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第二幕 第六場

 俺は咆哮にも似た叫び声をあげた。その声はマイクを通じて、爪を立てて黒板を引っ掻くような甲高い音となり部屋中に響き渡った。

 委員長とユウスケは耳を押さえながら、突然の大音響に驚いた顔をしている。


「シンゴ大丈夫か?」ユウスケが俺を心配する。


 俺は思わず涙ぐみ、鼻をすすってしまう。こんな時にやさしい言葉をかけないでくれ。よけいつらくなる。


「記憶を無理矢理こんなことにしてしまって、本当にすまないと思っている」ユウスケは話を続けた。「エミを責めないで欲しい。時間がなくてしかたなくやったことなんだ」


「……死にたい」俺は自分がそうつぶやくのを聞いた。


「そんなこと言わないでシンゴ君」

 委員長があわれみの視線を向けている。

「あなたには私がついているから」


「……委員長が?」


「そうよ。言ったじゃない。私はあなたの事が好きだって」


「嘘じゃなかったのか」


「この気持ち嘘じゃないわよ。私は本当にあなたの事が好きなの」


 俺はぐっと涙をこらえる。ふられて傷心の俺に告白するなんて卑怯だ。けど、心の傷が癒えるのを感じる。

「……ありがとう委員長」


「さあシンゴ君、これで心置きなく私の胸にさわれるわよね」委員長は微笑むと背筋を正し胸を張る。

「さわってちょうだい」


「えっ、ちょっと委員長……」


「時間がないの。早くさわって」委員長は催促する。


 その行動に俺は疑問を覚え、眉をひそめた。

「まさか委員長、俺を完璧な透明人間にするためにわざと好きだと言ったのか?」


「違うわ」委員長は首を横に振った。「あなたの事が好きだってことは本当よ。だからこそ好きな人に触れられたいの。それがたまたまこのタイミングで、透明人間の訓練と一致してしまっただけよ。まったくの偶然なんだからね」


「そんな偶然あってたまるか! もう騙されないぞ。誰がさわるもんか」


「どうしてよシンゴ君。あなたはケイちゃんにふられたのよ。それなのにまださわらないと駄々をこねる気なの」


「委員長はそこまでして俺を、完璧な透明人間にしたいのかよ」


「ええ、そうよ。それも早急に」


「なぜだ?」


「時間がないからよ」


「さっきから時間がない時間がないってどういうことだ?」


「このままだと、大変な事になるのよ」


「大変な事?」


「そう」委員長は神妙にうなずいた。「この世界が滅びるのよ」


「はあ?」ぶっ飛んだ答えに、俺は開いた口がふさがらなかった。


「この世界を救うために、あなたには救世主として究極の透明人間になってもらわなくちゃ困るのよ」


「救世主?」


「お願いシンゴ君。この世界を救ってちょうだい」


「シンゴ、僕からもお願いするよ」ユウスケが言った。「完璧な透明人間になって世界を救ってくれ」


 わけがわからん。なんなんだこの展開は? 世界が滅ぶ? そのために俺が透明人間として救世主になる? 

「話の意味が全然わからん」


「だったら私、脱ぎます」

 委員長はそう言って立ち上がると、制服を脱ぎだし始めた。


 突然の事に俺は焦りだす。「ちょっと待て委員長!」


「なに?」委員長はブレザーを床へと落とす。


「なぜ脱ぐ?」


「あなたのためよ」

 委員長はシャツのボタンを外し始める。

「そのためには裸にならなくちゃいけないわ」

 シャツの隙間から谷間が出現した。


「やめてよミヨ!」

 ユウスケが委員長を制止する。

「そこまで自分を犠牲にする必要はないよ」


 委員長の手が止まった。

「でもこうでもしないと、シンゴ君は完璧な透明人間になってくれないわ」


「それなら胸をさわってもらえばいいじゃないか」


「シンゴ君は私の胸をさわってくれないわ。だったら私が思春期男子の願望である、裸の女体として抱きつくしかないじゃないのよ。そうすれば嫌でも完璧な透明人間になれるはずよ」


「まっ、待ってくれ委員長!」俺は慌てふためく。「裸になんかならないでくれ」


「はずかしがらないでシンゴ君。あなただって裸じゃない」


「だからだよ。いろいろと問題がある」


「あっ、それもそうね」

 委員長は何かに気づいたような顔つきになると、得意げに眼鏡をくいっと持ち上げた。

「大丈夫安心して。眼鏡はとらないから。これとっちゃうとあなたの姿が見えなくなっちゃうもんね」そう言うと靴を脱ぎ始める。


「違う! 裸にならないでくれ!」


「だから裸にはならないわよ。眼鏡はちゃんと掛けているから」

 委員長は脱いだ靴を揃えると、靴下を脱ぎ始める。


「裸じゃねえかよ」


「地球のこの国では、裸って一糸まとわぬ姿の事をそう言うんでしょ。だったら裸じゃないわよ」

 委員長は右足の靴下を脱ぎ終え、左足の靴下へと手を移す。


「それは裸も同然だ。っていうか裸だ」


「何わけのわかんない事を言っているのよ、シンゴ君は」

 委員長は左足の靴下を脱ぎ終えると、両手をスカートの中に入れた。そして少し前屈みになるとゆっくりと両手を下ろし始め——。


「ストップ!」俺は大声で叫んだ。「さわる。さわるから脱がないでくれ」


 委員長の両手はスカートの中で止まっている。

「その言葉本当なの?」


「さわるから脱がないでくれ」


「わかったわ。でもここまで下ろしたんだし、これだけは外すわね」

 そう言って再び両手を下げ始める。


「ダメだ!」


 委員長の両手が、あわやスカートから飛び出してしまいそなう際どい位置で止まった。

「どうして?」


「もう脱がなくていいから」


「でもこのままだと危険だし外すわね」

 委員長は制止する俺の言葉に耳を貸さず、両手を下ろした。するとスカートから飛び出してきた両手には……二本のナイフが握られていた。しかもそれは全身真っ白で、まるでプラスチックのおもちゃのようだ。


「えっ?」予想外の出現物に俺はきょとんとなってしまう。「……なんですかそれは?」


 委員長は二本のナイフの刃を叩き合わせて高い音を立てる。

「トテモスケナイ製のナイフ」


「トテモスケナイ?」


 たしかそれはこの部屋の構造物質で、俺がこうして地面をすり抜けて地球の核へ落ちないのは、トテモスケナイで出来ているこの部屋のおかげだ。たしかによく見てみると、プラスチックのようなその素材はこの部屋の床や壁と同じように見える。

「委員長、どうしてそんなものを?」


「万が一のためよ。もしシンゴ君が透明人間の力を悪用しようとした時、それを抑止するための力が必要でしょ。これなら相手が究極の透明人間であろうがなかろうが、関係ないからね」


 二本のナイフを構えて俺を見下ろす委員長に、俺は怖じ気づいてしまう。まさかこの人本気なのか? 


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