいつは好都合。だったら話は早い。お前らここから消えろ。今すぐ、みんなを解放するんだ!」


「そいつは出来ない話だ」

 メチャワル星人は何かを悟ったかのような顔つきになる。

「なるほどね。貴様ベファルトの犬か」


「犬じゃない! 達だ!」

 握った拳をメチャワル星人の顔に向かって振り下ろす。


 俺の拳がメチャワル星人の顔面にめり込むと、メチャワル星人の後頭部は地面へと叩き付けられた。メチャワル星人はぐったりとして動かなくなったかと思うと、幽体である体を霧のようにあたりに四散させ、跡形もなく消えてしまった。


「……やっ、やったのか?」

 俺はあまりにもあっけないメチャワル星人の最後に、戸惑いを覚えてしまう。

「弱すぎるぞメチャワル星人」


 脳裏にミヨの言葉が蘇る——『ヤツらは貧弱な自分たちの肉体から魂を取り出し、それを地球人の肉体に取り憑かせる事でその体を操っているの』。


「そうなのか」

 俺はゆっくりと立ち上がる。

「ヤツらメチャワル星人は弱いから、相手の体を乗っ取り行動している」

 その事実に気づき、思わず笑みがこぼれてしまう。

「だとしたら取り憑いている相手の体から引きはがしてしまいすれば、今みたいに簡単に倒せる。どうやら肉体と幽体の強さは一緒のようだな」


 俺が後ろを振り返ると、特殊部隊の人々が先ほどまで取り憑かれていた人間と気を失ったであろう黒尽くめの男を引きずって撤退していた。どうやら不測の事態が起こったため、一時徹底し作戦を立て直すのであろう。


「アメリカ軍の特殊部隊でさえ手こずる相手を、この俺が倒した」

 俺の中に自信が満ちてくるのを感じた。ただの高校生だった俺が、こんなにもすごくなってしまったことに喜びを禁じ得ない。


 高揚する気持ちを落ち着かせようと目をつむり深呼吸する。そして先ほどの戦闘を思い返し、ヤツらの弱点を探る。


「メチャワル星人が相手に取り憑いている間、俺の姿や声は聞こえていなかったはずだ。俺の声や姿が確認出来るのは、肉体から剥ぎ取られたその瞬間」


 俺は勝利を確信し目を開けた。


「だとしたらこの戦い俺の勝ちだ! 肉体に取り憑いて油断しているヤツらを一人ずつ消していけばいいんだからな」

 そう言いながら、体育館入り口に向かって歩を進める。

「必ずみんなを、君を助け出すよ、前田ケイ」


 俺は暗幕の張られた体育館のドアをすり抜けて、その中に足を踏み入れた。そして体育館玄関ロビーの物陰に隠れるようにして遠巻きに様子をうかがう。体育館の中央には縄で手足を縛られた大勢の生徒達と数人の先生達が集められており、そのまわりにはメチャワル星人に取り憑かれたと思われる数人のテロリストが銃を手に人質を見張っている。


「彼女はどこだ?」


 俺は人質達の顔を確認しようと目を凝らすも、あまりにも人数が多くて困難だった。そのうえ目隠しと猿ぐつわをされているため、顔の判別が出来ない。


「……だめだ。ここからじゃ、わからない」


 俺はゆっくりと静かに進み、体育館フロアの戸口の陰に隠れて中の様子をのぞき見る。フロアには五人のテロリスト、ギャラリーには四人のテロリストが配備されている。そして舞台の上には他の作業着の黒尽くめの男達とは違う、黒いトレンチコートを着た大柄な男が立っていた。その男はオペラグラスを思わせる大きな眼鏡を掛けて、まわりにいるテロリスト達に指示を与えている。どうやらこいつがメチャワル星人のボスらしい。


「おいお前」

 大柄な男はフロアにいた一人のテロリストを指差した。

「外の銃声が止んで静かすぎる。様子を見てこい」


「わかりましたボス」

 指名されたテロリストが人質のもとを離れて、入り口にいる俺のもとへと向かってくる。


 俺はフロアの戸口に隠れてそのテロリストをやり過ごすと、その後をつける。そしてテロリストが体育館の外へ出た瞬間、背後からその背中に手を突っ込み、中からメチャワル星人を引きずり出した。


 後ろから突然、首根っこを掴まれて外に出されたメチャワル星人は焦りだす。

「な、なんだいったい!」


「そのまま消えろ!」

 俺がメチャワル星人を地面へと叩き付けると、先ほどのメチャワル星人と同じように、幽体を四散させ消えてしまった。


「やった。やったぞ!」

 俺はすぐに体育館の中に戻り、中の様子をうかがった。誰も先ほどのテロリストが倒されたとは考えてもいないらしく、変わった様子はない。


「今がチャンスだ」

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