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 五色の光が完全に搔き消える。魔法のエフェクト故か、クレーターが出来ている。そこまでの高威力なのか。レベル1と魔法とはとても思えないな。

「……終わったか?」

 合体魔法を放ち終わったサモレッドがゆっくりとクレーターへと近付き、確認を取る。クレーターの上にイフリートが火の球を置き、更に見やすくなったそこにはローブの切れ端すらも存在していない。

 もうあのローブは完全に消失したのだろう。だが、そうなるとクエスト達成の旨を伝えるウィンドウが表示されないだろうか? それが出ないからこそ、サモレッドは警戒をしている。

「…………やるようだな」

 何もないクレーターからノイズ交じりの声が聞こえてくる。サモレッドは跳び退って構えを取る。

 クレーターの中心の土が盛り上がって行き、人の形を成していく。

「まさか、この体が壊されるとは思わなかったぞ」

 人の形になった土の表面が波打ち、瞬時にローブを羽織っているような造形を作り出す。色も土色から白と黒のマーブルへと移り変わっていく。

「……お前は不死身か?」

 サモレッドの問い掛けにローブは首を横に振る。

「不死身ではないさ。ただ、この土で作られた体は朽ちる事を知らないだけだ」

 くつくつと笑い、ふと視線をサモレッドから外す。

 その先にあるのは、靄が内部で生じている水晶玉だ。

「っ!」

 サモレッドはローブの視線に気付くが、遅かった。他のサモレンジャーの面々と召喚獣、俺もローブの意図に気付いて動いたのだがそれよりも早くに水晶玉を手にして一気に距離を取る。

「予定外の事は起こったが、目的自体は達成された。お前達に消えて貰うと言ったが、撤回させて貰う。今の私ではそうする為の力が足りないのでね」

 ローブの発する言葉はサモブルーの弓から放たれる複数の矢を避けながら紡がれる。

 力が足りないというのは、あの十晶石擬きがもう残っていないという事なのだろう。それがなければ流石のローブでもこの数を相手にするのは不利だと判断したか。

「さて、そうなると私は無様に退散を選ぶとしよう」

「逃がすと思うか?」

 サモレッドの言葉を合図に全員でローブを丸く取り囲む。これで間を縫って逃げ出す事は容易ではない筈だ。

「……ふっ」

 囲まれているというのに、ローブは鼻で笑う。

「何が可笑しい?」

「いや、無意味な事をするのだなと思ってな」

 ローブはその言葉を最後に、姿を掻き消した。一瞬で、それも一歩も動かずに。俺達が注視していたにもかかわらずに、だ。まるで瞬間移動したかのように。

「【陰身】スキルか⁉」

「……違う」

 サモレッドのいう【陰身】とは姿だけを消すスキルの事だ。ただ、気配は消す事が出来ず、そして自分よりもレベルの高い相手には意味をなさない。

 また、【陰身】スキルは誰にも見られていない状態でなければ発動する事が出来ない。なのでローブのレベルが俺達よりも高かろうともそもそもスキル発動が出来ないので【陰身】ではない。故にサモ緑は首を横に振って否定をする。


「ではな。また会う機会があるとしたら、その時こそ消えて貰おう」


 ノイズ交じりの声が森に木霊する。上下左右から同じくらいの音量で響いているので発信源が分からない。


『緊急クエスト【夜の森での攻防】を達成しました。』


『Point 462』


 ……これでクエストが達成されたようだ。【腐骨蛇の復活】とは違ってかなり消化不良な達成だな。あのローブが何者なのか? そして十晶石擬きと水晶玉が何なのか分からず仕舞いに終わってしまった。

「「「「「…………」」」」」

 追う事も出来ず、サモレンジャーの面々も納得していない雰囲気を醸し出している。

「……取り敢えず、どうするんだ?」

 俺はサモレンジャーに尋ねてみる。サモレンジャーは互いに目を交わし、代表してサモレッドが答える。

「……俺達は少しばかりここを調べる事にする。何かしらの痕跡が残されているかもしれないからな」

「そうか」

「オウカくんはどうするんだい?」

「俺は」

 クエストを進める為には俺も何かしら調べた方がいいのかもしれない。ただ、それはここではなくて集落の方がいいだろう。まずはあの十晶石擬きの事をフチに訊いてみるかな。

「集落に戻って情報収集をする」

「分かった」

「所で」

「ん?」

「合体魔法ってのは何だ?」

 俺は気になっている事を口にする。場の雰囲気からしても訊いても大丈夫そうな空気だったので。

「あぁ、合体魔法は俺達共通の隠れスキルだ」

「隠れスキルだったのか」

 通りで訊いた事がないと思った訳だ。

「そう。正式名称は【初級合体魔法】と言うんですけどね」

「同じスキルを持つ者とだけ違う属性の魔法を合わせる事が出来ますわ」

「説明文を見る限りだと、全属性の魔法を合体させる事も出来るらしいんだけどね。今の私達だと五属性が限界なんだよ」

「……他の魔法を習得すれば、召喚獣と合わせて全属性複合魔法が放てる」

「まぁ、その代わり尋常じゃないくらい精神力を消費するんだけどな。何時もは消費精神力軽減のアクセサリつけてカバーしてるんだけど、今回はそんな事出来ずにもうすっからかんだ」

 流石に相応の代償も必要か。ただ、魔法を合体させる事が出来れば、色々と攻撃の幅が広がるし、特にサモレンジャーのように五人全員が違う属性も魔法を使うのならばどのような場面でも対処出来そうだしな。

「あと、僕達はもう一つ共通の隠れスキルを習得してましてね」

「その名も【共鳴魔法詠唱】ですわ」

「召喚獣と一緒に魔法を発動するの」

「……威力や効果は倍以上に増幅する」

「だが、こちらもやはり精神力の消費が馬鹿にならないがな」

 もう一つ隠れスキルを習得していたのか。そう言えば魔法の詠唱の時少し言葉を足していたな。確か『司りし者』だったか。それを詠唱に挟めば自動でそうなるのだろうな。

 そして、先程の魔法を見る限り、【初級合体魔法】と【共鳴魔法詠唱】は同時に発動する事が出来るらしい。これによって威力が尋常じゃないくらいに上がった魔法をぶっ放せるという訳か。

 まるで戦隊ヒーローの合体必殺技みたいだな、サモレンジャーにぴったりの隠れスキルだ。

「あっ!」

 と、サモレッドが急に声を上げる。どうしたのだろうか?

「そう言えば、未だにオウカくんと俺達はフレンド登録をしていなかったな」

「確かに」

 サモレンジャーとは全くフレンド登録をしていなかったな。初めて会った時は最終的にリトシーとの触れ合い会(サモレンジャー四人限定)になっていて、その後は直ぐに消えて行ったから機会を逃していた、と言うのもあるか。

「折角の機会だし、しておきましょうよ」

 サモブルーの発案で、俺とサモレンジャーはフレンド登録をしていく。俺が申請画面を出そうとするよりも早く五人が即行で俺に申請を送ってくる。


『マサトからフレンド申請が届きました。

 プレイヤー:マサトとフレンド登録しますか?

 はい

 いいえ                  』


『タケシからフレンド申請が届きました。

 プレイヤー:タケシとフレンド登録しますか?

 はい

 いいえ                  』


『ケイコからフレンド申請が届きました。

 プレイヤー:ケイコとフレンド登録しますか?

 はい

 いいえ                  』


『マオからフレンド申請が届きました。

 プレイヤー:マオとフレンド登録しますか?

 はい

 いいえ                 』


『リンコからフレンド申請が届きました。

 プレイヤー:リンコとフレンド登録しますか?

 はい

 いいえ                  』


「って、ちょっと待て」

 プレイヤー名が可笑しい事になっているのは気の所為か? いや、気の所為ではない。

「ん? あぁ。プレイヤー名の事かい?」

 俺の疑問を察したサモレッドが軽く笑いながら説明してい来る。

「そこに表示されているのが俺達の本来のプレイヤー名だ。名乗っているのは言わばコードネームさ。ほら、日曜の朝やってる戦隊モノでもそうだろう?」

 確かに、そう言われれば納得してしまうな。戦隊ヒーローは変身している時だけの呼び名がある。

……そう言えば、休日があるとか言っていたな。もしかしてオフの日は完全に普通のプレイヤーとしてSTOを遊ぶのあろうか? そこだけは少し気になるが、別に質問する事でもないな。

「因みに、俺がタケシだ」

「僕がマサト」

「ワタクシがマオですわ」

「私がケイコ」

「………………………………リンコ」

 サモ緑だけがやけに長い間を取って紹介したな。別に消去法で最後に残ったのがサモ緑の本名だと分かったのだが。何かあるのだろうか?

 まぁ、深く気にせずに次々とフレンド登録していこう。


『プレイヤー:リンコとフレンド登録しました』


『プレイヤー:マオとフレンド登録しました』


『プレイヤー:ケイコとフレンド登録しました』


『プレイヤー:タケシとフレンド登録しました』


『プレイヤー:マサトとフレンド登録しました』


「さて、これで俺達とオウカくんはフレンドだ!」

「何時でも気軽に連絡が取れるようになりました」

「ですので、何かあれば連絡して下さいまし」

「直ぐに駆けつけるからね!」

「……助け合いは大事」

 俺の眼をじっと見てサモレンジャーは口々にそう言ってくる……リースを連想させるな。本当にボイスチャットを使ったら直ぐに来たリースの姿が鮮明に思い起こされる。

「…………その時は、頼む」

 そう言って俺は【鳥のオカリナ】を吹いて鳥を呼び寄せる。

「……ピー」

 眠たそうに鳴く鳥の眼はトロンと下がっている。

「眠い所悪い。集落まで乗せて行ってくれ」

「……ピー」

 明日になったらカリカリビーワスフレークをあげようと誓いながら、鳥の背中に乗る。

「じゃあ、またな」

「おぅ!」

 サモレンジャーに別れを告げて、俺は集落へと向かう。

 鳥は一直線に……ではなく眠気によってふらふらと揺れながら上へと飛んで行く。

 ………………贅沢は言ってられない。鳥は眠いのを我慢して俺を集落に連れて行ってくれるんだ。それだけでも感謝しなければならない。

 何時も以上に時間が掛かりながらも集落に辿り着いた俺は転げ落ちてグロッキー状態を少しでも和らげようと何も考えずにただただじっと横たわる。

「……………………」

 三十分以上は掛かっただろうか? 漸く酔いが収まったのでマップを開いてフチの家へと向かう。

 何気なくメニューを開いてゲーム内時刻を確認すると、午前零時に差し掛かる所だった。流石にもう夜遅いので訊くのは明日の朝にするとするかと思いながら扉を開ける。

「ただいま」

「「「「「「…………」」」」」」

 入った瞬間に全員の視線が俺に突き刺さる。

「……どうした?」

「オウカ君。そこに正座」

 疑問に思った俺の言葉が引き金となり、説教が始まった。

 ……そう言えば、何の連絡もせずに外に出たんだったなぁ、と思い出しても後の祭りだった。



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