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 フチに頼まれてその跡地と言う所へ赴く事になった、のだが。そろそろ鳥におやつでも上げないといけないよな。もう何往復もしてくれている訳だし、そもそもは謝罪の意味を込めて作ると言ったのに全くの手つかずだ。

 いや、食材アイテムも調理器具も無かったから仕方がなかったと言えば仕方がなかった。が、今はその両方を持っている。ただ、調理器具は武器用のだけだし、食材アイテムは【ビーワスの身肉】に【ボスワスの身肉】だけだ。

 相手が鳥なのでそのまま生で上げてもいいのかもしれない。

「あの子達は虫が大好物です。特にカリッカリの奴で、柔らかいのはそんなに好きではないですね」

 と、神殿を去る際にフチに訊いてみたらそのような事を言っていたし。

 それでも、この身肉と言うのはどちらかと言えば海老の身と同じでカリカリではない。現在俺の右手に置かれている身はまさにそうだ。ぷりぷりという言葉が相応しい。あまり鳥の好みの食感ではなさそうなので、やはり火を通して少しでもカリッとした方がいいだろうな。

 ただ、その為にこの武器用の調理器具での調理となってしまうが。

「仕方ない、か。このフライパンと包丁で」

 発着地点の隅っこでフライパンを下に置き、【ビーワスの身肉】をその上で切り分けていく。出来るだけ薄く切って細切れにし、火を通りやすくする。また薄く細かくする事で焼いた際に少しでもカリカリになりやすい……筈だ。表面積とかそこらへんが影響してくれるとありがたいな。

 やっている途中でフチの家の台所を借りればよかったな、と思ったが後の祭りだ。今から戻るにしても、調理途中のフライパンを持ったまま行く事になるし、奇異の眼差しを向けられるだろう。

 まぁ、もう向けられてしまっているが。あちこちから視線が突き刺さってくる。一応パーティーメンバー全員に囲んで貰って壁を作って貰っているが、それが逆効果を生んでしまっている気がする。

「フレニア、ちょっと火吹いてくれるか?」

「れにー」

 それを気にせずにフレニアに火を出して貰う。枝とか葉に燃え移らないように注意して貰いながらその日の上でフライパンを振るっていく。空中に舞う身肉は直接火で炙られるような形になる。

 段々と甲殻類に似たような臭いが漂ってきて食欲をそそって来るが、これは蜂の肉だからもし食べるとなると抵抗感がある。地方によっては蜂を食する所もあるが、生憎と俺は食べた事が無いので。

 あと、この肉かなり火の通りが速いようで直ぐに色も変わって白から狐色になる。そのまま十秒くらい焼くと更に焦げ目も付いてくる。多分、もう大丈夫だろうと思い火から下ろす。


『カリカリビーワスフレークが出来た!』


 無事カリカリに仕上がり、フライパンの上のカリカリ軍団は光となって胸の中へと仕舞われる。メニューを呼び出して説明文を見てみる。


『カリカリビーワスフレーク:細かく切ったビーワスの身肉を焼いてカリッと仕上げた一品。味付け無し。体力が10%回復する』


 体力もきちんと回復する料理アイテムになったか。これなら鳥のおやつにもきちんと出せるだろう。

 折角なので、もう【ビーワスの身肉】全部を一つ残して【カリカリビーワスフレーク】へと変貌させる。今回は黒焦げとか半生とかにはならず、全てがカリカリとなる。これで先程貰った【ハニートレンキクッキー】と合わせて体力回復アイテムの総数が20となった。

 ここで【ビーワスの身肉】を一つだけ残さずに全て料理しておけば手間が省けるのだが、そうするとアイテム所持制限に引っ掛かってしまうのだ。回復アイテムは生命力、体力、精神力の三つ分類があり、それぞれ最大で20個しか所持が許されていない。また、回復量の多いアイテムはそれとは別の所持制限も課せられるそうだ。なので、1個だけ残す結果となった。同じ回復量の【こんがりアギャー肉(骨付き)】より持てる理由は分からないが。

 サクラやアケビに渡せば空きが出来て作れるのだが、女性に虫料理を渡すのはどうかと思うのでやらない。

 兎にも角にも、鳥好みの料理が出来たので、【鳥のオカリナ】で喚ぶ。折角なのでサクラとアケビを運んでくれる鳥達も呼んでもらい、お裾分けをしようか。サクラとアケビにも笛を吹いて貰い俺達の前に三羽の鳥が舞い降りる。

「ほら、少し遅くなったけど、お前の為におやつ作った。あの時は悪かったな。そして、色々と気を遣わせてすまない」

 俺は先程作ったフレークを二つ取り出して鳥の前に置く。何故か入れた覚えもないし持ってもいない容器に入っていたのだが、そこはゲームだからと考えた方がいいだろう。

「ピー!」

 鳥は一声鳴くとそのままがつがつと食い始める。

「で、これはお前たちの分だ。運んでくれてる礼だ」

 同様に二羽の前にもフレークを二つ用意する。

「「ピー!」」

 ものの数分で完食。空になった容器は光となって消えて行った。

「「「ピー!」」」

 三羽は満足そうに鳴く。満足していただけで何よりだ。


『クエストを達成しました。

 これにより、クルルの森に向かう際、指定した場所に直接行く事が可能となりました。

 Point 222                      』


 そしてクエストクリアの表示が出るのと同時に、これで好きな場所へと行けるようになった。毎回森を徘徊しなくても済むようになったな。時間短縮に繋がる。

「で、食べ終わったところ申し訳ないが、また乗せてくれないか?」

「ピー」

 俺の言葉に鳥は一鳴きすると力強く頷いてくれる。

「ありがとう」

 すると、俺の目の前にウィンドウが現れる。


『行先を決めて下さい』


 どうやらクルルの森のマップのようで、該当箇所をタップすれば、そこへと飛んでくれるようだ。

 俺は森の中央よりやや南東方面にある、少し開けた空間をタップして選択する。フチに言われてマーカーを付けた場所だ。


『ここでよろしいですか?

 はい

 いいえ        』


 選択した箇所が赤く光り、そこで間違いがないのを確認して『はい』をタップする。

「じゃあ、頼むな」

「ピー!」

 俺達はそれぞれ鳥に乗り、森に向かって飛び立つ。

 酔わないように考慮してくれている滑空により、案の定俺が最後に到着したが、場所指定が出来るようになった為に別々の場所に降り立つ事は無く、全員が同じ場所に集合する事が出来た。

「ありがとうな」

「ピー!」

 ここまで運んでくれた三羽に礼を述べ、飛び立っていくのを見送る。

「……さて」

 改めて、跡地とやらを視界に入れる。

「ここって」

 サクラが奥に鎮座している巨大な岩を目にする。

「前にケーキ作った場所……ですよね?」

「そうだね」

 サクラの問いにアケビが頷く。

 まさに以前石窯でケーキを作った場所だ。来るまで気付かなかったのはあの時はアケビの先導プラス道なりに歩いて来たのでマップなぞ確認しなかったというのもある。それに加えて目的地選択のマップでもセーフティエリアである道から続いた空間である事は確認出来ていたが、そのような空間は他にもいくつか存在していたので、まさかここだとは思いもよらなかった。

 ここだけ一切の木が生えておらず、奥の方に岩が鎮座しているだけ。それ程に殺風景な場所は確かに跡地と言うのに相応しいのかもしれない。

 で、何の跡地かと言えば、フチに訊いた所とあるモンスターとの戦いの跡地、だそうだ。

 今から百年程昔に【妖精の十晶石】の力が今とは真逆――つまり力を失った時に集落へとモンスターが攻めて来たそうだ。その中でも、一番強力なとあるモンスターがここを陣地として次々と配下のモンスターを送っていたらしい。

 セイリー族とモンスターの全面戦争となり、犠牲が多く出たが辛くも勝利を収めたそうだ。

 更に、ここにはそのとあるモンスターの亡骸が埋められているそうだ。そんな場所に力が渦巻いていると只事ではないので、確かめて来て欲しい、との事だ。

 ならセイリー族自身が直接来て確認すればいいだろうに、と思うかもしれないが、それが出来ないそうだ。何でもとあるモンスターを埋めた後、どういう訳かセイリー族だけはこの場所に近付けなくなったそうだ。正確に言えば、近付けば何時の間にか集落に戻るという不可解な現象に逢うらしい。なので、ここの調査はセイリー族には不可能となっている。恐らく、その死したモンスターの呪い、とでもいう奴なのだろうと勝手に考える。

「さて、ここに来てみたが、特に変わった様子は見受けられないな」

「そうですね」

「そうだね」

 俺達は中央へと向かいながら辺りを確認する。一見すると変化なんぞなく、力が渦巻いている様子なぞ見受けられない。その力とやらも、人間が視認出来るものでなければ確認のしようも無いのだが。

 リトシー達も特に違和感が無いようで頭に疑問符を浮かべながら進んで行く。

「……となると、怪しいのはこの岩か?」

「そうですね」

 自分の体が小さくなると、この岩の巨大さが嫌でも目に付くな。岩山とでも表現する程に大きい。登るとなると軽く登山の感覚だろう。

「うおっ」

 と、岩に近付くと地響きがこだまする。振動も襲い掛かって来て、俺達はつい尻餅を突く。

 一回、二回、三回と回数を重ねるごとに間隔が小さくなっていく。その地響きというのも、あの巨大な岩の下から聞こえてくる。

「な、何なんでしょうか?」

「分からない」

 サクラとアケビは岩を凝視する。俺はと言えば、振動のあまり酔って来てしまい、地面を向いてしまう。場違いな感想を抱いているのは自覚しているが、それでも気持ちが悪く……まともな思考が出来なくなっていく。

「「っ⁉」」

 二人が息を飲むのと同時に、振動が止む。それと同時に崩れ去る音が……。

「……え」

 顔を上げれば、岩が粉々に砕け散り、雪崩のように破片がこちらへと向かってきているのが眼に入った。逃げないと巻き込まれてしまうというのは分かっているが、生憎と走って逃げられる程は変の進行速度は遅くもなく、それ以前に酔っていて満足に動けない。

 これは、死に戻りだな。

「ピー!」

 と思っていると何かが俺の襟を摘まんで体が空へと放られ、放物線を描きながら柔らかなものにぶち当たる。この感覚、そしてあの鳴き声からして、どうやら何時の間にか戻ってきた鳥の背中に乗ったようだ。同様にリトシーも乗せられ、鳥は一気に飛び上がる。

 皆はどうなったのか? と酔いを無理矢理押し込めて辺りを確認すると、サクラもアケビも、フレニアもきまいらもギザ葉も同様に鳥の背に乗って空に逃れていて、岩雪崩に巻き込まれてはいなかった。

 それにほっと息を吐いていると、異臭が鼻を掠める。この森の中に相応しくない、すえたような臭い。


「フしュァァアアアああアアアアアアアアアアアあああああアアアアアアアアアアアアアああアアアアアアアアアあアアアあアアアアアアアアアアアああアアアアアアアアアアアアアアああアアアアアアアアアアあああアアアアアアアアアアああああああアアアアッ‼」


 空を轟かす大音声。所々掠れていて息も絶え絶えと思えるその声の主を探して下を見る。

 探すまでも無く、その主はこちらに顔を向けていた。

 腐った大蛇。体の半分以上が未だに岩の中に埋められているその身体の肉の大部分が腐敗し臭気を放っており、肉が完全に落ちた部分からは骨が露出している。酷く濁った右眼には赤い光が宿り、もう片方には虚ろな穴だけが取り残されている。

 大きさに関しては【縮小化】の呪いが無くても自分の何倍も大きなモンスターだというのが分かる。呑み込むという即死技を持つセレリルなんて逆に一呑みにされてしまうだろう。それくらいにデカい。まるで映画や特撮の中だけで見る大怪獣そのものだ。

 これは、明らかに俺達だけではどうする事も出来ないと思い、目配せで一旦セイリー族の集落に戻る旨を伝え、二人は頷く。鳥も腐敗した大蛇の姿に怯えており、急いで集落へと向かって行く。


『あるパーティーの行動により【秘宝の異変】の進行度が一定値に達しました。

 これにより、全プレイヤーに緊急クエスト【腐骨蛇の復活】が発生します。

 緊急クエストを受ける意思のあるパーティーはクエスト発生からゲーム内時間で30分が経過するまでに神殿にお集まり下さい。』



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