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『百年前。【妖精の十晶石】の力が突如として消え去った。

 その隙を突いて、スケアリーアングールが大軍を率いてセイリー族の集落へと襲撃を仕掛けてきた。

 セイリー族は【縮小化】の呪いを受けていないモンスターに苦戦しながらも各個撃破で、なるべく一対一ではなく多対一で挑んで行った。

 それでも、セイリー族の犠牲は多かった。

 前線で戦う者の生還率は低く、生還したとしても負傷が絶えなかった。

 それでもセイリー族が集落を守る為、一族を守る為に戦い抜いたのにはある二人がいたからだ。

 一人は、常に最前線に立ち、厄介と思われるモンスターを一手に引きつけて仲間の負担を軽減させた。その者は魔法を全く使わず――いや、使えなかった。生まれながらにして魔力を持たずに生まれ、魔法が使えずに誰からも馬鹿にされて生きてきたが、武術に少し長けていたのでそれを徹底的に伸ばす努力をした。それでも魔法を併用する一族には勝てずに馬鹿にされ続けた。

 その者を唯一馬鹿にしなかった者――もう一人は逆に類い稀な魔力を生まれながらにして所持しており、神子と呼ばれた。魔力量は他の者と遜色ないが、質と効率性において追従を許さず、他の者の千分の一消費だけで魔法を繰り出す事が出来た。その代わりに、神子が使える魔法は補助系統のみで、攻撃魔法は一切扱う事が出来なかった。

 神子は常に後方で一族に補助魔法を掛け続けていた。その恩恵を最も受けていたのは、魔力を持たない者。その者は今まで肉体のみで戦い続けていたが故に地力が他の者よりも出来上がっており、そこに魔法の力が加わって爆発的に身体能力が飛躍した。

 神子の補助魔法と、そして魔力を持たない者の活躍により、セイリー族は戦意を失わず、二人にだけ頼ってはいけないと互いに鼓舞しながら戦い続けた。

 戦いの終わり。つまりはスケアリーアングールが倒された際、神子は命を絶った。それは自らの意思でもあり、そして致命傷を負ってしまったが故にだ。

 神子は戦いの最中に、スケアリーアングールの尻尾で薙ぎ払われた。最後方にいたが、あまりの巨体から繰り出される一撃には距離なぞ関係なく、セイリー族とモンスター、双方多くを纏めて薙ぎ払った一撃は神子に直撃した。

 自分にも補助魔法を掛けており御蔭で即死は免れたが、それでも息は絶え絶え、命が尽きるのも時間の問題だった。

 神子は、このまま死んでしまうのならと、自分の命を犠牲にして最後の魔法を魔力を持たない者へと向けて発動させる。

 その魔法は一時的に対象者の身体能力の限界を取っ払い、普通では辿り着けない境地へと導く十属性全ての魔力を籠め、自身の命の輝きを振り絞った魔法。魔法は十色の光となり、魔力を持たぬ者の中へと溶けて消えて行った。

 魔法を受けたその者は右の眼から透明な、左の眼から真っ赤な涙を流し頬を濡らしながらスケアリーアングールへと向かって行った。

 あまりにも容赦のない攻撃、そして埃を薙ぎ払うかのように配下のモンスター達を屠って行った様から、魔力を持たぬ者は鬼神と呼ばれるようになった。

 鬼神の活躍と、神子の犠牲によりスケアリーアングールは倒された。

 その後に、役目を終えたとばかりに鬼神の体から十色の光が漏れ出し、力を失くした【妖精の十晶石】へと吸い込まれて行った。また、どうしてだか光にならずに残ったスケアリーアングールの亡骸をその場に弔った。

 その光から力を貰い受けた【妖精の十晶石】は時間をかけて力を取り戻し、セイリー族を守る結界を敷き直した。

 こうして、スケアリーアングールの襲撃は幕を閉じた。

 どうして【妖精の十晶石】は力を失ったのか?

 どうしてスケアリーアングールは襲撃して来たのか?

 前者については今でも分かっておらず謎のままだが、後者に至ってはスケアリーアングールに狙いがあったからだと分かっている。

 スケアリーアングールは【妖精の十晶石】を狙っていた。正確には【妖精の十晶石】の書き換えを狙っていた。【縮小化】を受けない者をセイリー族ではなく、自分にしようと。

 書き換えさえ行ってしまえば、クルルの森の中――【妖精の十晶石】の力が及ぶ範囲で絶対的な存在として君臨する事が出来る。自分以外に【縮小化】の呪いを与え、蹂躙し支配する。それをスケアリーアングールは目指していた。

 ただ、スケアリーアングールはどうやって【妖精の十晶石】の書き換えを行おうとしたのかは不明だ。セイリー族でさえ当時は一部の者しか知らず、また文献では方法も記されておらず、口頭でも伝えられていなかった。

 結局、スケアリーアングールは書き換えの方法を語らずにこの世を去ったので分からず仕舞いだ。

 また、戦いが終わってから直ぐに一番の功労者――鬼神は誰に何を告げる事も無く集落を去り、姿を消した。





 だってよ。

 追伸。

 夜中だからボイスチャットじゃなくてメッセージにした。』


「…………長く書き過ぎたか? もう少しコンパクトに纏めたいんだが」

 俺は自分で入力したメッセージを見ながら呟く。

 今俺はソファに横になり、天井を向きながらメニューを開いている状態だ。俺の頭の横でリトシーがすやすやと眠っている。

 床には布団が三セット敷かれており、それぞれにフチ、サクラ、アケビの順に並んで横になり、サクラの横にはフレニアが、アケビの布団の上にきまいらが体を丸くして眠っている。

 時刻的にもうそろそろ午前零時になるので、俺も寝たいのだが流石にこの報告をツバキにしてからだと思って眠気を抑え込んでメッセージを入力した。

 俺の持つ【十晶石の幻片】に力を蓄える為に神殿へと行った際に、フチから訊いた事を簡略化したものだ。昨日に訊いた百年前にスケアリーアングールが攻めてきた理由を漸く大司祭が語ってくれたらしく、フチはあまり感情を籠めずに俺達に説明した。

 その場にツバキは当然おらず、一番知りたがっていた本人が知らないのは駄目だろうと思ってボイスチャットしようとしたら何故か繋がらず。恐らく戦闘中だろうと思い時間を空けてもう一度しようと思ってなぁなぁにしてしまい、現在に至る。

 流石にキーボード入力でもこれだけ入力するのは苦労する。もう少し要領よく纏める事が出来なかったか? まぁ、ここまで書いて削るのはもう面倒なのでこのまま送るとしよう。これでも削った方だし。

 最後の方の追伸部分に『あと、長く書き過ぎて悪い』と入力して送信した。

「……ふぁ~、寝るか」

 送信し終えて、漸く眠気を抑えなくて済むようになり、欠伸が出る。もうこの衝動のままに目を閉じて今日の疲れを癒す為に目を閉じて夢の世界へと旅立とう。

「おやすみ……」

 誰も彼も眠っているが、一応そう言ってからメニューを閉じて就寝状態に入る。


『あるパーティーの行動により【秘宝の異変】の進行度が一定値に達しました。

 これにより、【十晶石の幻片】を所持しているプレイヤーに緊急クエスト【十晶石の幻塊】が発生します。

 緊急クエストを受ける意思のあるプレイヤーはクエスト発生からゲーム内時間で30分が経過するまでに襲撃の跡地にお集まり下さい。』


 …………誰だよ、こんな夜中にクエストの進行度を上げた奴は?

 眠ろうとして突如瞼を透過する光に目を開けるとそこには緊急クエスト発生のクエストが表示されていた。しかも、【十晶石の幻片】を持つプレイヤーのみに適用されるようで、布団に包まって寝ているサクラとアケビの所にウィンドウが表示されていない。

 ……折角の緊急クエストだしなぁ。でも受けるのは俺一人だけか。リトシーは俺のパートナーだから一緒に行けそうだが完全に寝入っているから無理か。

 仕方ない。少しでもポイントを稼ぐ為にも行ってみるか。VRゲーム内のイベントなんだから少しくらいは寝不足と言う不摂生を働いても問題はない気がする……と信じて。

 眠気を少しでも覚ます為に軽く頬を叩いて抓り、誰も起こさないようにそっと体を起こしてソファから立ち上がり、忍び足で移動して外に出る。……別に置手紙しなくてもいいか。二人とも寝入っている事だし、恐らく夜が明ける前に緊急イベントは終わるだろ。


『着信:ツバキ』


 と、ツバキからボイスチャットが入った。反射的に俺は通話状態にする。

「何だ?」

『オウカ、お前って今連絡が来た緊急クエストに参加する?』

「する」

 単刀直入に本題から入ってきたツバキの言葉に俺は即答する。

『そうか』

「もしかして、ツバキもクエスト参加か?」

 だったら、一時的にパーティー擬きでも組んで行けばある程度は楽に進められる気がする。

『いや、おれは【十晶石の幻片】持ってないから参加出来ない』

 ツバキは予想外の事を口にした。

「持ってないのか?」

『あぁ。だけどカエデは持ってるから、カエデはクエストに参加する。だから、向こうでカエデにあったら何かと頼むって伝えたくてな』

 そうか、カエデの方が持っているのか。カエデの武器は長弓で、矢は消耗品。少しでも攻撃手段を持っていた方がいいとみたから、ツバキではなくカエデの方が持っているのだろうな。

「分かった」

『あと、メッセージありがとな。じゃあ、頑張れよ』

 そう告げると、ツバキからの通話が切れる。

「……さて、行くか」

 軽く腕を回しながら集落を走り、まずは発着地点へと向かう。

 また眠い中無理矢理起こしてしまうからな、明日太陽が昇ったらまたカリカリビーワスフレークを鳥にあげようと誓いながら。



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