表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/193

91

「何でだ?」

 どうして俺とPvP――つまり対人戦をしたいのか分からず、つい聞き返す。

「言ってしまえば、あなたに興味を持ったからです」

 興味を持ったって……。俺の何処にそんな気を引く要素があるんだ? と思っているとローズが口を開く。

「理由は様々ありますが。まず、上位パーティーで争っていたランキングに知らぬ間に現れ、最終的に二位にまで上り詰めた事です」

 ローズは少し固い声音でそんな事を言ってくるが、あれは単に緊急クエスト全部に参加出来たと言う運があったのと、サクラやアケビ、リトシー達がいたからあれだけポイントが取れただけだ。俺一人では無理だったと思う。一人なら何度死に戻りしていた事やら。

「他には、私も参加していた【十晶石の幻塊】クエストの事もあります。あのクエストでの鬼神の言葉が本当ならば幻人を一人で倒せる程の実力を持っている……」

 どうやらローズも緊急クエストに参加していたらしい。だが、ローズの姿を俺は見ていない。それは単に今のような顔まで隠したフルアーマー状態ではなく、素顔を晒していたから分からないと言うのも当然あると思う。

「直接戦ったので分かりますが、幻人は一対一ではほぼ倒せないように感じました。私は召喚獣の力を借りてなんとか倒す事が出来ましたが、あれを一人で倒すとなると並大抵の実力では為し得ません」

 ……あぁ、確かに幻人は厄介な相手だった。しかし、俺の体力を消費してあいつも動いていたのに気付けたから【圧殺パン】と【捌きの一太刀】の体力全消費スキルアーツで攻めまくって、嵌めて勝ったんだよな。あれには実力は関係なく、ただ単に相性と運がよかっただけだ。攻略法さえ分かれば、一方的な展開で勝つ事が出来る。

「いや、あれはただ相しょ」

「それに、あのリースが一目置き、気に掛けているプレイヤーである事」

 俺の言葉は、ローズの言葉で強制停止させられる。あの……悪い奴ではないが暑苦しいリースが一目置く? 気に掛けている?

「以前、リースが背後に竜巻を起こしながらあなたの下に馳せ参じたとの情報が掲示板に書かれていました」

 ……あの時か。スキルアーツの発動方法が分からず、ボイスチャットで訊こうとしたら直接教えに来てしまった時の。リースの竜巻に巻き込まれて宙を舞ったプレイヤーもいたなぁ、そう言えば。

「その他にも、街中でリース自らあなたに接触する場面が目撃されていました。それにイベント開始直前と終了後、リースが真っ先に声を掛けた人物があなただった。ソロプレイヤーでは確実に一、二を争う実力を持っている彼が気に掛けているプレイヤーともなれば、それ相応の実力を持っていると噂されています」

 いえ、それはただ単にリースの最初のフレンドになったのが俺で、その次が俺のパーティーメンバーだったからだと思う。多分初めてのフレンドだったから見掛ける度に声を掛けたくなってたんじゃないか? だって、それ以外に理由なんて思い浮かばない。そもそも接点はフレンドしかない。共に戦った、なんて当然ない。

「そして、ツバキもあなたの事を強いと言っています」

 ツバキまで俺を強いと言ってるのかよ。俺よりも先に進んでいるんだからお前の方が強いだろうに。

「これらはあくまで情報でしかなく、実際にあなたがどれくらい強いのか知りたいと思い、こうしてPvPを申し込もうとしている次第です」

 つまり、パーティーイベントで二位になった以外だと、ローズは俺がどれくらい強いかに興味を持った、と言う事か。そこまで強くないと思うんだけどな。

「と言う訳で、私とPvPをしていただけませんか? ルールはこちらではなくそちらで決めて構いませんので」

「まぁ、断る理由もないな。むしろ俺としても是非やって欲しい」

「ありがとうございます」

 俺が強いかどうか云々は置いておくが、俺としても上位プレイヤーとこうして直接戦うのはいい経験になるのでPvPをするのは願ったり叶ったりだ。戦うとなれば手は抜かず、全力で挑ませて貰う。

「でも、ルールはそっちが決めてくれ」

「よろしいのですか?」

「あぁ」

 正直言えば、俺はPvPでのルール設定が分からないので、早く始められるように何回もした事があるだろうローズに任せる事にした。こっちに不利なルール……にはしないと思うが、そうなっても全力で挑むだけだ。

「あと、場所はここか?」

「はい。丁度人気も無いので」

 この場に俺とローズ、そしてツバキとリーク以外に人はいない。周りに迷惑を掛けないので確かに丁度いいのだがどうしてだ? 少しくらいはプレイヤーがいてもいい筈なんだが。NPCはそろそろ眠りにつく時間なのでNPCがいないのには納得だが。

「その卵、置いとけよ」

「ん? ……あぁ、そうだな」

 ローズがウィンドウを弄ってルールを設定している傍らで俺はツバキの言葉で未だに卵を抱えたままだったことに気付き、リークの横に卵を置く。危うく卵を抱えたままPvPをする所だった。

「て言うか、その卵ってパートナーの卵だよな? リトシー解雇か?」

「冗談でもそんな事言うな」

「わ、悪い」

 ツバキの言葉でリークが信じられないような目を俺に向けて来たので、即座に睨みつける。リトシーを解雇するなんて有り得ない。ツバキが慌てて謝った横でリークはほっと安堵の息を漏らした。

「でも、それ何処で手に入れた? オウカ達はまだ北の森クリアしてないからそこでパートナーの卵を入手って訳でもないだろ?」

 ツバキは腕を組み、視線をリークの横に置いてある卵に向けたまま疑問をこちらにぶつけてくる。リークはまじまじと卵を見て、恐る恐る葉っぱで触っている。別に割れる事はないと思うから、そんなに慎重に触らなくてもいいと思うんだが。

 と言うか、待て。

「北の森クリアするとパートナーの卵手に入るのか?」

「召喚具との選択だけどな。因みに俺は召喚具にしといた。で、何処でその卵を手に入れたんだよ?」

 北の森クリアでも手に入るのか。召喚具のどちらかを選ぶ必要はあるみたいだが、それでも戦力増強に繋がるな。早めに北の森をクリアした方がいいかもしれないな。と一人で今後の計画を軽く練りながらツバキの質問に答える為に口を開く。

「これはイベント中に手に入れた。そして今孵化させてる最中だ。リトシーは拠点で寝てる」

「あぁ、そう言えばオウカ達は拠点手に入れたんだんだよな。だったら預り所にパートナー預けなくても孵化出来るか」

 うんうんと頷いた後、ツバキは僅かに眉根を寄せる。

「て言うか、イベントでパートナーの卵も手に入んのかよ? カエデは召喚具の素になるアイテム手に入れてたけど」

 ツバキの言っているのは恐らく【幻人の塊】だろうな。カエデも入手したのか。

「俺も召喚具の素を手に入れた」

「……どんだけ手に入れてんだよ。俺なんて、イベント中に目を引くアイテムなんて手に入れてねぇのに」

 とやや半眼になってやさぐれ始めたツバキのふくらはぎ辺りをリークが慰めるように葉っぱで軽く叩いている。

「……準備が出来ました」

 と、ローズがPvPのルール設定を終えたようで、俺の目の前にウィンドウが表示される。


『ローズからPvPを申し込まれました。

 ルール

 ・1vs1(パートナーモンスター、召喚獣の介入禁止)

 ・アイテム使用禁止

 ・制限時間:無限

 ・範囲制限:直径十メートル

 勝利条件

 ・先に相手の生命力を減らしたプレイヤーの勝利(状態異常によるダメージ及び相殺時のダメージを除く)

 ・範囲外に相手を押し出したプレイヤーの勝利

 プレイヤー:ローズとPvPをしますか?

 はい

 いいえ                      』


 姉貴とPvPをした時と違うルールもあるな。勝利条件も異なってるし。訊いてみるか。

「この、生命力を先に減らした方が勝利ってのは、ほんの少しでも減らしてもか?」

「はい。ほんの僅か、たったの1でも減らしたら勝利です」

「相殺時ってのは、攻撃を攻撃で防いだ時の事か?」

「はい。そして、相殺で互いの生命力が0になったら引き分けになります」

「で、指定された範囲外に出ると負け扱いになるのか?」

「はい。相手に押し出される以外にも自分から出ても敗北になります」

「範囲外に装備してる武器が出てもか?」

「いえ、プレイヤー本人が出ない限りは大丈夫です」

 ローズは俺の質問に親切に補足も加えながら答えてくれる。つまりは基本的に防御を考えない、ぶつかり合いって事か。

 ……これ、下手すると直ぐに勝負がつくかもしれない。ただ、可能性は俺の勝ちと俺の負けの両方あり、後者の方が高い。何せ、相手は機甲鎧魔法騎士団(アーマードマジカルナイツ)だ。パーティー名からして魔法を使うだろうから、勝利を得るにはそれよりも速く俺が一撃を放つ必要がある。

「あと、レベルも合せました」

「どうも」

 俺は『はい』をタップする。姉貴の時のPvPとは違い、直ぐに開始を告げるウィンドウは表示されず、南門前の空間に光るラインが敷かれ、綺麗な円を描き始める。どうやら、この円の中がPvPの範囲らしい。ローズが円の中へと入っていくので、俺も円の中へと入る。


『プレイヤー:ローズとPvPを開始します』


 すると、漸く開始を告げるウィンドウが表示される。


『Count 3』


 互いに対面になるように円の端まで移動し、俺は腰に佩いたフライパンだけを構える。


『Count 2』


 対するローズは武器を持っているように見えない。もしかしたら徒手空拳で戦うのかもしれないと思ったが、そうすると騎士団と意味があるか? と疑問が浮かんでしまう。


『Count 1』


 魔法主体で攻めて来るのか、はたまた何処かに武器を隠し持っているのか? まぁ、そうだとしても俺のやる事は変わらない。


『Count 0

 Start!  』


「土よ、我が言葉に」

「喰らえっ」

 魔法の詠唱を始めたのと同時に、俺は専用スキルアーツ【圧殺パン】を発動させる。

 大きく後ろに振り被り、勢いをつけて跳び上がってフライパンを全力で振り下ろす。そしてフライパンはPvPの範囲と同じくらいに巨大化し、ローズへと襲い掛かる。

「より形を成し、大地……え?」

 ローズは呆けた声を出して、そのままフライパンに潰された。その感覚が俺の手を伝ってくる。

 PvP限定で視界の下に表示されるローズの生命力も減ったのが確認出来る。


『You Win!』


 相殺はされなかったようで、初PvP勝利となった。ただし、全力だったが少し空しさを覚える勝ち方だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ