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第四幕 第一場

 俺がハシゴを上りきり、その先にあったマンホールのようなフタを押し上げて外へ出てみると、そこは皮肉にも学校の校舎の裏庭だった。


「よりにもよってこの場所かよ」


 月明かりの薄暗い闇のなか、俺は地面に二本の足をつけて立つと後ろを振り返る。大きな木の下の側には、俺が這い出てきた地下への入り口のフタがぽっかりと開いている。そしてそのすぐ横には古びた用具入れがあった。


「ここで俺は彼女にフラれたのか……」前田ケイの姿が脳裏に過る。「いまはそんなことを悔やんでいる時じゃない」


 俺は前に向き直り、体育館の方角へと顔を向ける。いくつもの大きな校舎に隔たれて、その先にある体育館の姿を視認することは出来ない。だがサイレンのけたたましい音や回転灯の漏れる光が、事態が緊迫している事を示していた。


「時間がない急がないと。いちいち校舎を迂回している暇はないな」

 体育館の方角に向かってゆっくりと歩き出す。

「試させてもらうぜ。究極の透明人間の力を」


 俺が全力で走り出すと、すぐさま校舎の壁が目の前に迫る。

「すり抜けろ!」

 次の瞬間、俺の体は壁をすり抜けて校舎の中へと抜け出た。俺は足を止める事などせず、そのままの勢いで校舎の中を走り抜けて行く。


「すげえ! すげえ!」俺は興奮し、まくしたてる。「こいつはすげえよ!」


 障害となるいくつもの壁や物体をすり抜けて、体育館を目指して走る。まるでホログラムで描写された実体のない映像の中を走り抜けるような感覚に陥ってしまう。それほどいとも簡単にすり抜ける事が出来てしまうのだ。


 最後の障害となる校舎の壁をすり抜けて、俺は体育館前へとたどり着いた。驚いた事に体育館の周囲には人がおらず、まわりを取り囲んでいると予想していた、警官隊の姿はなかった。


「状況はどうなっている?」


 体育館の全ての窓には暗幕がかけられ、中の様子をのぞき見る事はできない。学校の敷地外からは回転灯がまたたき、サイレンの音が聞こえてくる。


 俺は学校の外へと顔を向ける。

「あんなところで警察は何をやっているんだ」

 苛立ちをにじませた声でそう言った。


 その時だった。俺の目の前を音もなく横切る黒い影が現れた。驚いた俺は思わず後ろに飛び退き身構える。


「な、なんだ! う、宇宙人か!」


 心臓の脈拍が跳ね上がった。いよいよ宇宙人と対峙する時が来た!

 だがしかし、その黒い影は宇宙人ではなかった。それは紺色の迷彩服の上に完全武装を施した特殊部隊らしき人間だった。その人間は目の前にあった生け垣に身を隠すと、ヘルメットについている無線マイクに向かって、なにやら英語らしき言葉を小声でしゃべっている。


「……まさかアメリカ軍?」


 俺が周囲の闇に目を凝らすと、あちらこちらの物陰にアメリカ軍の特殊部隊らしき人々が身を潜めているのが確認出来た。


「いつのまに包囲していたんだこいつら。すごい。まったく気がつかなかった」


 特殊部隊は徐々に体育館の正面入り口へとにじり寄って行く。正面入り口も窓と動揺に暗幕が張られており、中の様子はうかがえない。


 俺も特殊部隊の後に続いて体育館の正面入り口へと向かったが、透明人間である俺に気づくものはいなかった。


「どうする?」俺は自問自答する。「このままこいつらにまかせておいていいのか? 相手は宇宙人だぞ」


 やにわに正面入り口のドアが開かれ、全身黒尽くめの男が両手を上げて出てきた。特殊部隊の人々が一斉にその男に向かって銃を構える。一気に緊張が高まり、場の空気が張りつめた。


「みなさん」

 黒尽くめの男はゆっくりとこちらに歩いてくる。

「僕は投降しますよ。早く捕まえてごらんよ」


 特殊部隊の一人が黒尽くめの男の前に立ちはだかり、その眉間に銃口を定める。


 黒尽くめの男は立ち止まった。

「僕は抵抗しませんよ。大人しく捕まりますんで、早くしてくださいよ」

 そう言うと両手を頭の後ろに組んで地面にうつぶせで横たわり、くすくすと不気味に笑い出した。


 銃を突きつけていた特殊部隊の人間が、警戒しながら黒尽くめの男の背後にまわる。


 俺はその様子を手にあせ握りながら見守っていた。

「あいつ本当に投降する気なのか?」


 黒尽くめの男の笑いが止んだ。するとその背中から、植物の芽が土から顔を出すかのように、灰色の何かがにゅるっと飛び出した。


「あ、あれは!」俺の目が驚きで見開かれる。「宇宙人!」


 それはミヨが説明してくれた宇宙人である、メチャワル星人が目の前に現れた瞬間だった。ミヨの言う通り、メチャワル星人は自分の肉体から魂を取り出して男に取り憑いていた。そしていま、その姿を現したのだ。


 メチャワル星人は背丈が低い小柄な人型の姿をしていたが頭だけは大きく、まるで人間の子供の体に大人の頭を載せたような不気味なシルエットをしており、それは人類の多くが宇宙人と聞いて思い浮かべるグレイと言われる宇宙人の姿と合致していた。大きな二つの黒い目と灰色の肌が特徴的で、幽体らしく半透明に透けている。


「あれがメチャワル星人……」

 俺はその異形の姿を見つめる。

「まんま宇宙人だな」


 銃を突きつけた特殊部隊の人間が、抜け殻である黒尽くめの男に対して何やら叫び始めた。


 その様子を尻目に、メチャワル星人は特殊部隊の男の背後にまわると、その背中に飛び乗った。するとメチャワル星人はすーと男の中に入り込んでしまう。


「しまったまずい! 肉体を乗り換えやがった!」

 俺はまわりにいた特殊部隊の人間に向かって注意を促す。

「気をつけろ! あいつは体を乗っ取られているぞ!」


 だがしかし、透明人間である俺の言葉は彼らには届かない。


 俺は舌打ちする。「そうだった。こっちの声は聞こえないんだった」


 メチャワル星人に乗っ取られた特殊部隊の人間が、唐突に雄叫びをあげた。そして夜空に向かって銃を乱射し始める。


 まわりにいた特殊部隊の人々が英語で怒声を発した。どうやら取り憑かれた仲間に対して、冷静になれと説得しているようだ。


 取り憑かれた人間が、特殊部隊の一人に向かって銃を構えた。

 その瞬間、俺は走り出していた。


「あぶない!」

 そう叫びながら、銃を向けられた特殊部隊の人間を突き飛ばす。


 取り憑かれた人間が引き金を引いた。銃口から火が噴き、放たれた弾丸が俺に襲いかかる。

 身構える暇もなく弾丸は俺の胸に接触、そして後方の闇へと消えていった。


 俺は恐怖のあまり声を上げる事も出来ず、自分の胸に視線を落とす。そこには傷一つない胸があり、俺はどっと息を吐いた。


「……すり抜けた。助かったぜ。すり抜けることがわかっていたとしても、これは心臓に悪い。本当に死ぬかと思った」


 怒号とともに特殊部隊の人々が、取り憑かれた人間に対して銃を構える。取り憑かれた人間は銃を構えたまま下ろそうとしない。


「まずい! このままじゃあいつらの思惑通り同士討ちになってしまう!」

 どうする? どうすればいい? そんなのわかっているだろ。俺がなんとかするしかない。でもどうやって? 

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