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 アイテムに換えるにあたって、一つ重大な事を忘れていた。

「と言うか、どうやってポイントと換えるんだ?」

「さっきメッセージが届きましたよ?」

 俺の疑問にサクラが首を傾げながら答えてくれた。そんなの来てたか? と思いながらメニューを開きメッセージの所をチェックすると、確かに一通届いており、件名が『ポイント交換について』と書いてあった。

「あ、本当だ」

 どうやら、ここに移動するのと同時に着信したようで、目の前に表示されなかったみたいだ。

 メッセージを開いてみると、スキル一覧を操作するようなウィンドウが現れる。アイテムがずらりと並んでおり、それ一つに付きどれくらいのポイントが消費されるかと書いてある。

 横に表示されたメッセージには、該当するアイテムをタップし、次に個数を設定して決定すればポイントと交換されるようだ。交換されたアイテムはそのまま交換したプレイヤーのアイテム欄に収納される。

 俺は取り敢えず、どのくらいのポイントで手に入れられるのか確認をする。

 ウィンドウの一番上の方に書いてあるアイテムの生命薬、マナタブレット、食パン(本当にそう書いてある)なら1ポイント消費となっている。生命薬も普通に換えられるのか。しかし、普通に購入出来るものじゃないのにした方がいいだろうな。と言うか、この生命薬等の1ポイント軍団はどうしても余ってしまったポイントを無理矢理に消費する為の救済措置のような気がする。

 下の方に行けば生命薬の上位アイテムである生命上薬やミドルマナタブレット、サンドイッチ等の回復アイテムもある。状態異常あら回復する為のアイテムも羅列されており、こちらは跳ね上がって25ポイントからとなっている。

 更には各種武器や防具、服などの装備品にアクセサリ、果てはパートナーの能力を向上させる固有の装備品、召喚獣の能力の一部を引き上げるブースターも交換出来るようになっている。今の所リトシーとフレニア、キマイラに装備はないので、この機会に交換してもいいかもしれない。

 更に下に行けば拠点の改装専用となる工房セットや調合室セット、厨房セット等が各1000ポイントでの交換が可能だった。

 最後の方は空き瓶やツルハシ、砥石等、戦闘とは関係ないアイテムで埋まっている。消費ポイントはまちまちで1から200となっている。

 結構な種類があるな。と言うか、皆は何が欲しいんだ?

「サクラとアケビは何がいいんだ?」

 俺は二人に訊いてみる。

「そうですね……」

「私の事は気にしないで。二人だけで選んで」

 サクラは顎に手を当て、俺が出したウィンドウを見て悩んでいるが、アケビは軽く首を振って辞退してくる。

「何でだ?」

「私は拠点が手に入っただけで充分だから。それに、パーティーイベントの大部分は私の我儘だったんだから、これ以上欲しちゃったら二人に悪いし」

 そう言ってアケビはソファに座り直し、軽く足を組む。

「気にしなくていいですよ。僕達仲間じゃないですか」

「と言うか、アケビがいなかったらここまでポイント取れたとも思えないしな。だからアケビも権利は当然ある」

「でも……気にしないで」

 アケビはまた首を振る。俺は少し眉根を寄せて真っ直ぐとアケビの目を見続けるが、どうあっても意見は変えないと言う強い意思が伝わってくる。

「……分かった。サクラ、ちょっと来い」

「はい」

 俺はサクラを連れて部屋の端へと移動し、その間にリトシーとフレニアをアケビの方へと向かわせる。少しでもアケビの意識を俺達から背ける為の囮になってくれ。二匹は目配せで了承し、アケビの方へと向かう。

 で、端の方でしゃがみ込み、小声でサクラに提案する。

「アケビは何か絶対に選びそうにないから、俺達二人でアケビが欲しそうなの決めちまおう」

「そうですね。アケビさんだって頑張ったんですから。何も貰わないってのはこちらの心が痛みます」

 サクラの方もアケビが何も手に入れないのは駄目だと思っているので、快く了承してくれる。さぁ、そうなるとアケビに何をあげるかだが。

「で、アケビは何欲しそうなんだ?」

「多分ですけど、工房とかが欲しいんじゃないかと。この拠点、今の所この居間以外には厨房があるだけで、他の部屋は空っぽなんです」

「色々とカスタマイズされてんじゃなかったか?」

「それは外観と周りの空間の事を指してるんじゃないですか? ほら、普通だとこのような場所に拠点なんて作れませんし」

「成程……」

「で、どうしましょう?」

 今のポイントでは拠点の改装セットが一つしか換える事が出来ない。なので、選ぶのも慎重になるのだが……。

「少なくとも、調合室セットか工房セットのどっちかでいいんじゃないか? 裁縫は別に今でも出来る訳だし、厨房は既にある」

「ですね」

「で、どっちを選ぶかだが、ここはジャンケンで決めようと思う。俺が勝ったら工房セット。サクラが勝ったら調合室セットでどうだ?」

「分かりました」

「じゃあ、行くぞ」

「最初はグー」

「ジャンケンポン」

 結果、俺がグーでサクラがチョキだった。と言う事で、工房セットをまずポイント交換する事に決定。

「よし、じゃあアケビには工房セットでいいとして、サクラはどうするんだ? 俺は正直リトシーの装備ぐらいしか欲しいのないんだが」

「僕も……何時も頑張ってくれてるフレニアに何かあげたいなと思ってまして、自分ではまだ作り方も分からないので装備を、と」

 どうやら、サクラも俺と同様にパートナーの装備を交換しようと思ってたみたいだ。なら、尚更二匹をアケビの方に向かわせて正解だったな。少しくらいはドッキリにしたいし。

「じゃあ、その方向で行くとして。そうするとキマイラの分のブースターも必要にならないか?」

「そうですね。キマイラもイベントでは一杯頑張ってましたし」

 と言う事で、自分達の事はそっちのけで工房セット、リトシー、フレニアの装備、キマイラのブースターをポイントで交換する。

 リトシーの装備は【霊樹の葉飾り】、フレニアのは【巨大魚の鱗】、キマイラには【召喚ブースター・敏捷(小)】を選んだ。リトシーのは耐久と魔法耐久が上がり、フレニアのは筋力と精神力が上がる装備で、キマイラのは文字通り敏捷が上がるブースターだ。

 装備とブースターがそれぞれ150で、ここまでで消費したのは1450ポイントだ。残りは80か。

「……そう言えば、工房セットに鎚とかついてんのか?」

「分かりません」

 もしついてなければ、金を貯めてそれらを買い揃える必要がある。そうなると二度手間だからな、この際だしポイントで交換出来る物は交換してしまった方がいいだろうな。

「一応、交換しとくか。サクラも使うだろうし、それでいいか?」

「あ、はい」

 工房で使いそうな物を交換して、残りは10ポイント。

「後はサクラの好きなように使ってくれ。たったの10ポイントしか残ってないが」

「あの、オウカさんは?」

「言ったろ、リトシーの装備以外に欲しいのは無いって」

 自分の装備は充分に揃っているし、イベント中に貴重なアイテムも手に入ったので、正直俺自身には何もいらない。

「……そう、ですか。なら、使わせて貰いますね」

「あぁ」

 サクラはウィンドウを操作して、アクセサリ【妖精の首飾り】と交換する。

 これにてポイント交換は終了し、手に入れたアイテムは全て俺のアイテム欄にある。そしてサクラにメッセージで【巨大魚の鱗】と【妖精の首飾り】を予め送っておき、キマイラのブースターを添付したアケビ宛てのメッセージを一つ作成しておく。

「さて、あっちにいる奴等を驚かせてやるか」

「そうしましょう」

 俺とサクラは立ち上がってソファでじゃれ合っている一人と二匹の方へと歩いて行く。

「終わったぞ」

「そう」

 アケビはそれだけ言うが、俺は直ぐにメッセージをアケビに送り付ける。

「ん?」

 メッセージの受信ウィンドウが表示され、アケビは操作し、俺の方へと目を向ける。

「オウカ君……これ」

「それはキマイラの分だ。お前はよくても、今回頑張ったキマイラに何もなしじゃ可哀想だろ?」

「……そうだった。ありがとう」

 失念していたとばかりに顔を顰めた後、頭を下げて礼を言うアケビ。そんなアケビにサクラが一歩近づいて尋ねる。

「アケビさん、工房作るとしたら何処のお部屋にしますか?」

「……え?」

 直ぐに顔を上げて呆けるアケビに今度は俺が聞き返す。

「だから、何処にするんだ?」

「あそこの、部屋」

 アケビが指差した方の扉を開け、俺だけ中に入って工房セットを使用する。すると、中に炉や作業台等が瞬時に置かれて何もない空間が工房へと生まれ変わった。そして別のポイントで手に入れた鎚等を取り敢えず置いておく。

「と言う訳で、工房だ」

「……何で?」

「折角の拠点手に入れても、生産する場所が無ければ意味ないだろ?」

「でも」

「いいんだよ。気にすんな」

 俺は軽く手を払って、工房の扉を閉めて居間に戻る。

「お前だって頑張ってたんだからな」

「そうですよ、アケビさん。ですから受け取って下さい」

 俺とサクラが二人でそう言うと、やや俯いたアケビはゆっくりと顔を上げて俺達を見る。

「……ありがとう」

 頬を少しだけ染め小さい声で礼を述べてくる。これでアケビに対してのサプライズは終わりで次はリトシーだな。サクラはフレニアの方へと向かって行くので、俺もリトシーの方へと向かう。

「で、次はリトシー」

「しー?」

「ほら、これやる」

 俺はリトシーに【霊樹の葉飾り】を装備する。リトシーの茎の部分に葉っぱで出来た輪がはめ込まれる。

「しー?」

 リトシーは不思議そうに上の方を見る。そう言えば、リトシーの意思とか完全に度外視したものだったな。今更ながら、嫌だったらどうしよう。

「世話にもなったし、迷惑もかけてたからな。その礼だ。……嫌だったか?」

「しーっ! しー♪」

 リトシーは勢いよく横に体を振った後、にっこりと笑って何度も跳び跳ねる。気に入ってくれたようでよかった。

「フレニアにはこれ。どうかな? 気に入ってくれた?」

「れにー♪」

 フレニアの腹の左右に一枚ずつ大きな水色の鱗が装備され、サクラの不安そうな問い掛けにフレニアは喜色満面に顔をサクラに擦り付けていく。フレニアも気に入ってくれたようだ。

「さて、これで今日の行事は終わりか?」

 軽く伸びをして現在の時刻を確認する。午後五時四十分か。あと十五分で強制ログアウトになるな。

「そうだね。今日は……って言い方変だけど、もう解散する? 皆疲れてるだろうし」

「そうですね……ふぁぅ」

 アケビが【召喚ブースター・敏捷(小)】を装備しながら尋ね、サクラが欠伸をする。

「そうするか」

 こうして解散する運びとなり、ログイン時にこの拠点を開始場所に設定してから各々ログアウトしていく。

「……ふぅ」

 久方振りの我が家のベッドの感触に懐かしさを覚えながらも、DGを外して直ぐに夕飯を作りに取り掛かる為に立ち上がる。冷蔵庫に何があったか? ゲームで三日も過ごしていたのでうろ覚えになってしまっている。確か……豚小間肉とかはあったから、それを……。


『メッセージを受信しました』


 と、考えていると手にしたままのDGに着信が入った。誰からだ? と思いながら受信箱を開く。


『送信者:サクラ

  件名:お疲れ様でした』


『どうもお疲れ様でした。

 今日はゆっくり休んで下さい。オウカさんは僕やアケビさんよりも疲れていると思いますので。

 ログアウトして直ぐにメッセージを送ったのはオウカさんに渡したい物があったからです。

 今日ポイントを交換して手に入れた【妖精の首飾り】です。

 もしオウカさんに出逢わなければ僕は多分一人でこそこそして、ろくにゲームを進められずにいたと思います。

 下手したら、諦めていたかもしれません。

 オウカさんに出逢えて、そしてアケビさんとも出逢えて、僕は諦めずに、色々とありましたが楽しむ事が出来ました。

 本当に、ありがとうございます。

 今更ですが、これはそのお礼です。どうか受け取って下さい。』


 添付の所には確かに【妖精の首飾り】がある。効果は確か、装備してるプレイヤーの運を1上げるだった筈。

 礼、ね。だったら俺も用意しないといけない。サクラには魔法で支援して貰ったり装備を作って貰ったりして世話になっているのでな。だとしたら、何がいいか?

「……取り敢えず、夕飯作るか」

 俺はDGをベッドの上に置き、夕飯に何を作るか、そしてサクラに何を渡すか考えながら部屋を出て行く。



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