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 メニューから開いたマップには【妖精の十晶石】が出現させていたマップと同じように計十ヶ所光るマーカーが表示されている。

 プレイヤーはその場所へと向かっているが、【腐骨蛇の復活】の時とは違い、プレイヤーは自分達以外マップに表示されないので誰が何処の【十晶石の幻柱】を壊しに行ったのかが分からない。

 これで誰も行っていない場所が存在していれば危ない。制限時間が表示されているので、他のプレイヤーとの連携が必要になってくる。時間は神子の姿が消えたのと同時に『01:00:00』と表示され、一時間以内に十本全ての幻柱を壊さなくてはならない。

 幸いな事にそれに関しては神殿から出て直ぐにサモレンジャーの面々が促していたので、破壊しそこなうのはない。きちんとそれぞれで何処の幻柱を壊しに行くかを行ってから鳥に乗ってクルルの森へと降りて行く。時折何も言わずに突っ走って降りて行くプレイヤー達もいるが、一応全ての幻柱へと向かっているので構わないと思う。

 俺達のパーティーは南にある灰色のマーカーの方へと向かう。十ヶ所の中でそこを選んだのは単に【十晶石の幻塊】クエストで俺の力が無属性の魔力に変換されたから。何処かを選ぶ基準にそれだけの理由を用いてしまったがサクラもアケビもそこでいいと言ってくれたので【鳥のオカリナ】で鳥を呼び、下って行く。

 例の如く俺だけ大きな旋回で滑空したので時間が掛かってしまったが、それでも無属性の幻柱は壊されていない事が鳥に乗っている時に垣間見て分かっている。

 聳え立つ【十晶石の幻柱】は綺麗な円柱となっており、装飾と言えるのは中央部にある灰色に光っている珠しかない。。恐らく、【縮小化】の呪いを受けていない俺くらいの高さはあるだろう透明のその内部にはセイリー族が五十人程閉じ込められている。段々になるように浮いており誰もが眼を閉じ、眠っているように身動きしない。胸が上下しているので生きている事は確実で安心出来るが、フィクション作品で見るカプセルに入れられた実験動物を見ているようであまりいい感じはしない。

「悪い、待たせた」

 リトシーと一緒に鳥から降りて、先にクルルの森に降り立っているサクラ達の方へと駆け寄る。

「いえ」

「気にしない。それよりも、あれってどう壊す?」

 アケビが幻柱へと顔を向ける。既に先に降り立ったプレイヤー達が幻柱に向けて矢を放ったり魔法を発動して物理的に壊そうとしている。一応壊れても中に封じ込められているセイリー族に被弾しない位置を狙っているが、その心配はいらないだろう。

「……全くの無傷なんですよね」

 サクラがぽつりと呟く。そう、結構な数の矢や魔法を喰らっているのに傷一つ付いていない。矢は突き刺さりもせずに弾かれ、魔法は当たった瞬間に掻き消されている。なので今でも綺麗なままだ。

「普通に攻撃しただけじゃ壊れない、か。まぁ、そう言う風に作る訳もないか」

 イベント的にも。そして鬼神の禁術発動の手間を考えても。おいそれと簡単に壊れるようではここまで目立つように設置もしない筈だし。

 あと、幻柱の明らかに怪しいと思える灰色に光る珠に攻撃しても柱部分に攻撃したのと同じように弾かれたり掻き消されている。

 どうすれば壊せるのかと言うヒントがないとなると、手探りで調べるしかないか。神子も壊してくれとしか言ってなかったが、出来れば壊す方法も言って欲しかったな。このままだと八方塞になる。

 この幻柱に対して分かっているのは十本それぞれが違う属性の魔力を【十晶石の幻塊】から引いているという事くらいか。そこに何か破壊するヒントが隠されているようにも思えるのだが……。俺と同じように考えているプレイヤーも当然いるだろうが、この現状を見ると考えが浮かんでいないようだ。

 何かないか何かないかと考えている間にも矢や魔法が次々と放たれていく。俺の横でサクラやきまいらも魔法を放っており、何時の間にか幻柱付近まで飛んで行ったフレニアも火を吹いているがやはり無傷のまま。

 いっその事、【十晶石の幻塊】から無属性の魔力を引いているラインとやらを断ってしまえば状況が変わるかもしれないと思うのだが、そのラインが地面の下を通っているのか、はたまた空気中を伝っているのか分からない。そして、【十晶石の幻塊】が現在何処に鎮座しているのか不明なので何処から魔力が流れ込んでいるのかさえも分からない。

 …………この時点でほぼ詰みじゃないか? 運営は本当にこのイベントを、と言うか最終クエストをクリアさせようとしているのか?

 いくら心の中で愚痴っていたとしても、状況変化が訪れる訳もなく、刻一刻と時間が過ぎていくだけだ。本当、どうすればいいんだよ?

 今では遠距離攻撃だけじゃなくて柱に剣やら槍やら大斧やらで大胆に攻撃をしていくプレイヤーも続出している。ただし、遠距離攻撃と同様に弾かれるだけで傷一つ負わせる事が出来ず、面白いくらいに弾かれて仰け反っている。

 …………俺も、攻撃してみるか。ただ突っ立って考えるよりは何かしらのアクションを起こした方がいいだろう。突如閃くかもしれないし。

 他のプレイヤーの間を縫って幻柱へと近付き、取り敢えずスキルアーツ【蹴流星】を発動して一発お見舞いする。今の所魔法と武器の攻撃を弾いているので、格闘系の攻撃ならば万が一に、と考えたからだ。

 俺は大きく跳び上がって、後転、そのまま前方斜め下に向かって跳び蹴りをかましていく。突き出した足が幻柱にぶち当たり、膝を曲げて反動をつけ再び後転して地面に着地する。

 着地と同時に蹴りの当たった部分を確認する。僅かに痕が付いているだけで傷なんて…………ちょっと待て。

 今まで傷どころか痕さえもつかなかったのに、蹴りだとつくのか? と言うか、俺の攻撃は弾かれず仰け反る事もなかったな。

 もう一度、蹴りをお見舞いする。固い感触が伝ってくるが、武器で直接攻撃を行っているプレイヤーと違ってやはり弾かれない。それどころか、この攻撃でも痕が残る。

 俺の蹴りが弾かれないのを見たプレイヤーが俺と同様に【蹴流星】を放ったり、殴ったりするが、何故か弾かれ、スキルアーツである【蹴流星】さえもモーションが中断されて強制的に仰け反らされていた。つまり、格闘が有効打と言う訳ではない。

 念の為に、俺は蹴り以外にもフライパンで叩いたり包丁で切り付けたりしてみる。すると、こちらも跳ね返らずにそのまま傷をつけていくではないか。どう言う事だ?

「ちょっと君」

 と、俺と同じように【蹴流星】を放って弾かれた男性プレイヤーが俺に近付いてくる。そいつは猿のようなパートナーを連れている。

「どうして君の攻撃だけ弾かれないんだ?」

「いや、俺にも分からないんだが」

 そのプレイヤーの質問に答えられずに首を傾げるしかなかった。

 俺以外のプレイヤーやパートナーの攻撃はことごとく弾かれているというのに……違いは何だ? もしくは、俺は知らぬ間に何かしていたか?

「…………もしかして」

 あの時、【十晶石の幻塊】クエストの時に戦った幻人の属性――俺の力が変換された魔力の属性が関係してる?

「もしかして、何だ?」

「いや、もしかしたらなんだが」

 俺は訪ねてきたプレイヤーに俺が無属性の幻人と戦い、力が無属性の魔力として【十晶石の幻塊】へと吸収された事、そしてそらが関係しているかもしれない事を話す。そのプレイヤーも【十晶石の幻塊】クエストに参加しており、風属性の幻人と戦い、パートナーと力を合わせて辛くも勝利したらしい。

「……成程な。可能性はなくはない、か。なら、確認してみるか。おーい! 皆ちょっといいか⁉」

 と、男性プレイヤーは声を張り上げてこの場にいるプレイヤー全員に話し掛ける。男性プレイヤーの声にこの場にいる全員が攻撃の手を止める。

「【十晶石の幻塊】のクエストに参加した人がいるなら教えて欲しいんだが、どんな属性の幻人と戦った⁉ 攻撃を弾かれなかったこの子は無属性の幻人と戦ったらしい! もしかしたら、戦った幻人と同じ属性の幻柱に攻撃しても弾かれる事が無いかもしれない! あと、魔法も幻柱と同じ属性じゃないと効き目がない可能性がある!」

 そう言えば、無属性の魔法は放たれてなかったな。放たれていたのは水、炎、光、そして雷の属性だけだったな。

 男性プレイヤーの言葉に答えるように、緊急クエストに参加したプレイヤーから自分が戦った幻人の属性を言っていく。その結果、無属性の幻人と戦ったのは俺だけだったと言うのが分かった。

「これから魔法を使える人! そして幻人と戦った人はその属性と同じ幻柱へと言って一度攻撃してきて貰ってもいいか⁉ もし攻撃が弾かれなかったらそのままそこで攻撃を続行……ちょっと待ってくれ!」

 と、声を張り上げていたプレイヤーにボイスチャットが入る。それと同時に他にも何人かのプレイヤーにボイスチャットが届く。

 俺の方にも、サモレッドからボイスチャットが届いたので、通話を開始する。

「どうした?」

『オウカくん、幻柱の破壊についてだが、先程検証して分かった事があるから伝えるよ。今、ボイチャで拡散してくれるように近くにいるプレイヤーに頼んでるから、オウカくんも訊き終わったらフレンドに伝えてくれ』

「分かった」

『どうやら幻柱は【十晶石の幻塊】から流れ込んでいる魔力と同じ属性の付加武器、魔法で攻撃すればダメージを与えられるみたいだ。そして、【十晶石の幻塊】のクエストに参加したプレイヤーだと、そこで戦った幻人というエネミーと同じ属性の幻柱には通常攻撃でもダメージを与えられるようなんだ。それ以外だと弾かれてノーダメージ』

「やっぱり、か」

『やっぱりか、と言う事はオウカくんの方も大体の見当はついてたみたいだね』

「もしかしたら、と言った感じだったけどな。俺がいる場所――無属性の幻柱に攻撃して弾かれなかったのは俺だけだったからな」

『つまり、オウカくんは無属性の幻人と戦った、と言う事かい?』

「あぁ」

『そうか。ならオウカくんは情報をフレンドに伝えたらその場から移動せずにどんどん攻撃してダメージを与えてくれるかな?』

「分かった」

『じゃあ、頼んだよ』

 向こうから通話が切れる。俺とサモレッドの通話が切れるのとほぼ同時に他のプレイヤー達のボイスチャットも次々と終了していく。

「……今ボイチャで訊いた通りだ! 予想通り、幻柱はそれと同じ属性の付加武器もしくは魔法じゃないとダメージを与えられない!」

 声を張り上げていたプレイヤーがまた声を出して全員に伝え始める。

『付加武器を持っている、もしくは攻撃魔法が使える、幻人と戦ったプレイヤーはそれに対応した属性の幻柱へと向かって欲しい! そして、フレンドにもさっきの情報を伝えてくれ!』

 男性プレイヤーは皆にそう伝え終えるとメニューを呼び出して【鳥のオカリナ】を使用し、鳥を呼びながらボイスチャットでフレンドに連絡をしながら風属性の幻柱の場所へと向かって行った。

 他のプレイヤーも次々とこの場を離れていく。

「オウカさんっ」

 サクラとアケビ、リトシー達がこっちに駆け寄ってくる。

「今訊いた通りだ。サクラは水属性の、きまいらは闇属性、フレニアは炎属性の幻柱へと行った方がいいな」

 俺はパーティーメンバーにそう告げる。

「なら、私はサクラちゃんについてく。一人にはさせたくない」

「頼む。俺は今の所唯一この幻柱にダメージを与えられるからここに残る」

 サクラは人見知りの気が激しいから、一人で行ったとしたら何も出来ないかもしれない。なのでアケビの提案はサクラの為にもなるし、俺からも頼みたかった。

「……リトシーも、サクラとアケビについてってくれないか?」

 リトシーは木属性の魔法を使うが補助魔法なのでダメージを与えられない。少しでもサクラの人見知りを緩和出来るようにリトシーにも一緒にいて貰うように頼む。

「しー」

 リトシーは嫌な顔一つせずに了承してくれる。

「ありがとう。フレニアときまいらは独りになるけど大丈夫か?」

「れにー」

「ぐるらぅ」

 二匹も首肯し、心配ないと訴えてくる。

「じゃあ、早速行くね」

「オウカさん。また後で」

 アケビとサクラが鳥を呼び、パートナーと召喚獣を乗せて飛び立っていく。

 この場にただ一人残された俺はカエデにボイスチャットで先程サモレッドから得た情報を伝える。

『分かった。じゃあ私は風属性の幻柱の方に行く。使えないツバキは……どうしよう?』

『おい! 人を使えないって言うなよ!』

 向こうでツバキが吠えている。

『だって、魔法使えないしクエストに参加してなかったから幻柱にダメージ与えられないじゃない』

『それは、そうだけどよ』

『……取り敢えず、ツバキはリークと一緒に木属性の方に行って』

『最初からそのつもりだよ。行くぞリーク!』

『と言う訳で、じゃあ、また後でねオウカ』

 カエデとのボイスチャットも終了し、俺は改めて幻柱に目を向ける。

「さて、誰か来るまで一人でダメージ与えていくか」

 俺はフライパンと包丁、そして蹴りで出来るだけ多く幻柱にダメージを与えていく。



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