表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/193

71

 カエデが射抜かずとも、もう一定間隔で落ち続けてくるようになったイワザルを俺達は相手している。

「そらっ」

 近付いてくるイワザルをツバキは刀で切り伏していく。

「流石に昨日のアンデッドよりも硬いな」

「そりゃ、こいつら生きてるからな」

 俺もフライパンでイワザルの脳天を叩く。緊急イベントの時と違って微妙な感触ではなく、固い感触が手を伝ってくる事に少し安心してしまう。

「正直、あれよりも相手しやすい。えいっ、えいっ」

 短剣でイワザルの眼を突いては下がり、突いては下がりを繰り返しているアケビが遠い目をしながら会話に参加してくる。

「おっ、アケビも昨日は前線にいたのか?」

「いた。ずっとヒットアンドウェイしてた」

「まぁ、その方が危険ないだろうなっと」

 飛び掛かってきたイワザルを最小限の動きで避けて、カウンターで刀を振るおうとするが、それよりも先にイワザルの後頭部に矢が突き刺さり、その場に落ちる。

「何か、命中率高くないか?」

 包丁でイワザルの胸部を突き刺しながらツバキに尋ねてみる。

 もうボボナの実に群がるイワザルを射抜いておらず、先程からこちらのフォローをしているカエデ。長弓故に連射性能はないが射程がある。が、その分相手の動きを予測して射なければ外れてしまう。それでもカエデは今の所百発百中でイワザルを射抜いている。

「あぁ、カエデはリアルで弓道やってるからな。その補正が生きてんだろ」

「成程な」

 弓道で鍛えられているのか。なら納得だ。ただ、だからと言って動く的を狙い打てるものか? 弓道って動かない的を射るものだろ? 動く的に関してはSTOで鍛えられたとかか? そこら辺は本人に訊いてみない事には分からないか。

 矢の援護以外にもリークによる【初級木魔法・攻撃】による木の槍、サクラの【初級水魔法・攻撃】によっても何体か倒している。

 その援護によってきまいら、チルアングールに化けているシェイプシフターはあまり背後を気にせずに狩りを行っている。きまいらは持ち前に爪と牙、そして【初級闇魔法・攻撃】によって蹴散らしていき、シェイプシフターは巻き付いて締め上げたり、毒牙によって状態異常を引き起こさせたりしている。

 フレニアはイワザルの攻撃が届かない上空から火を吹きつけている。ただ、イワザルはそこら辺に落ちている石等を持って投げる攻撃もしたり、見た目に寄らずの大ジャンプを繰り出したりするので完全な安全地帯と言う訳ではない。だが、後衛からの援護によりフレニアに向かって行くイワザルは無残にも撃墜されていく。

 また、俺達はスキルアーツを使用していない。スキルアーツで止めを刺せばスキルアーツボーナスにより多くポイントを手に入れる事が出来るのだが、大群を相手するとなると少しでも体力に余裕を持たせた方が不測の事態に陥っても対処がしやすいので我慢をしている。

 まぁ、俺の場合は【圧殺パン】で一網打尽にしてみるという手段があるのだが、開幕時に先にフレニア達が向かってしまった為、繰り出す事が出来なかった。今更引いてくれと言うのも手間なのでそのまま切り付けたり蹴ったり叩いたりしている次第だ。

「そう言や、何体くらい倒した? 俺は十七体なんだけどっと」

「俺は大体二十体くらいじゃないか?」

「私は十。えい」

 イワザルを屠りながらツバキが尋ねてきたので、俺とアケビはおもむろにそう答える。正直、いちいち倒した数を数えていないので大雑把に言っている。別に数えなくてもレザルトウィンドウで何体倒したかって表示されるからな。

「面倒だから前衛一人が十五体倒したと仮定して、シェイプシフターときまいらとフレニアを合わせて六十、後衛の援護で死んだのも合わせると……八十くらいか?」

「そんくらいなんじゃないか?」

 ツバキがおおよそで通算討伐数を口にしたので相槌を打っておく。もう八十くらいは倒したのか。って、ちょっと待て。もうそんなに倒したのか?

「いや、幾らなんでも多過ぎだろ。これ下手するとポイント荒稼ぎの場所だぞ?」

 イワザルは確か一体倒す毎にポイントが2手に入る。八十倒したとしても、もう160は俺達で手に入れている事になる。

 俺達以外にも当然【ボボナの実が食べたいです】を受託しているパーティーも存在している筈だ。これだけ手に入れられるのなら、ここで体力の続く限り延々と倒し続けてポイントを荒稼ぎすればランキング上位に入る事だって容易な気がする。

「でもなぁ、実際そんくらい倒してる気がするんだが……」

 ツバキは肩を竦めながらもイワザルを切り付けるという器用な事をする。

 疑問に思っても、結局のところはイワザルを倒していかなければいけないのでここはポイント稼ぎも込みで集中する事にする。ここでポイントを大量に手に入れればその後の三位を狙いやすくなるだろうからな。

 俺達は延々とイワザルを屠っていく。

「…………なぁ、もうどれくらい倒した?」

「五十は超えた気がする。その所為で包丁の耐久が無くなって折れた」

「私も。そろそろ短剣の耐久が危ないかも」

 流石にもうトータルで二百は軽く超えているだろう。減った俺達の体力は精神力を使い尽くしたサクラと矢を放ち尽くしたカエデによる回復アイテム投下により回復出来ているが絶対に可笑しいと言い切れる。昨日の緊急イベント並の数――いや、ボボナの実に群がっているイワザルも含めればそれ以上を相手をしている。

「…………あ」

 何時になったらあのボボナの実を手に入れる事が出来るのだろう、とそちらの方に目を向けたら嫌なものを見てしまった。

「おい」

「何だ?」

「何?」

 俺はアケビとツバキに上を見るようにジェスチャーを送り、近くにいたイワザルを倒す。その光が上へと昇って行く。

 本来なら、この光は空高くへと昇っていくのだが、今回ばかりはどうしてだか分からないがボボナの実に吸い寄せられるようにそちらに向かい、外皮に接触するとイワザルの形に戻った。

「…………通りで減らない訳だ」

「ふざけてる」

 二人共半眼でボボナの実に群がっているイワザルを睥睨する。何時からか分からないが……下手をすれば最初からか? ずっと減る事が無いイワザルを相手していた事になる。

 って、何でこんな事になってんだよ? これも運営の嫌がらせか? それとも、また【秘宝の異変】に連なる何かでもこの場にあるのだろうか?

「……取り敢えず、一時撤退するか? 倒しても倒してもきりがないからな」

「……そうするか」

 倒してもこちらがジリ貧になる事が目に見えたので、全員に聞こえるように撤退を告げてこの場を後にする。


『イワザルを二体倒した。

 ポイントを4手に入れた。

 イワザルが四体倒された。

 ポイントを8手に入れた。』


『Point 534』


 で、一定距離あの場から離れるとウィンドウが表示されるが、何か物凄くムカつく結果が表示される。俺達のパーティーが通算で倒したのがたったの六体と表されたのだ。その御蔭で、手に入ったポイントはたったの12。どうやら光になってもボボナの実に触れて復活したイワザルに関しては倒した数にカウントされないらしい。ふざけるのも大概にして欲しい。

「変だろ、これ」

 どうやらツバキの方の表示も俺達のと同じであまりにも少な過ぎるようだ。眉間に皺をよせ、片眉を上げている。

「……何これ?」

「これって、どうしてでしょうか?」

「分からない」

 女性陣もこの結果に疑問しか出ないようだ。リトシー達も釈然としないと言った面持ちだ。そりゃ、あれだけ倒して見返りが殆ど無いのだから、当然か。強いて見返りがあると言えば、スキル経験値が溜まった事くらいだろう。

「……取り敢えず、カエデは直ぐにシェイプシフターを戻せ」

「分かってるよ」

 ツバキの言葉に、カエデは何時の間にか球体に戻っていたシェイプシフターを元いた場所へと還す。

「……で、オウカ。これってどういう事だ?」

「俺だって訊きたいんだが」

 もう疑問しか浮かんでこないぞ。もうバグを疑うレベルだ。

「……まぁ、考えられるのは単なる運営の嫌がらせか、【秘宝の異変】に関係する何かか、単なるバグのどれか何だが」

「いや、運営の嫌がらせってのはねぇだろ」

 俺の言葉にツバキが呆れ顔で手を横に振ってくる。

「可能性高いのはバグだけど、運営に訊いてみるか?」

「その方がいいだろうな」

 ツバキは直ぐに運営に向けてメッセージを飛ばす。すると、直ぐに返信がきた。

 返信を見ると、ツバキが渋い顔をする。

「何て書いてあるの?」

 カエデが横から覗き見ると、ツバキ同様に渋い顔をする。二人の顔から、バグの可能性はない事が窺えてしまう。

「何て書いてあるんだ?」

「……その件に関しましては回答を控えさせていただきます、だとよ」

 念の為に訊いてみると、メッセージをこちらに向けながらツバキが感情を込めずに淡々と答える。

 回答を控える、と言う事はやはりイベントの根幹に繋がるような事象なのか? だとすると到底無視出来るようなものではないが、今までの戦闘で体力、精神力を削がれてしまい、もう一度特攻を仕掛ける気にもなれない。

「取り敢えず、分かった事は一つだ。あのボボナの実は絶対に採れない」

 溜息交じりのツバキの言葉により、この場にいる全員の肩が同時に下がる。これだけいれば採れるだろうと踏んでいただけ、この結果は残念極まりない。

「このボボナの実は諦めるか?」

「……その方がいいだろうな」

 攻略する方法が思い浮かばないので、あのボボナの実を手に入れるのは諦める方が賢明だろう。

「じゃあ、別のボボナの実でも探すか。別にこれだけって訳でもないだろ」

「……そうだな」

 ツバキはここで解散を提案するのではなく、新たなボボナの実を探す事を提案する。パーティーが違うのにここまでしてくれるのは本当にありがたいのだが。

「でも、これだけ大きくなった森を捜すとなると」

「……大変」

「……ですよね」

 あの終わりの見えなかった戦闘と運営の返事によって気力を削がれた俺達パーティーは正直探す気分ではなくなってしまっている。

「まずは休憩しよう。探すのはそれから」

「だよなぁ。オウカ達かなり参ってるしな」

 カエデの言葉によって、俺達は休憩してから別のボボナの実を探す事になった。休めば気力も回復してくれるだろう。

 …………運営よ、マジでふざけるなよ?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ